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2008.04.30

「マーベラス・ツインズ 3 双子の運命」 久々にハードな古龍節

 第二巻のラストで、「そして、三年の月日が流れる――。」とあって驚かされた「マーベラス・ツインズ」ですが、三年後に行く前に、この第三巻では十四年前の事件が描かれます。主人公・小魚児とそのライバル・花無缺――二人の少年の出生の秘密、凄絶な過去の事件がここで初めて明かされることとなります。

 十四年前、絶世の美青年・江楓が愛し愛された相手は、武林の禁地・移花宮の召使い花月奴。しかし、彼女の主人である移花宮の大宮主・邀月公主とその妹の小宮主・憐星公主もまた、江楓を愛したことから惨劇が起きます。身重の妻を連れて逃避行を重ねる江楓の前に立ちふさがる邪悪な罠の数々。死闘の中で花月奴は男の子を産み落とします――それも二人の男の子を。
 言うまでもなくその二人が小魚児と花無缺。そしてある企みの下に、花無缺は移花宮に連れ去られ、小魚児は父の義兄である大英雄・神剣 燕南天に救い出されますが――運命の皮肉はまだ終わりません。

 江楓を裏切った男を追い、赤子の小魚児を連れて、全国の行き場を失った悪人たちが潜むという悪人谷を訪れた燕南天。その凄まじい武功をもって、五大悪人を向こうに回して活躍する燕南天ですが、しかし五大悪人の奸計は、彼の想像を上回り、遂に…

 と、凄まじいと言うも愚かな運命の変転の下、悪人谷の五大悪人によって、悪のエリートたるべく育てられることとなった小魚児。第一巻では、十四歳の小魚児が悪人谷から旅立つシーンから始まりましたが、そこに至るまでの物語が、この第三巻ではほぼ語り尽くされています。
 時系列から言えば、物語の最初に来るべき本書の内容が、この第三巻で描かれたのは、悪党の上ゆく大悪党でありながら無邪気な少年であり、そして英雄の気質をも持つ小魚児の特異なキャラを考えれば、理解を深め、興味を煽る意味で正解だったかと思います。

 それにしても今回の過去編が実に印象的なのは、十四年前に起きた、江湖の人々に知られることのない、しかし後々江湖を揺るがすこととなる事件が、一人の男と、彼を巡る三人の女の想いから引き起こされたものであることでしょう。
 江楓と花月奴の間の想いは言うまでもなく、邀月公主や憐星公主の抱いた想いも、また愛と言うべきもの。二人の公主のその想いが破れ、その果てに二人がとった行動は、その結果を思えば邪悪としか言いようのないものですが、しかし、その根底にある――人として、女として――やむにやまれぬ想いというものは理解できるように思えます。

 古龍先生の作品は、無茶苦茶をやっているようでいて、こうした男女の姿、特に女性の心理の綾を描かせると抜群にうまいのですし、それを物語の原動力にしてみせる手腕は見事なものなのですが、まさにそれがここでも発揮された感があります。
 主人公が主人公だけに、これまでの展開はちょっと(だいぶ)コミカルな面が出ていましたが、本書の過去エピソードは、また別の意味の、ハードな古龍節を堪能させていただきました。


 さて――生まれながらに二重に入り組んだ悪意を背負わされながらも、己の道を貫こうとする小魚児。彼がその生の真実にいつ気づくことになるのか…まだまだこちらはやきもきしながら見守ることになりそうです。


「マーベラス・ツインズ 3 双子の運命」(古龍 コーエーGAMECITY文庫) Amazon

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2008.04.29

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 隻眼vs隻腕

 前回はブチブチ言ってしまいましたが、やっぱり面白いです「Y十M 柳生忍法帖」。今週はいよいよ会津七本槍最後の一人、隻腕の剣鬼・漆戸虹七郎と十兵衛の大決闘であります。

 敵陣のど真ん中もど真ん中、厳戒態勢の公開処刑の場に単身現れた十兵衛。ある意味、これは最初に城に乗り込んだときよりも無茶なシチュエーションでは…と思いきや、そこで十兵衛が銅伯とおゆらを捕らえたとハッタリ発言。
 冷静に考えれば色々と無理がありますが、何よりも実際に十兵衛が自由になってその場にいることがなによりも説得力、それ以上に、十兵衛に「(決闘)やらないか」と言われて完全にその気になった虹七郎のおかげで、場はすっかり十兵衛ペースであります。

 そして始まる最後の決闘を見守るのは、逆さ磔にされて顔がアップになるとちょっと見分けのつきにくいほりにょの皆さんだけではなく、あんちゃあ娘やニセおとねさんのお菊さんと妹、さらに甲州流十面埋伏の計の謎の軍師さんまで、懐かしい顔ぶれ。
(こうして見ると、お坊さんたちは本当に死んでしまったのだなあ、とちょっとしみじみ…)

 そして、二人の間で徐々に高まる緊張感を示すかのように細かい、そして変則的なコマ割りの見開きページから――
 まさしく一閃! というほかない素晴らしいスピード感の一瞬の交錯…

 そして飛びすさった十兵衛と虹七郎、十兵衛の隻眼の上には、交わるように新たな傷が。さて、一方の虹七郎は…という、まことにニクい場面で、隻眼vs隻腕の決闘の決着は、次回にお預けに。


 いやはや、原作においてもこの決闘は、山風先生一流の筆でもって緊迫感溢れる名シーンだったのですが、それを漫画として咀嚼した上で再構築してみせたこの「Y十M」の方も、負けず劣らず見事な決闘シーンになったかと思います。

 これまで何度も書いてきたことではありますが、漫画という紙の上に固定された画のメディアでありながら、せがわ先生の画は、その中に確実に動きを感じさせてくれます(当然のようでいて、これをきちんとできている作品は存外少ないのです)。
 チャンチャンバラバラと派手に斬り結ぶシーンは、むしろ動きは見せやすいものですが、今回のように、一瞬の交錯の中に動きを感じさせるのは、存外に難しいもの。それを、このせがわ先生の筆は、見事に成し遂げていると言えます。

 …一瞬の、と言えば、ケイトさんのところの感想を読むまで、橋の上から虹七郎の剣をかわし、堀を越えて広場に跳ぶ十兵衛とという名シーンがあったのを完璧に忘れていましたが(なにやってるんですが自称原作ファンの三田さん)、そのシーンが抜けていても今回の満足度は非常に高かったと言えます。

 それにしてもあのサブタイトルは最終回まで取っておくつもりかしらん。それはそれでOKですが。

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2008.04.28

「厄介引き受け人望月竜之進 二天一流の猿」 手堅い面白さの連作集

 「耳袋秘帖」シリーズの成功でだいわ文庫の時代小説レーベルを定着させて以来、風野真知雄先生には文庫書き下ろし時代小説界の切り込み隊長的イメージを持っています。
 今回、竹書房で時代小説文庫レーベルが立ち上がるにあたっての第一作目も、やはり風野先生の作品。腕は立つが暢気な浮き草暮らしの浪人を主人公にした「厄介引き受け人望月竜之進 二天一流の猿」であります。

 主人公・望月竜之進は、一度に三人を相手にすることを想定した三社流を編み出した剣術の達人ですが、しかし教え方が厳しすぎて、何度道場を開いても、門人が逃げ出して潰れるばかりという有様。
 しかし根がどうにも暢気な竜之進は、むしろ旅暮らしの方が気楽で良いと諸国を放浪、行く先々で事件に遭遇して…というスタイルの、全五話からなる連作短編集であります。

 収録されているのは「二天一流の猿」「正雪の虎」「甚五郎のガマ」「皿屋敷のトカゲ」「両国橋の狐」と、いずれも動物にちなんだタイトルの物語。最終話を除けば、そのそれぞれに、誰でも知っているような江戸初期の有名人・事件が絡んでいる趣向で、ちょっとした伝奇風味も楽しい作品ばかりです。

 たとえば表題作の「二天一流の猿」は、かの宮本武蔵が剣法を仕込んだという猿にまつわるユニークな物語。その猿が預けられた剣術家のもとを訪れた竜之進が、こともあろうに佐々木小次郎の遺児がこの猿に挑戦状を叩きつけた、という珍事件に巻き込まれることになります。
 もちろんこれには裏があって…というのは当然のこと、怪事件を知恵と剣術の冴えで解き明かす主人公というのは、「耳袋秘帖」をはじめとして風野作品の定番スタイルですが、まさに自家薬籠中のものとして、本書でも手堅い面白さをキープしています。まあ、手堅すぎる気もしないではないですが…
(それにしてもこの猿、武蔵ならぬ柳生宗矩が猿に剣法を仕込んでいたという挿話からやっぱり来ているのかしらん)

 そして風野作品のもう一つの特色である、負け組に向けられた眼差しも、本作では健在であります。
 風野作品の中では有数の遣い手とはいえ、道場の経営もうまく行かずブラブラしている竜之進は、やはり負け組と言えます。そんな彼の、いや剣術に生きるうちに人生の盛りを越えてしまった男たちの内面がクローズアップされるのが、最後に収められた「両国橋の狐」という作品。
 求道の果てに気づいてみれば俺の人生何だったのかしらんというのは、そろそろ個人的に笑えない状況ですが、しかしそれも含めて、何とも切なくもほろ苦い作品で、個人的には一番印象に残りました。

 ちなみに本書に収録されたうち、「正雪の虎」は十年前の雑誌掲載作品、「甚五郎のガマ」は十三年前の単行本(「黒牛と妖怪」!)掲載作品がベース。色々と事情はありましょうが、旧作にこんなところで出会うことができたのは、嬉しいことであります。


「厄介引き受け人望月竜之進 二天一流の猿」(風野真知雄 竹書房時代小説文庫) Amazon

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2008.04.27

「風林火山 晴信燃ゆ」 偏ったファンの感想編

 日生劇場で観て参りました「風林火山 晴信燃ゆ」、実のところ、個人的にこの舞台の最大の注目点は、私が最も好きな俳優の一人である劇団☆新感線の橋本じゅんさんが駒井政武を演じることだったのですが、これがまた期待以上の大活躍!

