「大帝の剣」第一巻(漫画版) 描写は一流だけど…
一体何がそこまで駆り立てているのかさっぱりわからないのですが――いや、ファンとしては非常にありがたい話ではありますが――この何年か「大帝の剣」を猛プッシュしているエンターブレイン社。その一環とも言うべきコミック版「大帝の剣」の単行本第一巻が発売されました。
作画を担当しているのは、お隣韓国の漫画家・渡海氏。恥ずかしながら氏の作品を読むのはこれが初めてでしたが、相当精密な、むしろイラストレーション的な作風の方で、まず絵柄としては一流の部類に入るかと思います。
内容的には、原作第一巻の冒頭、野伏せりにさらわれた娘の救出を請け負った主人公・万源九郎が、その爆発的なパワーでもって相手を一掃する一方、そこからほど近くでは、訳ありの若い女性を巡り、追う者と追われる者が熾烈な死闘を展開。そしてそこに天空から落ちてきた巨大な流れ星が――という辺りまで。
…これ、原作をご覧になっている方であればよくおわかりかと思いますが、原作で言えば本当に冒頭も冒頭、プロローグに当たる部分で、この部分だけを一冊かけて描くのはいかがなものかしら、と心配になってしまうのですが、原作も超スローペースなのでそこはまあ良いのでしょう(…良いのかなあ)。
それよりも何よりも気になるのは、主人公の源九郎が、ビジュアル的にどうにも格好良くないというか、どうも原作のイメージと異なるのです。源九郎というキャラクターの何よりも強烈な個性であり魅力である、その圧倒的な肉体のパワー、質量というものが感じられないのが誠に惜しい。といいますか――色々な意味で失礼な表現で恐縮なのですが――土工のおじさんっぽく見えてしまうのですよね。
穿った見方をすれば、渡海氏の画の写実的な作風と、源九郎の超現実的な肉体がうまく噛み合っていないのかもしれませんが――
上記の通り、画的には高水準なだけに、この点が実にもったいない、というほかありません(そういう意味では、板垣恵介先生は本当に素晴らしい)。
物語はこの先、源九郎も霞むほど個性豊かなキャラクターが次々と登場することになりますが、さてそれがどのように描かれることとなるのか。色々な意味で期待しつつ、注視したいと思います。
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