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2008.01.16

「なでし いだてん百里」 まさに山風チックな

 地を撫でるが如き足の早さから「撫衆」と呼ばれる山の民。武田の家臣であった関半兵衛は、過去を捨て、天城の撫衆・半ベエとして暮らしていた。が、徳川と豊臣の決戦の機運が高まる中、各勢力は撫衆の力を利用すべく画策、半ベエもやむを得ぬ仕儀から、その一つ・真田の策に力を貸すこととなる。地雷火百里…遠く江戸まで地雷火を運搬することとなった半ベエを待つものとは…

 山の民を主人公とした作品といえば、近年で言えば長谷川卓氏の諸作が浮かびますが、本作はそれよりも遙か以前に書かれた山田風太郎先生の初期作品「いだてん百里」を原作としたコミックです。

 撫衆という、その脚力を武器とした非常に特異な存在を主人公とするだけに、その能力の発露を如何にビジュアライズするかというのは重要な点ですが、本作においては、些か粗くはあるものの、躍動感とスピード感溢れる絵で半ベエの活躍を描き出しており、まずはラストまで、一気に読むことができました。

 ここで恥を忍んで白状すれば、私は原作は未読なので、そちらと比べてどう、というのは言えないのですが、起伏と意外性に富んだストーリー展開には、大いに驚きかつ楽しませていただきました。
 特に、終盤で明かされる地雷火百里の正体にまつわる、皮肉かつミステリ的興趣に富んだどんでん返しは、まさに山風チックな味わいがあったかと思います。
 そして――その衝撃の中から立ち上がった半ベエの一大反撃は、痛快であるとともに見事に撫衆の設定を生かしたものとなっていたのには感心いたしました。

 一般のファンにとっては、忍法帖、あるいは明治ものの印象が強すぎる山風先生ですが、しかしその初期作品には、ミステリ味の強い、あるいは本作のようにミステリ的アイディアを巧みに生かした作品も多く存在しています。
 本作のような形で再生されることにより、初期作品がより多くの方の目に触れてくれれば…と願う次第です。


「なでし いだてん百里」(岩田やすてる&山田風太郎 リイド社SPコミックス) Amazon

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コメント

興味はあったんですが、大文字アルファベット羅列の山風原作というだけでトラウマが蘇ってしまいスルーしてました。ヒロインが無茶苦茶かわいくてぷりんぷりんしてましたが、絵だとどんなかんじかなー。

投稿: 吉梨 | 2008.01.16 22:42

もうそろそろあの作品のことは忘れるんだ。

というか私は原作は読んでないのでアレなんですが、十分単体で楽しめたと思いますよ。絵はあまり期待しない方がいいと思いますが…

投稿: 三田主水 | 2008.01.16 23:45

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