 駒井が文官であるためアクションはなかったのですが、ちょっとカマっぽいキャラを実に楽しそうに好演、これで「ざんす」って言ったら右近さんのキャラだよ! と新感線ファン的には思いました。
 舞台での立ち位置でも非常においしいものがあり、第二幕開始直後には客席をいじりまわして休憩明けの空気を盛り上げたり、千葉ちゃん演じる板垣にちょっかいを出して二度も投げ飛ばされてのたうちまわったりと、おいしいところを独り占めでした(特に板垣に腕を決められて痛がりつつ「カ~ッ、カ~ッ」と息吹をやっちゃう場面で俺大喜び)。

 かと思えば、先に述べた、終盤に晴信の内面を語るシーンでは、堂々三人のうちの一人となって今度は非常にシリアスな演技を披露。
 このシーン、普通ならば勘助がいるべきかと思うのですが――まあ物理的不可能ですが――そこで代わって駒井が登場するところに、大いに感心しました。
 さすが、キャストでは亀さんに続いて二番目にクレジットされただけはある! と、ファンとしては大満足であった次第。
 というか最近の新感線の舞台より活躍してたよ…

 じゅんさんの魅力を踏まえて演出して下さったスタッフの方々にも感謝です。


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 「風林火山 晴信燃ゆ」 晴信自身の物語

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「風林火山 晴信燃ゆ」 晴信自身の物語

 日生劇場で舞台版の「風林火山 晴信燃ゆ」を観て参りました。大河ドラマで武田晴信を演じた市川亀治郎がそのまま晴信を、いやそれだけでなく一人二役で山本勘助まで演じるということで気になっていたのですが、千秋楽一日前にようやく観ることができました。

 その印象を一言でいえば、「風林火山」晴信side、というところでしょうか。原典では山本勘助の(視点からの)物語であった「風林火山」を、一度解体した上で、晴信自身の物語として再構成してみせた内容となっておりました。
 さすがに一年間のドラマ全てを三時間半の舞台にまとめるのは困難で、第一幕は三条婦人の輿入れから由布姫と勘助が武田家に入るまで、第二幕は勝頼の誕生から由布姫の死までが描かれていますが、面白いのは敵方はほとんど登場せず、ほぼ全て、武田家内で物語がクローズしている点です。

 その中心となっているのは、晴信と信虎、晴信と息子たちの――つまり、父と子の相克の物語。
 父に疎まれ、そしてその父を追放した晴信が、今度は己の息子の扱いように悩み苦しむ様が、武田の女たち、家臣たちの人間模様を交えて描かれることにより、単純に英雄でも梟雄でもない、人間晴信の姿が、本作では浮かび上がる仕掛けとなっており、なかなか面白い構成であったと思います。

 この晴信を演じた亀治郎は、さすがに勝手知ったる舞台の上というべきか、若き日のうつけぶりから、天下取りを目指して乱世に乗り出すまでの姿一つ一つを好演、ことにラストの白馬にまたがって宙を行く際の、まさに莞爾とした笑みは実に格好良く見えました。カピバラなんて言ってゴメン。
 また、一人二役で演じた勘助の方も――出番は唖然とするほど少ないものの――これはドラマ終盤のイメージを取り入れてか、発声もどこか内野勘助チックな演じぶりで、演じ分けの妙に感心しました。

 ドラマと比べてしまうと、上記の通りあまりにも勘助の存在感が希薄なことや、人物の善悪が明確に描かれすぎていること、女性陣の出番の少なさ(特に由布姫ですが――これは個人的にはOK)など、気になる点も色々ありますが、冒頭に述べたとおり、晴信中心の物語と考えればこれはこれで正解かと思います。
 終盤、どのように物語をまとめるのかというところに、晴信の内面を代弁する存在として由布姫・信廉・駒井の三者を登場させて晴信の周囲で語らせる、演劇的手法もユニークであったかと思います。

 出演者も、歌舞伎から新国劇、蜷川から新感線まで、多岐に及ぶ出自ながら、それをうまくまとめてみせた、なかなか面白い舞台でありました。

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2008.04.26

「震撼の太刀 織江緋之介見参」 一歩踏み出した頼宣像

 刺客の手から、四代将軍家綱を救った緋之介。自らの陰謀を潰した緋之介に対し、堀田正俊は新たに大奥別式女を刺客として送り込む。一方、御三家に伝えられる村正を巡って繰り広げられる暗闘。盟友・水戸光圀の妹であり、己の婚約者でもある沙弓の手にその一つがあると知った緋之介は、彼女と村正を守らんとするが…

 織江緋之介見参シリーズ第六弾は、前作「果断の太刀」を受けての後編とも言うべき内容。物語が五代将軍位を巡る暗闘にシフトしていく中で、前作で明かされなかった、御三家と織田家に伝えられる村正に秘められた秘密が明かされることになります。
 生まれといい剣技といい、上田作品の主人公の中では、かなり、いや非常に恵まれた部類に入る緋之介。しかし、そんな彼であっても、次代の将軍位、いやそれどころか徳川将軍家の正当性を揺るがす大秘密を巡る暗闘においては、ちと分が悪いようで、今回も苦闘を強いられます。

 その一方で、ある意味緋之介以上の活躍を見せる、本作の陰の主人公というべきは、徳川頼宣であります。頼宣公と言えば、時代劇においては、立ち位置的に、天下を密かに狙う野心家、陰謀家として描かれることが多い人物ですが…本作においては、そのイメージを踏まえつつも、一歩踏み出した人物像が描かれています。

 戦国時代最後の生き残り、家康の子として強烈な自負心を持ち、若き日は天下に強烈な野心を燃やした…そこまでは従来の頼宣像ですが、本作における、晩年に近づいた頼宣は、その野心を燃やす中で、将軍位の先にあるもの、平時における将軍という存在の意味を知ってしまった者として、一種達観した存在として描かれています。
 ほとんどの作品のベースに、権力者同士の暗闘というものが据えられている上田作品。その中にあって、一度はその渦中にありながらも、そこからある意味自由な存在となった頼宣は、実にユニークな存在であり、権力に真っ向から相対する主人公とは、また別の角度から権力というものを見ているキャラクターであります。

 その頼宣だからこそ、物語のラストにおいて、村正に秘められた恐るべき秘密――この秘密、派手さはないものの、順逆の太刀という村正の在りようと、儒学を根本理念とする徳川幕府の在りようを対比すれば、なかなか趣深いものがあります――の正体に気づくことができたのでしょう。

 将軍の、言い換えれば権力の座のはかなさに気づいてしまった男なればこその視線で見抜いてしまった徳川家の正体。それを知らされた光圀が、そしてもちろん緋之介にどのような運命が待つのか――毎度のことながら、次の展開が気になります。


「震撼の太刀 織江緋之介見参」(上田秀人 徳間文庫) Amazon

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2008.04.25

魔人ハンターミツルギ 第08話「黒い悪魔が赤い血を呼ぶ!」

 関が原の合戦で破れた豊臣家の残党が隠し持つ鉄砲百丁と三万両の黄金に目を付けた魔人サソリ。その陰謀を察知した三兄弟は残党の集落を守るが、若君と家老が敵の手に落ちてしまう。救出に駆けつけた三兄弟は、出現した怪獣モグロンをミツルギに変身して粉砕、鉄砲と黄金も三兄弟に処分されるのだった。

○豊臣の残党を襲い、鉄砲と黄金の在処を聞き出そうとする(も責めすぎて殺しちゃう)サソリ忍者。今回のリーダーは老人マスクです(何でよ)。

○「戸塚村に潜んでいる豊臣の残党の頭領を捕らえ、徹底的に在りかを吐かせるのだ!」って、相変わらずに微妙に日本語が不自由な魔人様。

○残党の集落を訪れ、サソリに襲われた男とその娘を救う三兄弟。その前に帰ってきたのは…あれ、拷問で死んだはずの男?(ここで既に気付いている銀河兄さん男前)

○大坂の陣ではなく関ヶ原とはっきり言っているということは、時代設定はそういうことなのでしょう。そして、既に戦う気はないのに、手元に残った鉄砲と黄金の処分に困っている残党たちという設定はちょっと面白い。

○と、ここで男の正体を見破る銀河。サソリ忍法死人操りでサソリのリーダーが操っていたのでした。さらにサソリ忍法カラクリ変化で藁人形に変わり身して逃れるリーダー。なかなかできる!(しかも死体に爆薬まで仕掛けてある周到さ)

○ここでリーダーの血痕を追って走る彗星。しかしリーダーは兎の血を撒いて罠に誘導…「彗星にとって人間の血と野兎の血とを嗅ぎ分けるのは簡単なことだった。しかし野兎の血が一度土と混じってしまうと途端に嗅ぎ分けることが困難になってしまうのだ」(ナレーター)って、それ全然フォローになってませんから!

○しかも待ち伏せを受けて網をかけられてボコられる始末。忍法カラクリ人形返しで逃れたからよいようなものの…高笑いしてる場合か!

○若君たちのもとに駆けつけた銀河と月光の前に現れたモグロン。しかし彗星がいないので変身できない! と、そばに生えていた竹を切り倒した銀河、なにやら細工をしていると思えば…何と完成したのは竹製グレネードランチャー! 当然のようにこんなものを作ってしまう銀河兄さんって…

○しかし攻撃は効かず、かえってモグロンは毒ガスを噴射。そこで月光は連れていた残党の娘をガスから守るため、そのみぞおちに一発! っておい(ちゃんと先に謝ってたけどね)

○一方、サソリたちに追われて忍法飛行凧(変なデザインの紙と木製のグライダー)でその場から逃れる彗星。やけに余裕こいてるのでイヤな予感がすれば…サソリの火矢を喰らって墜落!

○深手を負いながらも、連行されてきた若君たちを見つけた彗星。忍法鏡写しで、手鏡に敵の様子を写してから遠く銀河のもとに投げつけると、鏡の中にその時の映像が! おお、何だか忍法っぽい!

○しかし敵に追いつめられて仁の剣を投げつけちゃった上にリターン失敗で敵に奪われる彗星…今回のコイツは本当にダメすぎる。かろうじて駆けつけた兄さんに救われましたが。

○そして今回の巨大戦。前半部分は、カット割が悪いのか何やってるのか今一つわからないのが困りもの。押しつぶされて地面に埋まって矢尻をくらったと思ったらいつの間にか立ち上がってモグロンの後ろにいるミツルギに???

○しかしその後の、モグラ叩きの如く出没するモグロンを、うつぶせ状態で追うミツルギの動きは、これまでの話数の中でも一番丁寧なものでちょっとびっくり。

○調子に乗ったところに、飛び出した目玉を掴まれて一本釣りされるモグロン。宙に投げあげたところに、ミツルギは円盾をシュート!
 盾には縁に刃が付いていたのかモグロンの首をばっさりカット。落ちてくるところに火炎弾で〆でした。


 話としては特段面白いところはなく、宇宙人のくせにスケールの小さい魔人様のわるだくみ(黄金が欲しければカネクジラにあんなに無駄遣いさせなければいいのに)と、彗星の調子に乗っての失敗っぷりばかりが印象に残った回。
 黄金と鉄砲という、分に過ぎた力の扱いに困る豊臣の残党の姿を、もっとじっくり描いていれば、ドラマとして面白くなったと思いますが――
 …そういえば黒い悪魔って何だったのかしら。モグロンのこと?


