「九十九眠るしずめ 明治十七年編」第二巻 凄惨な過去の中の行動原理
明治伝奇アクション「九十九眠るしずめ」の新章第二弾、通算第五巻目が発売となりました。鬼の金輪の力を手にしたしずめ、そして九十九神・朱雀の力を宿したトラゲンの前に、強敵白虎、そして青龍が現れます。
鹿鳴館を襲撃した怪人物から伊藤博文を警護することとなったしずめとトラゲン。強大な九十九神・白虎を宿したその男と対峙したしずめとトラゲンですが、白虎の男はトラゲンと旧知の間柄――その名は日向内記。白虎隊の中二番隊頭でありながら食料調達中に行方不明となり、その間に飯盛山で少年兵士たちが切腹することになった人物であります。
白虎で白虎隊、というのは、考えてみれば当然の連想ではありますが、しかしここで日向内記を持ってくるとは、ちょっと驚かされました。
そして、子供の頃内記に可愛がられていたトラゲンにとって、内記の存在は、己の運命を一変させた、戊辰戦争での凄惨な記憶を思い出させるものとして描かれるのですが…
ここで話がちょっとわき道に逸れますが――実はこれまで本作を読んでいて、一つだけ不満な点がありました。それは、登場人物の行動原理の中に、今一つ、明治ならではのものが見えなかったことであります。
漫画であろうと小説であろうと、ある過去の時代を舞台にするのであれば、単にその時代の人物を登場させる、その時代ならではのネタを使うだけではなく、登場人物の大きな行動原理に、その時代ならでは、その作品ならではのものを求めたい――さらに言えば、優れた時代ものは、この行動原理がしっかりと示されたものだと、私は思っています。
本作においては、主人公たるしずめが現代っ子的キャラクター…というより、「戦後世代」ということもあってか、明治ならではの行動原理、言い換えれば明治ならではのドラマというものがあまり感じられなかったのですが、ここでトラゲンの強烈な過去が描かれたことで、一気に時代ものとしての存在感が増したように思えます。
そして展開されるクライマックスの朱雀対白虎の死闘は、ともに会津での凄惨な過去を背負いながらも死に場所を失った者同士の激突で、迫力十分。トラゲンの情念迸る叫びが――あまり高田裕三らしくない台詞回しでもあって――胸に迫りました。
(ちなみに…史実では日向内記は鶴ヶ城籠城戦にも参加して天寿を全うしているので、大胆といえば大胆な脚色(というより本当は反則)なのですが――しかし卑怯者の汚名を着せられたままであった後半生を思えば、本作での最期は、これはこれで救い…かなあ?)
さて、続く青龍編では、トラゲンの上司たる斎藤一とは因縁の人物が、死から甦って登場。超メジャーなこの人物に、どのような行動原理を用意してくれるのか、期待しています。
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