「吸血鬼あらわる! 帝都〈少年少女〉探偵団」 吸血鬼の、その正体は…
面白そうな作品があればどんなジャンルでもどんなメディアでも飛びつくこのブログ、今回取り上げるのは楠木誠一郎先生の「帝都〈少年少女〉探偵団」シリーズから「吸血鬼あらわる!」。
明治時代を舞台に、帝都〈少年少女〉探偵団と、黒岩涙香率いる「万朝報」の面々が、帝都東京を騒がす吸血鬼事件に挑む児童文学であります。
年の瀬の帝都で続発する連続吸血殺人事件――被害者は美女ばかり、その首筋には噛み後が残され、体には一滴の血も残っていないという奇ッ怪な事件に黙っていられないのは「万朝報」と探偵団の面々。
しかし、その犯人と目される謎の異国人は、彼らの捜査をあざ笑うように、上野の国立博物館に展示された宝石「悪魔の血」強奪を予告してきます。探偵団は、宝石を守り、姿なき怪人を捕らえるため博物館に乗り込みますが…
さて、本作のキモはもちろん、この、吸血鬼と、主人公たちとの対決にありますが、ちょっと驚かされたのは、登場する吸血鬼の造形が、ほとんどドラキュラ写しであること。
それどころか、一連の事件から犯人の正体を推理する際に涙香先生が持ち出してきたのは、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」…メタというか何というか、失礼ながらちょっとこれは安直なのでは――そう思った時期が私にもありました。
それに加え、探偵団が街を往けば吸血鬼に出会ったり、ポッと現れたキャラの言葉で事態が動いたり…といった展開には、やっぱり子供向けだからなあ、と苦笑していたのですが――ごめんなさい、私がバカでした。
中盤以降、探偵団対吸血鬼の怒濤の対決の中で、そしてその果てに明かされる真実は、この違和感の一つ一つに、ミステリ的答えるものでありました。
その最たるものが、吸血鬼の正体。冷静に考えれば、思い切り反則技ではあるのですが、しかし、一読「だからか!」と唸らされた、むしろ痛快ですらある大どんでん返しでありました。
一個の作品としてみると、探偵団や「万朝報」の一人一人の個性が薄いという弱点はあるのですが、さすがにページ数の制約もあるということで、それはまあ置いておきましょう。
何よりも、全く予想もつかなかった手で、古き良き少年(少女)探偵の世界と、ホラーモンスターを結びつけて見せた離れ業に、敬意を表したいと思います。
シリーズの続編には、「透明人間あらわる!」「人造人間あらわる!」と、これまた挑発的なタイトルな作品があるようで、こちらもチェックしなくては…と考えている次第です。
(しかし、まさか毎回同じオチではあるまいな…)
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