<今回の怪獣>
モグロン
 地中を自在に移動する地底怪獣。蛇とナメクジを足して甲羅をつけたような外観で、その目は自在に出入りする。武器は巨体による押しつぶしと、口から吐く巨大な矢尻と毒ガス。


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2008.04.24

「妖魔」 忍者と妖怪と、人間と

 時は戦国、青年忍者・緋影は、忍びの里で兄弟のように育ちながらも、突然自分に襲いかかり深手を負わせて里を追われた魔狼を連れ戻すため旅に出る。しかし、魔狼を追って諸国を放浪する緋影の前に次々と現れるのは、奇怪な妖怪たちだった。旅の最中で知り合った抜け忍の少女・妖(あや)とともに、妖怪との戦いを続ける緋影だが、ついに巡り会った魔狼の正体は…

 忍者ものの漫画というのは、それこそ山のようにありますが、その中で忍者たちが戦う相手は同じ忍者がほとんど、武芸者・侍がそれに続くくらいで――要するに人間相手で――人外の化性と対決するというのは、存外に少ないもの。その例外の一つにして、まずは代表の一つと挙げられるのが、本作「妖魔」であります。

 少女漫画から少年漫画まで、オカルト・ホラーからコメディまで、様々なスタイルで活躍をみせる楠桂の得意とするジャンルの一つがホラー時代劇ですが、本作はその嚆矢とも言うべき作品――作者が19歳(!)の頃の、初連載作品であります。
 今回、久しぶりに読み返したのですが、発表から二十年近く経つ今読んでみても、本作で描かれた「忍者vs妖怪」という構図は実に新鮮かつ魅力的であり、全く古さを感じさせることがありませんでした。

 普通の(?)時代劇であれば、外連の技の使い手、人外に近い存在として描かれることの多い忍者が、本物の人外と対峙した際に如何に戦いを挑むのか? この異種格闘技戦的シチュエーションは、一種ゲテモノ趣味的なものかもしれませんが、しかしそこに楠桂お得意の、重く黒い人間模様が絡むことにより、単なる鬼面人を驚かす体のものではないドラマが描かれれていると言えます。
 特に、戦国時代という戦争が常態となった、ある種の極限状態下において、人が人を殺す有様、人が人を差別する有様を容赦なくえぐり出した部分は、同様に戦国時代を舞台とした大作「人狼草紙」や、「神の名は」においても継承されているものであり、その点でも注目すべきものがあります。

 もっとも、個人的に残念な部分もやはりあって――何よりも、忍者と妖怪との、存在的な「近さ」が、あまり深く突っ込んで描かれていないのが実に勿体ないという印象があります。
 戦国という時代において、個人の情を殺し、そして他人を殺すことを生業とする忍者は、単にその操る技によってではなく、その精神性において、人外に近い存在であると言えます。その点において、忍者はむしろ妖怪に近い存在であり、本作で描かれる戦いは、ある意味、同族同士の潰し合いであります。
 もちろん、忍者はやはり人間であり、妖怪とは一線を画す存在。忍者と妖怪との戦いの中からは、その両者の違いが――言い換えれば「人間というもの」が見えてくるべきなのですが…惜しいかな、その点が弱かったと感じます。
(魔狼との友情のために里を飛び出した緋影や、自分らしく生きるために抜け忍となった妖といった、メインキャラの生き様こそがそれなのだとは思いますが、むしろ彼らが普通にヒーローに見えてしまうのが惜しい)

 と、くだくだしく述べてしまいましたが、この辺りは、作者のキャリアの最初期に属する作品ということで割り引いて考えるべきでありましょう(この、人外を通して人間というものを描く試みは、後に続く上記の二作品等でより深化した形で描かれていることでもあります)。
 本作は後にOVA化されているのですが、この辺りをどう料理しているのか、見比べてみたいと思っている次第です。


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2008.04.23

「デアマンテ 天領華闘牌」第1巻 二つの「もう一つの国」で

 長崎で暮らす平凡な少女・かなの運命は、父が出島で偽金作りの罪を着せられ、獄中で死んだことから一変する。父の名誉のため、そして弟の命を救うため、かなは遊女となって事件の裏を探ることを決意する。 そして丸山遊郭一の遊女・金剛の禿となったかなだが、金剛もまた、ある秘密を持っていた…

 江戸時代の遊郭といえば、現代の我々から見ると全くの別世界、外界とは別のルールで運営されるもう一つの国、というイメージがあります。
 そしてもう一カ所、江戸時代においては、外界から隔絶されたもう一つの国と言うべき世界がありました。それが長崎の出島であることは言うまでもありません。

 本作の舞台となるのは、そんな二つの「もう一つの国」が重なった世界であります。
 江戸の吉原と並ぶ遊里で知られる長崎丸山でで暮らす遊女たちは、役人たちを除き、出島に出入りできるほとんど唯一の存在。言い換えれば、外界と遊郭、そして出島と三つの国を出入りしていたということであり、その彼女たちがどのような想いで暮らし、何を見てきたのか…考えるだに魅惑的な題材です。

 この第一巻の時点では、まだまだ物語はプロローグの印象、レギュラーキャラと設定の紹介編といった感が強いのですが、しかし、現時点で既に、この本作ならではの題材を生かした物語構成となっており、この先の展開に大いに期待が持てます。
 まだ状況に流されている部分はあるものの、その瞳の底に強いものを秘めたヒロイン・かな。そして表の顔は丸山一の美女ながら、裏の顔はジャッカー電撃隊…いや舞台的にも設定的にも長崎犯科帳なもう一人のヒロイン(?)金剛。

 二人の出会いがこの先どのような物語を描いていくことになるのか。三つの国で彼女たちが何を見ることになるのか――描くは碧也ぴんく氏、女性らしい柔らかな描線の中に凛としたものがある作風は、まず本作にはうってつけであり、これは期待できそうです。
(時代考証については、まああまり気にしないことにします)


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2008.04.22

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 ちょっと不満が…

 さて完結まであとわずかの「Y十M 柳生忍法帖」、これまで私はほとんど手放しで絶賛してきたのですが、ちょっと今週は言いたいことありますよ…

 前回、チラッとしか描かれなかったので気になっていた銅伯とおゆら様の亡骸が仲良く並んでいる様が描かれたのはよいのですが…その後のシーンで沢庵が放った台詞が、本作の沢庵の台詞の中で私が一番好きだったあの台詞が丸々カットされている…!

 これに比べれば、ほりにょ磔が全裸じゃなくて半裸だったのなぞ小さい小さい。あと、もっと桜の花びらが散ってなくちゃとか、妙に磔柱の周りに空間が空いていて寂しいとか、「蛇の目は一つ」が思っていたより小さくて迫力がなかったりとか、それもみんな小さい。

 まあ、ラスト一ページ丸々ブチ抜いての筆画タッチの十兵衛の「おお!」が異常に格好良かったので、そこは大いに満足なのですが…

 と、ここまで書いて我に返りましたが、たった一つ台詞をオミットしたくらいでボロクソに(?)言われてはせがわ先生もたまらんですね。反省。

 ここは、いよいよ決戦! の次週からの展開を期待して、ここにその沢庵和尚の台詞を書いておくことにします。
「――大手門には、おそらく城侍こぞって集っておろうに、剣侠児、まことに堀の女たちを救い得るか? ああ!」


 …個人的にはその前の「いうにゃ及ぶ。心得たり」という台詞も和尚らしくて好きなんですが

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2008.04.21

「おぼろ秘剣帳」 ステップアップ期の王道作

 京で放蕩無頼の暮らしを送る美青年・朧愁之介。千利休の妾腹の子に生まれながらも千家とは縁を切り、我が道を往く愁之介は、次々と奇怪な事件に巻き込まれ、秘剣「影の灯火」を振るうこととなる。そして数々の事件の果てに、彼が知った父の死の真相は…

 火坂先生の過去作品を振り返ってみようシリーズ、今回は火坂先生には意外と珍しい架空の主人公によるエンターテイメント剣豪もの「おぼろ秘剣帖」。
 最初はトクマノベルスから「戦国妖剣録」のタイトルで刊行され、それから約十年後に「おぼろ秘剣帖」のタイトルで廣済堂文庫から、そして現在では「おぼろ秘剣帳」(ってややこしい変化だな)として学研M文庫で刊行されている作品です。

 あらすじから、あるいは主人公のネーミングから伝わってくるように、本作は紛れもなく娯楽時代小説の王道をいく作品。現在であれば、まず間違いなく文庫書き下ろし時代小説の形で発表されるであろう作品です。

 内容的にも、良くも悪くもこのジャンルの典型的な作品ではありますが――火坂先生もこういう作品を書いていたのだなと、ファンのくせして今更ながらに感心――しかしデビュー以来のアベレージヒッターぶりは本作でも健在。武田信玄の隠し金、千利休の呪詛が込められた茶器、そして千利休自身の死とその正体にまつわる秘事にまつわる愁之介の冒険は、時代劇ファンならば安心して楽しめるものかと思います。ちょっと利休の正体は黄算哲が入っていますが。
(いま読み返してみると、舞台の京都をはじめ、戦国商人や美術品など、火坂作品ではお馴染みの要素がいくつも見られるのも楽しい)

 さて、娯楽時代小説としては極めて真っ当(すぎる)本作ですが、しかし、廣済堂文庫の解説で細谷正充氏が指摘しているように、当時の火坂先生にとっては、新たなるステップと言うべき作品。それまで、「花月秘拳行」シリーズ、「骨法」シリーズ(時代を感じますなあ)といった、剣ならぬ拳を武器とする主人公という、時代小説のメインストリームからちょっと外れたラインの作品がほとんどだった先生が、王道の時代小説に着手した、まさにその時期の作品なのです。
 その後、火坂先生は、「柳生烈堂」シリーズや「霧隠才蔵」シリーズといったエンターテイメントシリーズを次々と発表し(「神異伝」という異色中の異色作もありますが)、そしてさらに現在の歴史小説へと移行していくわけですが、その最初の移行期、ステップアップの時期の作品と考えると、なかなか興味深いものがあるのではないでしょうか。
(ちなみに、以前にも似たようなことを書きましたが、本作が「おぼろ秘剣帖」として加筆修正ののち再刊された時期は、その次の、歴史小説への移行期に重なっているというのが、さらに面白いお話かと思う次第です)


「おぼろ秘剣帖」(火坂雅志 学研M文庫) Amazon

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2008.04.20

五月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 つい先日桜が咲いたばかりという気もするのに、もうすぐ五月。初夏であります。というわけで五月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。
 五月にはゴールデンウィークがありますので、発売アイテム数も若干ほかの月よりも少ないかな…という印象がありますが、しかしその内容はなかなかの充実ぶりであります。

