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2008.01.03

「徳川風雲録 八代将軍吉宗」 大作ではあったけれども…

 時代劇ファンにとっての新年のお楽しみは、といえば、やはりテレビ東京の新春ワイド時代劇。しかも今年は柴錬先生原作ということで楽しみにしていたのですが…一部分を除いて、ちょっと微妙だったなあ、という印象が強くありました。

 物語は、大きく吉宗パートと天一坊パートと二つに分かれる中で、その前者がどうにも微妙。基本的に五代~八代将軍の幕政史なので、さしてストーリーに新味があるわけでもなく、またキャスティング的に面白いわけでもなく…
 特に、主人公たる吉宗を演じた中村雅俊が――こういうことを書くのは嫌なのですが――華がないことおびただしい。人間吉宗を描くというコンセプトだとは思うのですが、人間味があるのと情けないのは別でしょう。息子が大変になっているのに田中美里とイチャコラしている場合か! などと突っ込みを入れたくなってしまいました。
 さらにファンの方には大層申し訳ないことではありますが、内藤剛志が宿敵役というのもちょっと――柴錬作品で言えばむしろ主人公の忠実なお供の忍者顔だよなあ、という印象なので、最後まで違和感が拭えませんでした。

 が、そんな微妙な印象の本作の中で、一人大いに好印象だったのが、吉宗の青年時代と天一坊を演じた内田朝陽の好演。
 柴錬作品の倨傲な美剣士的ビジュアルもさることながら、天一坊として、己の出生を知らず、それ故に己を小悪党と思いこむことでアイデンティティとしようとしていた暴走ぶり、そして一転、己の父が天下の将軍・吉宗と知った際の周章狼狽ぶりなど、若さ故の未熟さが、うまく演じ出せていたと思います。
 己の若さ故に道に迷い、やがて自滅していく青年というのは、柴錬作品にしばしば登場しますが、それをしっかりと体現していたと感じました。

 また、その彼を初め弟の仇と付け狙い、そしてそれが彼を真人間への道へと導くこととなるヒロイン(と言い切る)春菜役の星野真理さんも、凛として、しかし儚げな姿が柴錬ヒロインチックで大いに良かったと思います。

 もっとも、その若いカップルの姿が瑞々しく描かれていればいるほど、結末は何とも苦く哀しい――というより後味悪いものになるのですが…
(そんなラストでただ一人男を見せたのが、大地康雄演じる大悪党・雲霧仁左衛門だったというのが面白いところ)

 結局のところ、確かに大作ではあったものの、十時間という長さを持て余して、二つのパートがうまく融合できなかった感はあり――その点、同じ原作を、南原幹雄先生の「御三家の犬たち」とミックスさせてしまった86年の「徳川風雲録 御三家の野望」は、無茶苦茶やったようでいて、なかなかうまいアイディアだったと思います――キャスティングの微妙さと相まって、個人的にはすっきりしない作品でした。とはいえ、前述の通り内田朝陽がもっともっと時代劇に出て欲しい役者さんとわかったのは何よりの収穫。これからの活躍に期待したいと思います。


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