「魔都秘拳行」 西行、魔都に闘う
京の都に続発する怪異と災害――その原因は京各地の魔界封じが何者かに破られていったことだった。その一つ、比叡山の最澄の黄金の独鈷杵までが奪われるに至り、西行に秘宝の奪還の命が下される。京を裏から牛耳る秦七神人、怪奇な術を操る服部死童子らと死闘を繰り広げる中、西行は、恐るべき秘密を秘めた大師の和歌・帝王の和歌・大将軍の和歌の存在を知るが…
火坂雅志先生の過去作を発掘しようシリーズ。今回伝説の拳法・明月五拳の達人たる西行の活躍を描いた「花月秘拳行」シリーズ第三弾にして最終作「魔都秘拳行」です。
これまでの二作品では、歌人として、拳法家として、北日本を股にかけて活劇を繰り広げた西行ですが、本作の舞台となるのは、新旧のタイトルからもわかるように、京――平安京であります。
もちろん、物語のフィールドが限定されたからといって、内容が前二作より劣るわけではありません。何せ平安京と言えば、王朝文化の背後で数々の怨霊、百鬼夜行が蠢いていた魔都、最も闇深い地だったのですから…(ちなみに火坂先生が魔都京都のガイド本を書いているのは、昔からのファンであればご存じでしょう)
そんな舞台で繰り広げられるのは、平安京壊滅の鍵を握ると言われる三つの和歌の争奪戦――「大師」「帝王」「大将軍」という、平安京に縁の深い三人が残した和歌の謎解きは、本シリーズではお約束のミステリ展開で、その謎の正体も含めて、興趣横溢。
アクション面の魅力についても言うまでもなく、まず時代伝奇アクションエンターテイメントとしては、水準以上の作品と言えます。
…もっとも、さすがに三作目ともなると、勢いに陰りが見えてくるのも否めない事実。個々のエピソード等にいささか食い足りなさが残る点もあり――失礼と野暮を承知で言えば――エンターテイメントの骨法を会得しただけに、かえって描き込みが甘くなった部分もあるのではないかな、という印象もあります。
(もちろん、その後の活躍を見れば、それが一過性のものであることがわかりますが…)
こうした点はあるものの、それでもやはり多くの魅力を持つ本作。特に、結末でのある人物の登場は、新たな嵐の時代の到来を予感させるものがあり、印象に残ります。
既に歴史小説に活躍のフィールドを移した今となっては夢でしかありませんが、その後の西行が、何と戦い、何を見たのか――その物語も読みたかったと、いまだに感じさせられることです。
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