 小説では、なんと言っても朝松健久しぶりの書き下ろし時代小説「真田昌幸激闘記 家康狩り」が一番の注目株。内容への期待はもちろんのことながら、表紙が…表紙が素晴らしいのです。これは近年稀に見るインパクトであります。その他、新作では上田秀人の「奥右筆秘帳」シリーズ第二弾「国禁」、風野真知雄の「若さま同心徳川竜之助」第三巻「空飛ぶ岩(仮)」が登場です。
 また、旧作では、文庫化なのに二度も延期になった(加筆修正でもされているのかしらん)小説版「髑髏城の七人」が登場。四月から刊行が開始されたランダムハウス講談社時代小説文庫の柴錬作品では、「運命峠」の第三四巻などが発売されます。
 もひとつ、アンソロジーではPHP文庫から「幻の剣鬼 七番勝負(仮)」が刊行されます。なにげにアンソロジーの良作が多いPHP文庫だけに、楽しみにしたいと思います。

 さて漫画の方は、珍しく小説よりも収穫が少ない印象。めぼしいところでは、いよいよ物語が盛り上がる「御庭番 明楽伊織」第二巻に、初登場の「戦国ゾンビ 百鬼の乱」、旧作では「原作愛蔵版 伊賀の影丸」第二巻(個人的には最高傑作と感じるところの由比正雪の巻であります)、あとはなかなか全貌のつかめない「カスミ伝(全)」の文庫化といったところでしょうか。
 また、ゲームの方では、ニンテンドーDSで「歴史群像presents ものしり幕末王」が登場。以前発売された「ものしり戦国王」は意外な佳品でしたが(でも「ものしり江戸名人」はいまひとつ…)、さてこちらはどうなるでしょうか。

 最後に映像作品では、まだソフト化されていなかった「必殺仕事人2007」がめでたくリリース。また、舞台を戦国時代まで広げる「劇場版仮面ライダー電王 俺、誕生!」は、ファイナル・カット版が発売されます。
 も一つ、個人的に(間違った方向で)大いに気になっている「太王四神記」のDVD-BOX第一巻も発売される模様です。


 そして時代伝奇にまったく関係ないおまけ。三月に刊行されるはずだったのがなぜか(またイラストのためかしら…)延期になっていた野田大元帥版キャプテン・フューチャー「風前の灯! 冥王星ドーム都市」が、たぶん今度こそ発売される模様で、スペオペファンとしては、胸躍らせて待っている次第です。

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2008.04.19

「老虎大難 吉宗影御用」 老虎、最後の戦い

 田沼意次の下で影の御用を務める四ツ目屋の呆庵は、かけがえのない師であり今は故郷である朝鮮に帰った植芝喜平が、朝鮮王の逆鱗に触れ幽閉されたと知る。救出のため対馬に向かった呆庵だが、喜平は監獄の島・煉獄島に囚われていた。一方、江戸に残った仲間たちは、隠居旗本の家を襲った災禍の謎を探るうちに、ある男の存在に辿り着くが…

 磐紀一郎(=石津嵐)先生の代表作「吉宗影御用」シリーズ三部作ラストの本作がなかなか文庫化されないので、待ちきれずに単行本で読みました。
 吉宗の影御用を務めた老人・植芝喜平の驚くべき正体を描いた「吉宗影御用」、喜平の跡を継いだ呆庵が江戸城を魔界と変えた陰陽師に挑む「陰陽の城」に続く本作は、再び喜平が登場、最後の戦いに挑みます。

 ストーリーとしては、師の大難を知った呆庵が向かった対馬及び朝鮮煉獄島での冒険と、喜平の親友だった隠居旗本の息子夫婦の死の謎を残る影御用の仲間たちの江戸での探索の二つのパートで物語が展開し、最後に結びつくという構成。

 特に面白いのは、やはり呆庵の方のパートで、激しい潮流に守られた天然の要害に、呆庵が如何に潜入し、そして喜平を連れて脱出するかという展開は、冒険小説的な味わいがあります。李舜臣の血を引く喜平らが、煉獄島脱出に使用するのが先祖縁のアレというのもまた嬉しいところです。

 が…江戸パートの方は、正直なところ、必殺の亜流的印象で、一度は去った喜平を再び引っ張り出したにしては、敵が――正体自体は大物なのですが、存在感や言動が――小物であったのがあまりにも残念。題材自体は悪くなく、水準の作品ではあるのですが、三部作のラストにしてはもったいない出来だったという印象です。
 前作が文庫化にあたって加筆修正されたように、本作もそのような形で文庫されるのではないか――と、今は勝手に期待している次第です。


「老虎大難 吉宗影御用」(磐紀一郎 徳間書店) Amazon

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 「吉宗影御用」 伝説の終わりと始まり
 「陰陽の城 吉宗影御用」 江戸城大変!

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2008.04.18

田岡典夫のシバテンもの 鏡として象徴として

 リブリオ出版の「ポピュラー時代小説」シリーズの中で、先に紹介した「村上元三集」以上にある意味レアな作品が収録されているのが、この「田岡典夫集」でしょう。土佐の土着的な世界を描いてきた作者の作品の中でも、一冊にまとめられたことが非常に少ない、妖怪「シバテン」が登場するいわゆるシバテンものオンリーの短編集に本書はなっているのです。

 シバテンとは、土佐に伝わる妖怪で、本書の解説によれば、天狗の幼虫とでも言うべき存在。大きさは人間の子供くらいながら大層な力持ちで夜行性、人間相手に相撲で千人抜きできれば天狗になれるため、夜外を行く人間の前に現れては相撲をせがむという、どこかユーモラスで陽性の妖怪です。

 さて、本書に収録されているのは、武士同士の意地の張り合いが思わぬ結末に繋がる「シバテン榎」、「坊さん簪買うを見た」のよさこい節を背景に僻地でのシバテンの受難を描く「よさこいシバテン」、主人からの拝領妻が主人と縒りを戻して悶々とする下男のストレス解消法「逐電シバテン」、維新で没落した士族の武家の商法がシバテンに思わぬ影響を及ぼす「開化シバテン」、自由民権運動と警察との攻防に図らずもシバテンが参戦する「民権シバテン」と、全五編。

 これらの作品は、時代背景と登場人物を違えて、様々な物語が展開しますが、共通するのは、舞台が土佐であることと、シバテンが登場すること。
 いつどんな時代でも変わらぬ姿で現れ、変わらず相撲をせがむシバテン――どこか人間臭くて、しかし人間離れした純真さを持つシバテンは、人間というある意味シバテン以上に奇ッ怪な存在を映し出す鏡であると同時に、土佐という土地とそこに暮らす人々の、時代が移っても変わらぬ本質の象徴のように思われます。
 土佐は私にとっては全く縁遠い土地なのですが、もし作者がいまこの時を舞台にシバテンものを書いたら、果たしてどのような物語になるのかしらん、と想像してみるのは、なかなか面白いことでありました。


 ちなみに…本書で異彩を放つのは、冒頭に収められた作者のシバテンシリーズ第一作にして処女作(の改稿)たる「シバテン榎」。
 美少年に相撲に誘われ、友人との約束に遅れていった武士が、美少年との仲を揶揄されたことから、意地の張り合いの末に二人命を賭けた碁を打つことになるもこれに敗れて…という本作、他の作品とは異なり、実はシバテンが直接的には登場いたしません。
 結末で、この武士が、帰路に榎の木の下でシバテンに襲われ、思わず声を上げて助けを求めたことを恥じる旨の遺書を残して切腹したことが語られるのですが…さて。

 果たしてシバテンは存在したのか、シバテンとは何のことであったのか――人間心理の綾を描いた結末の、何とも言えぬ余韻が印象的であり、そして一連のシバテンものにおけるシバテンの存在についても考えさせられる一編であります。


「ポピュラー時代小説 10 田岡典夫集」(田岡典夫 リブリオ出版) Amazon

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2008.04.17

作品集成更新

 このブログ及び親サイトで扱った作品のデータを集めた作品集成を更新しました。昨年の十二月中旬から今月十二日まで、約四ヶ月間のデータをアップしています。
 いつもいつも溜め込むまいと思いつつ溜め込んで、更新の時ヒイヒイいってしまうのはなんとかしたいと思いつつまたヒイヒイ。まだまだ追加・整理しなくてはいけないデータは山のようにありますが、まずは少しずつということでご寛恕を請う次第。作品画像も少しずつ増えています。

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2008.04.16

「寛永無明剣」 無明の敵、無明の心

 北町奉行所の同心・六波羅蜜たすくは、大坂の陣の残党を追う中で、不可解にも柳生宗矩配下の柳生剣士たちの襲撃を受ける。その背後に巨大な陰謀の影を感じたたすくは捜査を開始するが、さらに奇怪な術を操る一団までもが登場し、たすくに迫る。そして遂にたすくが知った真実――それは人類そのものの存亡に関わる巨大な秘密であった。

 光瀬龍先生の時代小説については、当方でも何度か取り上げているところですが、その中でも一、二を争うくらい好きな作品が本作(と「夕ばえ作戦」)であります。

 北町同心、その実は松平伊豆守の腹心の部下を主人公とした本作は、人間一人はおろか集落そのものをもたやすく葬り去り、そして幕府要人たちといつの間にかすり替わっているという、姿無き強大な敵との戦いをサスペンスフルに描いて、時代小説としても非常に面白いのですが、しかし、それだけにとどまらないのはもちろんのこと。

 中盤を過ぎで、敵の正体、さらにその目的が明らかになっていく際の、一種の世界崩壊感覚とでも申しましょうか…確たるものと信じ込んでいた世界が、実は舞台の書割にすぎなかった、とでも評すべきすさまじいどんでん返しには、レーベルや作者からある程度の内容の予測をしていても、やはり驚かされます。
 もちろん、その衝撃も、書割という表現が失礼にあたるくらい、時代小説として良くできているからこそではありますが…

 そして――たすくが知ることとなった事件の背後に潜む真実の、圧倒的という言葉も空しくなるほど途方もないスケールと、それでいて一片の詩情すら感じさせる虚無感と悲哀は、まさに光瀬節。
 「無明」と言うほかない運命を変えるために襲い来る敵を、迎え撃つたすくの心もまた「無明」。まさに「寛永無明剣」とはこのことであったか! と唸らされると同時に、ラストに描かれる人と人との当たり前の繋がりの一つが――敵の正体を考えれば皮肉ですらあるのですが――小さいながらも希望の灯火のように感じられたことです。

 正直なところ、本作をネタバレせずに紹介するのは、魅力の半分以上を伝えることができないようにも思いますが、未読の方に、この途方もない衝撃を味わっていただくために、隔靴掻痒の思いを堪えて記す次第です。


