「雨柳堂夢咄」其ノ十二 また会う日まで…
実に約二年ぶり、「雨柳堂夢咄」の最新第十二巻が発売されました。不思議な骨董ばかりが集まる雨柳堂と蓮くんとの再会を、待ちこがれていたのは私だけではないと思います。
今回はいつもよりも多い全九話が収録されている本書ですが、内容の方も実にバラエティ豊かで興趣に富んだものばかり。その中でも特に私の印象に残ったエピソードは、怪奇色の濃厚な「百物語の夜」と「禍禍しいもの」の二篇でした。
前者は、怪談マニアの担当作家に引きずられて怪談会に参加した編集者が語った物語が、思わぬ騒動を引き起こす顛末を描いた作品。
怪談会という実に魅惑的な場を舞台にした物語が、果たしてどのような形で雨柳堂に絡んでくるのか、という興味もさることながら、物語に登場する「骨董品」には唸らされました。
いかにもいわくありげなその品の、ロマンチックで同時に恐ろしいという、相反する要素を抱えた正体を知った時には、語り手同様、思わずはっとさせられた一方で――直に自分の目で見てみたいと思ってしまったのは、既に魅入られてしまったのかもしれません。
魅入られるといえば、持ち主が次々と不幸に見舞われるという掛物に魅入られた青年の姿を描いた作品が「禍禍しいもの」。
持ち主を不幸にする、呪われた骨董品というモチーフ自体は、言うまでもなくありふれたものではあります。しかし、実家が没落してジゴロまがいの生活を送る青年が、その画と再び出会って以来、静かに、しかし着実に追い詰められていく様は、その呪いの姿が直接的に描かれないだけに、一層重苦しく生々しい感触で迫ってきます。
さて、この二篇に限らず名品佳品揃いの本書を楽しんだ後で、その気持ちが、大げさに言えば一転させられるのは、巻末の作者の言葉を見たときでしょう。遠回しな言い方ではあるにせよ、本作の実質的な終了宣言とも取れるその言葉には――現在掲載誌に別の作品が連載されていることを知っていても――さすがに驚かされました。
もちろん、これで終了と明言されたわけではなく、同時に再開への含みも持たせられているのわけであって、ここは慌てず、ゆったりと再開を待つべきなのでしょう。
波津先生の言葉にもあるように、雨柳堂は「どこかにあって日々営業しているような、そんな感じがする」存在。気紛れに足を運んだ先で店が開いているのを見つけるように、気がつけばまた描かれていた物語に出会うというのも、本作にふさわしい触れ合い方かもしれません。
もちろん、その日が少しでも近いことを祈っているところではありますが…
「雨柳堂夢咄」其ノ十二(波津彬子 朝日新聞社眠れぬ夜の奇妙な話コミックス) Amazon
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