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2008.03.11

「柳生大作戦」第一回 今回の敵役は…

 タイトル発表以来、数多くの荒山ファンを笑いの渦に叩き込んできた「柳生大作戦」第一回が掲載された「KENZAN!」第五号が発売されました。早速、第一回の内容を…(ネタバレのみで構成されていますので以後要注意)

 物語の始まりは475年、朝鮮三国時代の中、百済は新羅と結んで高句麗と当たろうとするも却って高句麗に攻められ、国の運命は風前の灯火という状態。この国難を招いた百済王餘慶司(蓋鹵王)は、百済復興の霊的原動力を生み出す秘術の源として南漢山城地下の霊廟に後宮三千人の美女の「恨」を封じ、その扉を開ける鍵を王族に残します。

 そして時は流れて1592(天正12)年――秀吉の朝鮮出兵の最中のある晩、その南漢山城に近づく一団の姿が。それこそは石田三成と配下たち、その実、百済復興を目指して命脈を保ってきた秘密結社・百済党の面々でありました。
 実は近江百済党の党首であった石田三成は、同じく百済党の一員だった島左近と共に、一千年以上前に封じられた霊廟の扉を、再び開けようとしていたのでした。
 霊廟の中で三成を待っていたのは、この世のものとも思われぬ奇怪な事象…そして遂に三成が百済復興の霊的魔力を得ようとしたその時、百済党の中に潜入していた謎の剣士の手により、三成が完全に魔力を受け継がれるのは妨害されるのですが、しかし…


 というのが連載第一回のあらすじ。今回の掲載文は40数ページ、序章と第一部第一章の掲載ということで、正直なところ分量的には少なめな印象でありますし、まだまだどこが「大作戦」なのかは全くわからない状況です(まあ、「大戦争」だって第一回を読んだだけではどこが「大戦争」かわかりませんでしたが…)。
 しかし内容的には前作以上にバリバリの伝奇もの。滅亡の危機に瀕した百済をいつの日か復活させるため、安巴堅(またあんたか!)が遺した術の真の効果はまだわかりませんが、この人物(の名を持つ者)が絡んでくる以上、ただではすみますまい。

 そして今回の敵役になりそうなのは石田三成。三成が敵役の伝奇ものというのはさして珍しいわけではありませんが、「三成は実は…」「島左近が三成に仕えたのは実は…」「秀吉が明に出兵したのは実は…」と、お得意の「実は○○だったんだよ!」メソッド連発で、今後にも期待できそうです。
(今回は百済団じゃなくて百済党なのは、卍党あたりが念頭にあるのかしら。だって下忍の格好が…)

 その一方でタイトルの「柳生」ですが…実はこの第一回には柳生のやの字も登場しない状況で、今回はどんなオレ柳生が登場することになるのかというファンの期待は、お預けとなった格好なのが残念なところ。
 もっとも、名乗りはなくてもどうみても…な剣士が、三成の陰謀を挫くために登場しましたので、今後は三成一党vs柳生一門、という形になるのでありましょう。時代設定的には十兵衛が生まれる十年以上前でありますが、ということはボクらの大好きなあの柳生さんがバリバリの青年剣士だった時代なわけで――ゴクリ。
(SAKONさんも柳生と密接な関わりを持つ人ですしねえ)

 果たして予想通りあの柳生さんの若き日の姿が拝めるのか。そして彼は白いのか黒いのか? …という間違ったファン的な期待はおいておくにしても、朝鮮古代史と日本史を結びつけて伝奇的な事件を引き起こしてみせる荒山先生の筆は、既に円熟と言っていい域に達しており、純粋に時代伝奇小説として上々の滑り出しではないかと思います。

 正直なところ、前作に比べると今のところネタ分は皆無に等しいですが、もちろんタイトルがタイトルですし、また若竹とか飛び出してきかねないので油断はできないわけで――さて。


「柳生大作戦」(荒山徹 講談社「KENZAN!」vol.5掲載) Amazon

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コメント

すいません。
レンタルしているサーバーの調子が悪いみたいで、トラックバックの多重送信になってしまいました。
お手数ですが削除お願いします。

投稿: まさ影 | 2008.03.11 23:51

OK、しっかり削除しておきました。

しかし本当に荒山先生は秀吉好きですねえ…むしろ今後登場するであろう家康像が気になるところです。

投稿: 三田主水 | 2008.03.12 00:42


文章中の時代の切り替えが急で多少の読みにくさはありますが、読み進めるうちに点と点が繋がっていくので気付いたらこの世界観に引きづり込まれていました。

ただ、下巻117Pの加藤清正と福島正則の会話中の「~、あれは根に持つタイプだからな」など、時代にそぐわない言葉がたびたび見受けられる所は残念…。

投稿: タコ太郎Jr. | 2013.09.20 13:30

タコ太郎Jr. 様:
文庫化されたことで本作に触れる方が増えたようでとても嬉しいです。
ある意味、いや間違いなく相当の奇書ですが…
荒山ファンの一人として、楽しんでいただければ我がことのように嬉しいです

投稿: 三田主水 | 2013.09.29 20:54

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