 ちなみに――ムネノラー的には本作の宗矩の活躍は必見であります。何と言っても人類の命運を背負った戦士!(本当)
 だというのに、ラストバトルがほとんど一軒家プロレスなのは何とも…ある意味期待通りと評すべき乎。いや○○なんですけどね。

「寛永無明剣」(光瀬龍 ハルキ文庫) Amazon

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2008.04.15

「貉と奥平久兵衛」「天狗田楽」 村上元三の変化もの二題

 「KENZAN!!」誌最新号の細谷正充氏の記事で、なるほど! と思ったのは、村上元三のいわゆる「変化もの」を読むことができる書籍として、リブリオ出版の「ポピュラー時代小説」シリーズの「村上元三集」を挙げていたことでした。
 このシリーズ、いわゆる大活字本で、大抵の図書館には揃っていると思うのですが、他の書籍では絶版になっている作品がひょっこりと収録されていたりするのです。

 本書に収録されているのは、やはりレアもの「貉と奥平久兵衛」「天狗田楽」「河童将軍」の三編を収録。「河童将軍」については以前別の本で取り上げた以前別に取り上げたので、残る二編をここでは紹介しましょう。

 「貉と奥平久兵衛」は、松山藩を舞台としたお話。蝗害で恋しい雌狸を失い、自分は偶然から村人たちに神通力があると祭り上げられた源太。しかし雌狸の皮が国家老の久兵衛に献上されたことを知った源太は、跡を慕って久兵衛の家に住み着くことになります。折しも偶々藩政でチャンスを掴んだ久兵衛、自分には神通力がついていると思いこみ、次々と大胆な行動に出て、ついには藩政を壟断するまでになるが…というお話であります。
 この久兵衛、講談の「松山騒動」(あの稲生武太夫も登場する一編であります)でお家乗っ取りを狙う悪党なのですが、そちらでは八百八狸の上を行く大悪党だった久兵衛が、本作では小心翼々とした人物という設定。その彼が、ありもしない源太の神通力を信じ込み、暴走を始める様が何とも皮肉で、人間の、人間社会の、いい加減さ薄っぺらさというものを感じさせて、ユーモラスな語り口の中に、シニカルな味わいを湛えた作品であります。

 もう一作の「天狗田楽」の方は、人間の女性(の体のしくみ)に興味を持ったおかげで大天狗からこっぴどく叱られた木の葉天狗の物語。もうグレて人間になってやろうと、秘法を盗んでいざ人間に取り憑いてみれば、それは大呉服屋の跡取り、しかし店の中では身代乗っ取りの企みが進んでいて…と、色と欲でギラついた人間社会に紛れ込んでしまった天狗の受難譚であります。
 「貉と奥平久兵衛」ほどの切れ味ではありませんが、本作においても、描かれるのは人間の欲に翻弄される変化の姿。折角徳川綱吉の時代を舞台としているのだから、もう少し生類哀れみの令について掘り下げて題材にしてくれれば、さらに皮肉の効いた作品になったのではないかと思いますが、やはりシニカルな味わいが印象に残ります。

 さて、この二作に共通するのは、思わぬことから人間と関わり、その欲望に振り回されるある意味ピュアな変化たちの姿(もっとも「河童将軍」では逆に、変化の世界に行った人間が、人間と変わらぬ欲まみれの変化の姿を見る物語なので、必ずしも変化たちのみを良きものとしているわけではないのですが)。
 つまりは、これらの作品を貫くのは、人間と変化を対比させた中で、人間の、人間の社会を浮かび上がらせようと言う試み。どこかユーモラスな変化の姿を描きつつも、その奥には人間に対する深い洞察が隠されている――さすがは村上元三先生と感心した次第です。


「ポピュラー時代小説 5 村上元三集」(村上元三 リブリオ出版) Amazon

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2008.04.14

「架空戦国記を読む」 架空戦記の持つ意味を

 時代伝奇小説とは時々混同されますし、またその区切りが曖昧な作品もあるのですが、架空戦記というジャンルがあります。
 本サイトでは、時代伝奇とは似て非なるものとして、ほぼ全くといってよいほど架空戦記というものは扱っていないのですが、今回取り上げる「架空戦国記を読む」は、その架空戦記の中でも戦国時代を舞台とした作品群のブックガイドです。

 時代伝奇と架空戦記の違いを非常に大まかに言えば、細部でフィクションを展開しながらも、大きな歴史の流れ・結果(史実)を変えないのが時代伝奇である一方で、史実そのものを改変してしまうのが架空戦記…とでも申しましょうか。
 そんな、まさしく「極めて近く、限りなく遠い世界」である架空戦記のブックガイドたる本書を今回取り上げるのは、著者が友人の榎本秋氏だったこともありますが、何よりも、これまでありそうでほとんどなかった、架空戦記というジャンルを網羅的に扱った書物という点に興味を強くそそられたからであります。

 本書は、群雄時代・信長時代・本能寺・秀吉時代・関ヶ原・大坂の陣・その他に区分(本能寺って区分ができる自体興味深いなあ)された100作品が取り上げられています。もちろんこれが本書の肝であり、列挙されたタイトルを眺めているだけで非常に面白いのですが、しかし私がそれにも劣らず感心したのは、作品そのものの解説に付された「史実」の解説であります。
 本書では、作品解説が始まる前に、戦国時代のなんたるか、年表や勢力構造などがまず語られています。さらに各作品の紹介ページでも、そのスペースの半分を割いて、関連する歴史上の人物やエピソードが語られています。すなわち、本書の半分が、実に「史実」を語っているのです。

 なるほど、いかに「架空」とついていても、全くの絵空事ではない。ある時点までは史実を踏まえつつ、そこから枝分かれしていくものである以上、作品世界の根底には、その史実がある。
 言い換えれば、「架空」の作品世界をより楽しむためには、「史実」を知っておく必要がある。…冷静に考えれば当たり前のことでありますが、しかし私にとっては実に新鮮な驚きを味わわせてくれました。

 架空戦国記という一ジャンルを網羅した労作であるだけでなく、現実を一種のパロディーとして映し出すという意味では、時代伝奇も架空戦記も同様だと教えてくれた本書。
 正直なところ、まだまだ時代伝奇を追うだけで手一杯なのですがいずれ架空戦記に手を伸ばすときには、私の傍らに本書があることは間違いないでしょう。


「架空戦国記を読む」(榎本秋 三才ムック) Amazon

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2008.04.13

「太王四神記」 第02話「チュシンの星」

 「太王四神記」の第二回、前半は文字通り「誕生編」といったところ。伝説の神王の誕生と、それと同時に目覚めるという四神の神器の行方が描かれ、後半では十年後、高句麗王の代替わりが描かれます。

 前半、西暦375年の朝鮮で展開されるのは、神王の誕生を告げる星が輝く下で動き出した火天会の暗躍。二千年前に朱雀の力で世界を制覇しようとした虎族の末裔たる火天会は、今度は四神の力を掌中に納めようと、大長老様の命令一下、全土に手を伸ばします。

 それに抗するは、玄武の神器を奉ずる民。玄武以外の三つの神器を火天会より守るべく、各地に急行するのですが…まあ、こういう時、悪の魔の手の方が早いというのはお約束。
 白虎の神器を守る鍛冶職人の村、青龍の神器を守るジン城、そして朱雀の神器を守るサビ城のいずれも火天会の襲撃を受け壊滅することに…

 でもまあ、父親の犠牲で鍛冶職人の息子と白虎の神器は逃れ、青龍の神器は城主の手で息子の心臓に隠され(!)と、魔の手も案外ザル。唯一、朱雀の神器とサビ城の城主の娘キハが火天会の手に渡りますが、しかし朱雀の力を示す刻印は、火天会からキハが隠した妹の額に…しかもそれはかつて世界を滅亡寸前に追いやった黒朱雀で――

 …と、ここまで書いてきてつくづく思うのですが、この四神伝奇とも言うべき部分、RPGのストーリーって言っても信じるなあ。これに巨費を投じて真剣に実写ドラマ化するのは素敵です。

 後半は10年後の385年、主人公タムドクの叔父であった高句麗王が亡くなり、その弟である父が王を継ぐも、先代王の妹はそれに猛反発し…と、まあこちらはどこの国でもお馴染みのお家騒動前夜の風景。
 一気に世俗ムードですが、そこに、火天会の大長老の命を受けたキハが潜入してきたり、先代王がタムドクに四神の神器を探せと遺言したりと、本作ならではの動きもあるのでやっぱり先の展開は気になる引きです。
 主人公に王位を争うライバルがいたり、ヒロインが生き別れの、それも善悪両派に分かれた姉妹だったりと、この辺りはベタといえばベタですが、やっぱり面白いものは面白いですね。

 まだ王家と各地の城主、大神殿や火天会の力関係がまだよくわからないのですが、人物関係がいい具合に入り組んでいて楽しいですね。


 と、ここからは間違った見方の感想。
 ビジュアル的にどう見てもアレだアレだと思ってきましたが、火天会の大長老様はやっぱり妖術師でしたよ!
 いきなり朱雀パワーを吸収して若返るし、キハを暗黒フォースで洗脳するし…期待通りのナニっぷりです。
 しかも火天会の戦闘員は装束といい手裏剣といいどう見ても忍者…はっ、忍者の起源は(以下略

 まさかNHKで、朝鮮妖術師が忍者率いて暗躍するような番組を見られるとは思わなかったです。
 これだ! 俺の見たかったのはこれだよ!(ってバカですか三田さん)


関連サイト
 NHK 総合テレビ公式
 NHK BShi公式

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2008.04.12

「アイゼンファウスト 天保忍者伝」 第1話「正義」

 最近は紙媒体の雑誌のみならず、webによる漫画連載が増えてきて、チェックするのがなかなか大変になってきたのですが、そんなこちらの隙を突くかの如く、講談社のWeb漫画サイトMiChao!でとんでもない漫画の連載が開始されました。
 タイトルは「アイゼンファウスト 天保忍者伝」。原作は山田風太郎「忍者黒白草紙」、描くは長谷川哲也…いやはや、全く予想もしなかった組み合わせです。

 長谷川哲也先生と言えば、血みどろ狂人豪傑戦記「ナポレオン 獅子の時代」が絶賛連載中ですが、本サイト的には連作怪奇剣豪伝奇「神幻暗夜行」を挙げたいところ。それからだいぶん間を置いての、久しぶりの和物の伝奇作品であります。

 さて原作の「忍者黒白草紙」は、江戸南町奉行・鳥居耀蔵の命を受けて世のためにならぬ悪に鉄槌を下す正義感の忍者・箒天四郎と、その友人にして妨害者たる皮肉屋の忍者・塵ノ辻空也の対決を通じて、天保の複雑怪奇な人間模様を描き出した作品。正直なところ、山風作品の中では、派手な忍法バトルが展開されるわけでもなく、また内容的に結構重いこともあって、かなり地味な印象の作品です(そのせいか、単行本化は実に四半世紀以上前、角川文庫で刊行されたのが唯一でありますて以来行われていない状況です)。

