「悪忍 加藤段蔵無頼伝」第一巻 今泉伸二の新境地!?
加藤段蔵、飛び加藤と言えば、上杉謙信や武田信玄の周囲に出没し、遂にはその技を恐れられて討たれたと伝えられる人物。忍者の得体の知れない部分、ネガティブな部分の象徴のように扱われる存在であり、フィクションの世界でも、大抵は主人公の敵役のイメージがついて回るキャラクターです。
その加藤段蔵を主人公として真っ向から描いた海道龍一朗先生の原作を漫画化したのが、この漫画版「悪忍」です。
キャラクターイメージ、そしてタイトルが示すように、本作で描かれる加藤段蔵は、紛うことなく大悪党。盗む、殺す、強請る…およそヒーローらしくない言動の段蔵は、この世の裏の世界、影の世界で生きる忍びたちからも、「外道」と忌み嫌われ、そして懼れられる存在であります。
しかしそんな彼の存在が、しかし、決して不快には感じられないのは、彼が相手にするのは、あくまでも自分と同じ悪党や、富める者強き者――今風に言えば勝ち組――であり、そして自分自身の命を(文字通り)的にしているからなのでしょう。
友達にはあまりなりたくないが、しかし目が離せない…段蔵は、そんな魅力的なピカロ(悪漢)であります。
さて、その段蔵を、その原作を漫画化したのは、あの今泉伸二先生。私らの世代としては、やはり「空のキャンパス」が真っ先に浮かびますが、相当に意外な組み合わせです。
しかし、このミスマッチ感すら漂う今泉先生の描く段蔵が、なかなかよろしいのです。この第一巻に収録されているのは、原作の第一章と第三章の途中までに相当するエピソードですが、その内容を忠実に漫画化――するのは、まあ当たり前として、原作にはなかったような、段蔵のキャラ立ての描写が実にうまい。
第一話ラストの、段蔵に返り討ちにされた女の子供のエピソードなどは、段蔵を甘く見せるギリギリのところで踏みとどまりながら、きっちり今泉節も効かせたナイスなアレンジだと思います。
もっとも、絵的な面では、まだまだ違和感があるのは事実。失礼を承知で言えば、時折、荒々しい絵柄というより、絵柄が荒れているように見える部分もあって、そこが全くもって残念ではあります。
まあ、それは作者が新境地を我が物にするまでの産みの苦しみと思うべきでしょう。
物語の方はまだ序章、これからより一層原作とのシンクロ度を高めるであろう作者の手腕については心配していません。あとはただ、楽しむのみです。
…ちなみに本書の解説は原作者が担当していますが、ご自分のオタっぷりカミングアウトもあって、ファンは必見であります。
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