 それではその漫画化たる本作はといえば、第一話の今回はまだまだ導入部ではありますが、早くも長谷川節漂う展開。辻斬り武士に対し、奇怪な縫い目の忍法で天誅を下し「これは正義だ」と嘯く天四郎。脳天気なエロキャラかと思えば、顔色一つ変えずに○○○○を瞬殺してのける空也…
 同じMiChao!では、以前から島崎譲先生により、「おんな牢秘抄」の漫画化たる「花かんざし捕物帖」が、かなり原作に忠実な内容で連載されていますが、本作は初めから独自路線を行く様子であります。が、これはむしろ作画・原作者の双方のファンである私としては望むところ、果たしてどこを生かしてどこを崩してくるのか、実に楽しみです。
(例えば今回、空也にエロ忍法をかけられそうになった御徒目付の娘・お史は原作にも登場するキャラですし…)
 唯一、原作でも素で長谷川キャラっぽかった鳥居耀蔵が、普通のビジュアルだったのはちと意外でしたが、こちらの本領発揮はこれから、でしょう。

 タイトルとなっている「アイゼンファウスト」とは「鉄拳」の意ですが、「鉄拳」という言葉には、固い拳という意味に加えて、正義のために悪人を懲らしめる拳という意味もあります。天四郎と空也、二人の鉄拳が天保という時代の中でどこに向けられるのか…先が読めない物語に期待します。


※原作の単行本化は、改題前の「天保忍法帖」で実業之日本社から行われているとのご指摘をいただきました。伏して御礼申し上げるとともに、謹んで修正させていただきます。

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2008.04.11

「風の陰陽師 2 ねむり姫」 陰謀と別れの数々

 都に降った黒い雪、それはさらなる凶事の前触れだった。妖魔の跳梁、そして都を覆いつくす暗雲…さらに晴明が密かに慕う咲耶子姫までもが謎の術師・藤原黒主の術中に陥ってしまう。眠り続ける姫を救うため、彼女の夢の中に飛び込んだ晴明だが、そこで待ち受けていたのは宿敵・蘆屋道満だった。

 少年晴明の冒険記「風の陰陽師」の第二巻で描かれるのは、都に混乱を招かんとする怪人・藤原黒主の陰謀の数々と、晴明が経験する別れの数々であります。
 第一巻は、晴明伝説から様々なエピソードが引用・モディファイされていましたが、今回はほとんど全てオリジナルの展開。晴明も、まだ学生ながら陰陽師としての活動を始めており、第一巻よりも成熟した人物として描かれている分、大仕掛けなエピソードに力点を置いて、物語が展開していきます。
 その内容も、黒主が呼び出した妖魔「闇の嫗」とそれが生みだした「闇の孕み子」の跳梁、帝に見初められたことが元で次々と奇怪な術に襲われる咲耶子姫の救出、そして母の故郷・信太の森で勃発した跡目相続争いと、大きなエピソードが連続して、あるいは平行して進行。始まりから結末まで、まず一気に楽しめる内容でした。

 その一方で、キャラクター面を見れば、陰陽両面を持った存在として、第一巻ではある意味もっとも人間くさい人物として描かれていた賀茂忠行が、今回は本当の悪役になってしまったのが少々残念なところ。
 もっとも、その忠行の子であり晴明の兄貴分である保憲と、そして晴明への復仇に燃える道満という、陰陽双方向で晴明に対置される二人が、いい具合に味のあるキャラクターに育ちつつあり、優等生的な晴明に対してよいアクセントになっていたかと思います。

 さて、物語のラストで、心の拠り所であった者たちを失うこととなった晴明。後見人である忠行は敵側につき、さらに物語の途中では超大物妖魔までも顔を見せており、晴明のこれからの道も、まだまだ険しいことでしょう。
 物語の最後の最後には、この時代の超有名人の名前も出てきて、この先の展開への期待が、否応なしに高まるところです。


「風の陰陽師 2 ねむり姫」(三田村信行 ポプラ社) Amazon

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 「風の陰陽師 1 きつね童子」 陰陽併せ持つ登場人物たちの魅力

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2008.04.10

「巷説百物語」第1巻 リアルな心、妖怪というフィクション

 「コミック乱増刊」にて掲載されている「巷説百物語」漫画版が、単行本第一巻としてまとまりました。
 「巷説百物語」の漫画化と言えば、だいぶ以前に森野達弥氏によって行われていますが、今回は日高建男氏によるものであり、前回とはまた異なるアプローチで原作世界がビジュアライズされています。

 日高建男氏と言えば、「満腹ボクサー徳川」の作者だけあって、キャラクターの描線もリアルかつ迫力のあるもの。しかしそれが原作のあの世界にはまるだろうかと、初読の際にはちょっと不安に思ったのですが、しかしこれがなかなか良い感じであります。
 森野達弥氏のロックぶりに比べると、あまりに真っ当に描きすぎている感はあるのですが、しかし「リアル」な人間の心の中に妖怪という「フィクション」を吹き込むことにより一種の仕置きを行うという原作の枠組みを考えれば、リアルな絵柄というのは、むしろマッチしているのかもしれません。

 さて、原作読者的に興味深いのは、本書の収録順(漫画化順)であります。
 この第一巻に収録されているのは「小豆洗い」「野鉄砲」「白蔵主」「狐者異」の全四編ですが、原作正編では第一話だった「小豆洗い」、第二話だった「白蔵主」の間に、続の第一話「野鉄砲」が入り、続の第二話「狐者異」が入るという、一見ややこしい構成になっております。
 しかし、実はこれは、原作の物語中の時系列通りの並び順に合わせているようなのです(雑誌の方では、この後に時系列的に「狐者異」の後に入る正編第三話の「舞首」が掲載されているので、間違いないでしょう)。
 原作では、元々、正編と続は物語が互い違いに並んでおり、それで特に不都合が生じていたわけではない――逆に言えば、時系列順に変えて特段のメリットがあるわけではないようにも見える――のですが、しかし、やはり気になる試みであります。

 このスタイルで、果たして原作のどのエピソードまで描かれることになるのか…その意味でも、今後が気になる作品です。


「巷説百物語」第1巻(日高建男&京極夏彦 リイド社SPコミックス) Amazon

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2008.04.09

魔人ハンターミツルギ 第07話「動く大要塞ロードス!!」

 最強の戦闘集団として知られ、年貢の免除を認められていた剣持一族。その特権を剥奪しようとする徳川幕府に強い不満を持ってい若者・一平に目を付けた魔人サソリは、彼に大要塞ロードスを与え、反逆を指嗾する。異変を察知して駆けつけたミツルギ三兄弟だが、時既に遅く一平や一族の若者たちはロードスと一体化して暴れ出す。少年時代ともに修行した一平を相手にためらう銀河だが、涙を呑んでロードスを倒すのだった。

○一平の前に、鎧武者に似た巨体を現すロードス。が、突然その体はバラバラになり、普通の人間サイズの鎧兜となって地面に。

○魔人サソリの挑発に乗り(さすが魔人様、見事なアジっぷり)、ロードスが変化した鎧兜に手を伸ばす一平。魔人がどこで一平の不満や銀河との関係を知ったかは不明ですが、これまでとはひと味違う作戦です。

○いつもの小屋で作戦会議する三兄弟は何とヘルメットを外した姿で登場。が、銀河と彗星はヘルメットの下も本郷猛みたいな髪型で違和感バリバリ…

○異変を察知して剣持一族の里を目指す三兄弟に襲いかかるサソリ忍者。真ん中を駆け抜けながら、一瞬で全員斬り倒す三兄弟がなかなか格好良い。

○今回のサソリのリーダー格は二人組の念力使い。マスクは下っ端と同じですが、赤いちゃんちゃんこがトレードマーク。ばんばん岩の固まりを飛ばしてきます。

○里で幕府への不満と、自らの一族の誇りをアジる一平。それに賛同する若者たちと、暗い目でおし黙るしかない老人たちの対比が強く印象に残ります。

○彗星に雑魚の注意を引きつけた隙に、得意の二刀投げでリーダー格を倒した銀河は、月光をつれて里へ。彗星はそのまま雑魚の相手を延々と…しかし既に一平たちは出陣した後。

○代官所を襲撃するべく武装する一行。そして一平がロードスの鎧兜を身につけた途端…再びロードスが出現! 魔人様は「徹底的に行け、ロードスよ!」って本当に徹底的好きな(予告でも「徹底的に挑戦する」とか言われてたし)

○大砲まで用意した幕府側の抵抗もものとはせず進撃するロードス。遅れて駆けつけた銀河と月光、そして彗星は巨大神に合身。この時の珍しくせっぱ詰まった感じで叫ぶ銀河兄さんが格好良い!

○名前は和風でも姿は西洋鎧チックなミツルギと、名前は洋風でも姿は鎧武者なロードス。その怪力と、目からの怪光線に苦しめられるミツルギですが…銀河は少年時代、ともに修行した一平のことが脳裏にちらつき…

○必殺の火炎弾も怪光線で撃ち落とすロードスに、耐えきれなくなったかミツルギ超反撃。怪光線を放つロードスの目に、ブスリブスリと剣を突き刺してロードスを倒してしまいます。

○珍しい合身解除描写を経て、地上に降り立った三兄弟。しかし地に伏した一平の目が開くことはなく…


 ピープロ作品などで活躍した脚本家・まつしまとしあき初登板の今回は、魔人様が直接怪獣を送り込むのではなく、それを今の世に不満を持つ者に与え、使わせるという一ひねりある展開。しかもそれが銀河の旧友と設定することで、苦いドラマを展開してみせるのはさすがです(よく考えたら、三兄弟側にドラマが用意されたのは今回が初めてのような…)。

 もっとも、その割にはロードスとミツルギの対決はひどくあっさりしていて、大して躊躇いもなくロードスを殺ってしまうのですが…ロードスになった後、一平の意識がどうなっているのか、全く出てこないのも、盛り上げを妨げているように思えます。
 まあ、意識があったとしてもロードスは幕府を倒すために暴れると思いますし、銀河兄さんは敵には容赦しなかったと思いますが…

 それよりも興味深いのが、今回の一平が「若者が巨大な力を与えられて(己が信じるところの)正義のために戦う」というシチュエーション。これはむしろ正義のヒーロー側のものであって、これを敵側に使わせるということで、正義の力の危うさを描き出す手法に感心しました。
 これは完全に私の勝手な連想ですが、ロードスの姿にはほぼ同時期に放送開始したマジンガーZ(的正義像)が被って見えてくるのです…


<今回の怪獣>
ロードス
 魔人サソリが苦心の末完成させた大要塞(と言いつつ、ビジュアルは巨大な鎧武者)。巨体と、目からの怪光線を武器とする。
 体を普通の鎧兜サイズにする能力を持ち、その鎧兜を誰かが着て一つに集まったとき、着た人間を取り込んで再び巨大化する。


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「魔人ハンターミツルギ」(コロムビアミュージックエンタテインメント DVDソフト) Amazon

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2008.04.08

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 善魔倶に斃る

 遂に魔人銅伯も奥の手を出し、いよいよ決戦の時と言うべき「Y十M 柳生忍法帖」。銅伯は、幻法夢山彦で呼び出した天海をいわば人質に、十兵衛に、沢庵に、そして徳川の世に最後の呪いをかけようとしますが…しかし。

 これまでは銅伯の術に苦しめられるだけであった天海が、ここで初めて銅伯と向き合います。そして天海は、将軍への血脈相承を断念してでも、銅伯を倒すと語るのですが――つまりは、それは、自らの命を捨てることで銅伯の不死身を封じるということにほかなりません。
(と、原作ではここで天海が命を捨てる決意をした理由を語る印象的な台詞があったのですが…オミットは非常に残念)

 それを知ってか知らずしてか、天海の死で生じた銅伯の隙を突いて、真っ向から拝み打ちの一刀を放ったのは十兵衛であります。
 このシーン、一ページブチ抜きでしたが、本当に「猛然と」という表現を画にしたらこうなる、と言うべき素晴らしい迫力。せがわ先生が元々得意とするCGの独特の質感に、荒々しい筆の描線が相まって、「動き」というものを強く感じさせます。

 さて、銅伯の死=天海の死であることを知る沢庵にとって、この展開はショッキングなものであろうとは思いますが、それに沈んでいるひまはない。沢庵はおとねを連れて雪地獄の女たちを救いに、十兵衛は、もちろん五人の堀の女たちを救いに、それぞれ行くことになります。
 そしてその十兵衛を見送るのは、もはや余命幾ばくもないおゆら様…切ない。そしてそれを見やるおとねさんの表情も…(これは漫画ならではのナイスな表現ですが、でも先週から気になってたんですが鼻血くらい拭いてあげようよ)

 そして地下祭壇を飛び出した十兵衛は、今度は「颶風のように」という表現が思い浮かぶような勢いで、立ちふさがる芦名衆を薙ぎ倒して一路地上へ――
(本当に、この辺りのアクション描写は、確実に「バジリスク」よりも進歩しているやに感じられます)

 というところで一週お休みが入って、再来週から最終章突入。ここから先は、原作では、誇張抜きで全てが名場面、全てが名台詞と言うべき神懸かり的完成度だったのですが、さてそれをどのようにビジュアライズしてくれるのか…不安はありません。期待感のみがあります。

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2008.04.07

「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し

 「しゃばけ」シリーズもあれよあれよという間に、はや六巻目(「みぃつけた」除く)。久々の長編だった前作から、今回はいつもの(?)スタイルに戻った短編集となっています。
 今日も今日とて元気に寝込んでいる若だんなと、彼を取り巻く妖怪たちが引き起こす騒動は相変わらずですが、しかし、そこに今回は一つの変化が生じることに――

 本書に収録されているのは全五編――火事で煙に巻かれた若だんなと鳴家たちが、こともあろうに冥府に行く羽目になる「鬼と小鬼」、広徳寺の法力和尚・寛朝の弟子・秋英が師の代わりに受けた相談ごとが思わぬ騒動を引き起こす表題作「ちんぷんかん」、若だんなの母おたえが娘時代に巻き込まれた事件と父・藤兵衛との馴れ初めを描く「男ぶり」、
松之助の縁談話をきっかけに、謎の陰陽師と妖怪たちの思わぬの攻防戦が展開される「今昔」、そして長崎屋の庭に植えられた桜の花の精・小紅と若だんなの出会いと別れの物語「はるがいくよ」と、今回も実にバラエティに富んだ内容となっています。

 そんな中で、本書の背骨ともいえるエピソードとなっているのが、若だんなの腹違いの兄・松之助の縁談にまつわるエピソード。使用人とはいえ、若だんなにとってはたった一人の兄弟であり、両親や兄やたちとはまた違った親しみを感じさせる兄が、嫁を迎えて独立するというのは、変わらぬ日常を迎えてきた若だんなにとっては大事件であります。

 そうしてみた場合、本作に収録された五編に共通するのは、生々流転、様々な変化であることに気づきます。「生々」どころかいきなり冥府に行ってしまう「鬼と小鬼」(ちなみにこのタイトル、読み終わってから考えると少々ゾッとするものがありますね)から始まって、新しい一歩を踏み出す秋英・かつて踏み出したおたえの物語、そして上記の縁談を経て、最後に待つのはこのテーマの総括とも言うべき、様々な命の有りようと去りようの物語――


 正直なところ、シリーズの中では平均点よりちょっと下がるかなという気もしましたが(特にプチ「妖怪大戦争」の趣がある「今昔」は、物語の構成要素が多すぎてとっちらかってしまった感があります)、しかしこのように一冊を通してみれば、印象は決して悪くありません。

 四月という時期には、新しい一歩を踏み出す方も多いかと思います。私もその一人ですが、そんな時期に読むにはまことにふさわしい作品であったと感じた次第です。


「ちんぷんかん」(畠中恵 新潮社) Amazon

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2008.04.06

「太王四神記」 第01話「神の子 ファヌン」

 私は個人的には韓流ドラマというものにはまるで興味はないのですが(母が見ていた「チャングム」は、横で結構楽しく見てしまいましたが)、そんな私にとってもどうにも気になる作品が一つ…それが昨日からNHK総合テレビでも放送が開始された「太王四神記」であります。何せ、舞台は四世紀の高句麗(と超古代の朝鮮)、物語は天から下された四神の力を巡る大活劇ということで、時代伝奇に国境はない(ってフレーズをいま思いついた)私にとっては、これは見るしかない、と。
 その第一話は…いや、色々な意味で想像以上の出来でありました。

 第一話で描かれるのは、メインの舞台となる時代から実に二千年前、地上の民を導くために降り立った神・ファヌンと、強大な火の力でもって侵略を続ける虎族の火の巫女・カジン、そしてその侵略に立ち向かう熊族の女戦士・セオの三人の物語。ファヌンがセオを、カジンがファヌンを、セオがファヌンをそれぞれ愛したことから起きた悲劇が、火の力=朱雀を暴走させ、遂には世界を一度は壊滅させるという壮大な(壮大すぎる)お話であります。

 ――って、内容的にもビジュアル的にも、あまりにもド直球のファンタジーで、ヨン様目当ての方はついていけるのかしらん、と余計な心配をしてしまいましたが、しかし三人の気持ちの行き違いでドラマをぐいぐいと引っぱり、それがこの作品ならではの一大クライマックスにつながっていくというドラマ構成には、なるほどな、と感心しました。冷静に考えれば(特にこの手の作品には馴染みのない方にとっては)結構入り組んだ設定ではあるのですが、それをこうしたドラマ展開で、一時間強の中で全て説明してしまうのは、さすがは、と言うべきでしょうか。
(何となく作品を通しての終盤の展開まで予想できてしまうのは、これは狙っているのでしょうね)

 そしてビジュアルについても、かなり…いや相当気合いが入っていて、私的には大満足でした。基本的にCGバリバリではありますが、特に人間同士の乱戦シーンなど、見せ方使い方を心得ている印象でこれも感心。
 そしてクライマックスの黒朱雀(というネーミングもたまりませんな)vs三大聖獣(こちらも白虎=風伯、青龍=雲師、玄武=雨師というネーミングがうれしい)の大決戦は、これでもかと言わんばかりの気合いの入った映像で、掴みの、そして予算も潤沢にあるであろう第一話ということを差し引いても見事な映像で、まさかこんなところでここまでの怪獣バトルを見ることが出来るとは、と唸らされました。いや、どう考えても第一話だけの出番だと思いますが。


 …まあ、よりによってファヌンとセオの間に生まれた子供が檀君(ってファヌンって桓雄のことか!)だったのにはのけぞりましたが(この第一話の元ネタについてはこの辺りを参照のこと)、まあこの辺りはあまり難しいことを考えずに見るのが吉でしょう。
 にしても檀君といい大怪獣決戦といい、ラストに登場する主人公の宿敵・火天会の大長老がどこからどう見ても朝鮮妖術師以外の何ものでもなかったことといい、どこぞの時代伝奇小説家が「我が世の春が来たぁっ!」と喜んでいるのが目に浮かぶような気がします。
 いや、まさかNHKでこんな世界観のドラマを見ることができるとは思いもよらなかったですよ。


 と、そんな間違った見方は置いておくとして、これだけ第一話で頑張ったのを見せられると、これは第二話以降も見ざるを得ないな、というのが正直な感想です。この二千年前の因縁が、巡り巡って四世紀の朝鮮を舞台に果たしていかに展開していくのか。個人的には大長老と、まだ登場していませんがいかにもいかにもすぎる白虎と青龍の継承者に期待しつつ、この先を見守りたいと思います。


関連サイト
 NHK 総合テレビ公式
 NHK BShi公式

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2008.04.05

「闇鍵師」第4巻 ひとまずのお別れ

 赤名修と中島かずきという異色ながらも黄金コンビの伝奇時代漫画「闇鍵師」も、残念ながらこの第四巻で第一部完。錠之介の枢り屋稼業ともひとまずお別れですが、しかし、最後の最後まで、期待通りの魅力溢れる作品でありました。

 第四巻に収録されているのは、前の巻から続く長編エピソード「秘錠の密偵」の完結編と、錠之介とお琴の出会いを描く過去編「吉兆の盗賊」の二つのエピソードであります。

 最強の魔が憑いた薩摩隠密団の首領との死闘を描く「秘錠の密偵」は、本書に収録された部分は、舞台で言えば第二幕の後半とでも表すべき辺り、つまりは一気に盛り上がるクライマックス部分。
 本作は、人情話色のある短編連作が中心のためか、さほど「新感線」っぽさは感じなかったのですが、この「秘錠の密偵」の終盤から感じられるのは、見事なまでの「新感線」テイスト。
 一度は撃退した敵は力を蓄えて完全体とも言うべき存在と化し、対する主人公たちは、わずかに数人の仲間を残すのみ。しかし――というシチュエーションから展開される浅草寺決戦は、実に舞台的な設定ながら、しかし舞台では絶対に再現不可能な魔の描写がふんだんに盛り込まれており、長編にふさわしい見事な盛り上がりだったかと思います。
(個人的には、鉄拾が秘密兵器を打ち始める辺りから、猛烈な高揚感を感じました。このシーンの鉄拾の台詞、橋本じゅんさんの声で聞こえてきました、というのは誉め言葉になっているかしら)

 一方の「吉兆の盗賊」は、シリーズ初期の雰囲気に戻った、人の心の中の闇を描いた物語となっており、ド派手な長編の後ではさすがにおとなしくは見えましたが、やはり凄絶な魔の――それも顕在化したものよりも人の心に巣くうものの――描写が圧倒的で、やはりよくできたエピソードかと思います。

 こうして見ると、まだまだいくらでもイケる作品だとは思いますが、これだけのクオリティを維持し続けるのは、確かに相当に骨ではあるのかもしれません。
 お別れは残念ですが、しかし例えば年に一度のスペシャル編的な形などで、また錠之介たちの活躍を見れないものかな、と思う次第です。


「闇鍵師」第4巻(赤名修&中島かずき 双葉社アクションコミックス) Amazon

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2008.04.04

「ガゴゼ」第4巻 走り始めた物語

 室町暗黒伝奇コミック「ガゴゼ」の最新第四巻が発売されました。第一巻から興味深く読んできた本作ですが、この四巻に至って一気に物語が走り始めた感があり、これまで以上に盛り上がってきました。

 この巻のメインとなるのは、力を失ったガゴゼが、各地に散った己の力の欠片を求めて旅し、そしてそれを取り込んだ/それが具現化した妖魔たちと対決する一連のエピソード。
 ここで描かれるのは、単発エピソードの連続的内容ではありますが、しかし、人間たち、そして妖魔たちと触れ合ううちに、徐々に人間的な感情を持つようになっていくガゴゼの姿は――お約束的と言えば言えますが――なかなか魅力的です。
 そしてそれと同時に、各地での冒険の中で、彼自身も知らぬガゴゼの正体を巡る情報が、少しずつ描かれていくのは、何ともエキサイティングであります。特に、力を失って初めて子供の姿になったはずのガゴゼと、瓜二つの少年神の伝承の登場には、何と言いますか、素晴らしく伝奇的な味わいがあって、大いに胸躍らされたことです。

 さて、ガゴゼが前面に出てきた一方で、彼の宿敵とも言える美少年陰陽師・土御門有盛の方は、登場する場面数こそ少し減りましたが、しかし、その活躍(暗躍)は、ある意味、これまで以上に鮮烈。
 特にこの巻では、彼が常に仮面をつけている理由である、額のもう一対の目の由来が明かされると同時に、全く予想もしていなかったような彼の「正体」の一端も明かされ、いわば物語のもう一方の主役として、ドラマを大いに盛り上げています。

 何はともあれ、ガゴゼが主人公として主体的に活躍しはじめて、物語が佳境に入ったという感がある本作。
 ガゴゼの正体は、有盛の真の目的はなんなのか。有盛を裏切ってガゴゼに付いた式神・青龍は、また今なお腹の底の見えぬ足利義満は如何に動くのか。ラストには、ガゴゼにとっては運命の女性とも言うべきあのキャラクターが、思いもよらぬ形で再登場し、この先の展開が、全く予想はつかぬものの、しかし、実に楽しみな作品になってきたことです。


「ガゴゼ」第4巻(アントンシク 幻冬舎バーズコミックス) Amazon

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2008.04.03

「双霊刀あやかし奇譚」第1巻 人間と幽霊、人間と刀

 時は大正十年、強盗から身を守るために、偶然、家に伝わる脇差を手にした少女・早苗。だがその刀には、血に飢えた刀匠・吉光と、無愛想な神職・兵衛介の、二人の霊が取り憑いていた。脇差の力で救われた早苗だが、それをきっかけとするように、彼女の身の回りには次々と奇怪な事件が…

 女の子向け小説だって取り上げますこのブログ(ただしBLは勘弁な!)。今回は全二巻の「双霊刀あやかし奇譚」の一巻目。大正時代を舞台に、名家の少女と、二人の霊を宿した妖刀が活躍する妖怪退治ものであります。

 なんと言っても本作の最大の魅力であり、特徴は、タイトルにある「双霊刀」の存在。人格を持った刀、魂を宿した剣というアイテムが登場する作品というのは、それこそ枚挙に暇のないほどあるわけですが、しかし、二人分というのは結構なレアケース。
 しかもそれが、全くソリの合わない、対照的なキャラの二人というのが面白い。そこにお転婆で真っ直ぐなヒロインが加わるのですから、ずいぶんと賑やかな作品であります。
 この手のアイテムが登場する作品は、一種のバディもの的展開になることが多いのですが、持ち手が女の子、取り憑いているのが美青年ということで、ロマンスに流れるのもちょっと面白い。

 もちろん、本作は単に賑やかで楽しいばかりの作品ではありません。老若男女、登場人物の多くが――もちろん二人の霊も含めて――背負うのは、それぞれの人生に応じて積み重なった屈託・悩み・哀しみ等々の、人生の負の部分と言うべきもの。
 大正時代の名家に生まれ、自由な生き方を選ぶべくもない早苗。既に命を失いながらも、過去の悔恨に今なお苦しめられる兵衛介。二人をはじめとして、登場人物たちにそれぞれ背負うものがあるからこそ、それに負けず、自分の道を切り開いていこうとする彼らの姿が魅力的に映りますし、単なる妖怪を退治して万歳、というお話で終わらない味わいが、本作にはあります。

 もっとも、大正時代と言いつつ、早苗をはじめとするキャラクターの言動が、ちと現代人じみ過ぎているのが気にならないでもないですが、それを言うのは野暮というものでしょう。
 ユニークな武器をお供の妖怪退治ものという以上に、人間と幽霊、人間と刀(!?)のロマンスの行方も気になるわけで、やはり一巻を読んだら二巻目も…という気持ちになった次第です。


「双霊刀あやかし奇譚」第1巻(甲斐透 新書館ウィングス文庫) Amazon

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2008.04.02

「魔都秘拳行」 西行、魔都に闘う

 京の都に続発する怪異と災害――その原因は京各地の魔界封じが何者かに破られていったことだった。その一つ、比叡山の最澄の黄金の独鈷杵までが奪われるに至り、西行に秘宝の奪還の命が下される。京を裏から牛耳る秦七神人、怪奇な術を操る服部死童子らと死闘を繰り広げる中、西行は、恐るべき秘密を秘めた大師の和歌・帝王の和歌・大将軍の和歌の存在を知るが…

 火坂雅志先生の過去作を発掘しようシリーズ。今回伝説の拳法・明月五拳の達人たる西行の活躍を描いた「花月秘拳行」シリーズ第三弾にして最終作「魔都秘拳行」です。

 これまでの二作品では、歌人として、拳法家として、北日本を股にかけて活劇を繰り広げた西行ですが、本作の舞台となるのは、新旧のタイトルからもわかるように、京――平安京であります。
 もちろん、物語のフィールドが限定されたからといって、内容が前二作より劣るわけではありません。何せ平安京と言えば、王朝文化の背後で数々の怨霊、百鬼夜行が蠢いていた魔都、最も闇深い地だったのですから…(ちなみに火坂先生が魔都京都のガイド本を書いているのは、昔からのファンであればご存じでしょう)

 そんな舞台で繰り広げられるのは、平安京壊滅の鍵を握ると言われる三つの和歌の争奪戦――「大師」「帝王」「大将軍」という、平安京に縁の深い三人が残した和歌の謎解きは、本シリーズではお約束のミステリ展開で、その謎の正体も含めて、興趣横溢。
 アクション面の魅力についても言うまでもなく、まず時代伝奇アクションエンターテイメントとしては、水準以上の作品と言えます。

 …もっとも、さすがに三作目ともなると、勢いに陰りが見えてくるのも否めない事実。個々のエピソード等にいささか食い足りなさが残る点もあり――失礼と野暮を承知で言えば――エンターテイメントの骨法を会得しただけに、かえって描き込みが甘くなった部分もあるのではないかな、という印象もあります。
(もちろん、その後の活躍を見れば、それが一過性のものであることがわかりますが…)

 こうした点はあるものの、それでもやはり多くの魅力を持つ本作。特に、結末でのある人物の登場は、新たな嵐の時代の到来を予感させるものがあり、印象に残ります。
 既に歴史小説に活躍のフィールドを移した今となっては夢でしかありませんが、その後の西行が、何と戦い、何を見たのか――その物語も読みたかったと、いまだに感じさせられることです。


「魔都秘拳行」(火坂雅志 廣済堂文庫) Amazon

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2008.04.01

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 銅伯独演会?

 佳人薄命、ついにおゆら様が倒れた「Y十M 柳生忍法帖」。刀も手に入って(不本意ながら)十兵衛にとっては逆襲のチャンス…のはずですが、今週はほとんど銅伯の独演会でありました。

 こともあろうにおゆら様の血を啜った銅伯。元々おとねさんの血を使って行おうとしていた幻法夢山彦に、先に流れた血を使ったということなのでしょうが、しかしその姿はまさに「鬼気迫る」としか言いようのないもの。己の痛恨の大誤爆で大望を無にしてしまった怒りと絶望が向けられるのは、目の前の沢庵と十兵衛を通り越して、天海と江戸幕府でありました。

 銅伯によれば、今日こそは天海による家光への天台血脈相承の日。以前、天海がお千絵らと対面した際に、己が死ねない理由として挙げた、重要イベントであります。
 ここで天海を痛めつけることにより、血脈相承を滅茶苦茶にしてやろうというのが銅伯の目論見、ここまでくるとほとんど八つ当たりですが、もう聞く耳完全に持たない暴走状態であります。

 ――しかし銅伯、天海の予定は全部知っていると語っていましたが、まさかストーカーしていたわけではあるまいし、やはり感覚共有していたためかと思いますが、それであれば天海が知っていたであろう幕府の秘事の数々も知っていてもおかしくないわけで、しかしそれを利用した形跡がないのはもしかして銅伯って結構間が抜けているんじゃ…と勝手な疑惑。

 閑話休題、刀にかけてもこの暴挙を止めようと動いた十兵衛ですが、銅伯はあくまでも余裕。何せ一度は十兵衛を完全に破ったなまり胴がある上に、ここで銅伯を斬ることは天海を斬るにほかならず、それでは銅伯に手を貸すも同じなのですから――
 しかも銅伯は剣法でも柳生新陰流には負けぬと大胆発言。それがあながちはったりに見えないのは、銅伯の気迫故か…

 そして遂に始まった夢山彦。しかし、魔鏡に映し出された天海は以前とは違い、何らかの覚悟を秘めているように見えますが…

 というわけで銅伯戦もいよいよ大詰め。銅伯と天海という不死身の両輪を壊すには、これは一つしか手がないわけですが…さて。次回も必見であります。

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