「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し
「しゃばけ」シリーズもあれよあれよという間に、はや六巻目(「みぃつけた」除く)。久々の長編だった前作から、今回はいつもの(?)スタイルに戻った短編集となっています。
今日も今日とて元気に寝込んでいる若だんなと、彼を取り巻く妖怪たちが引き起こす騒動は相変わらずですが、しかし、そこに今回は一つの変化が生じることに――
本書に収録されているのは全五編――火事で煙に巻かれた若だんなと鳴家たちが、こともあろうに冥府に行く羽目になる「鬼と小鬼」、広徳寺の法力和尚・寛朝の弟子・秋英が師の代わりに受けた相談ごとが思わぬ騒動を引き起こす表題作「ちんぷんかん」、若だんなの母おたえが娘時代に巻き込まれた事件と父・藤兵衛との馴れ初めを描く「男ぶり」、
松之助の縁談話をきっかけに、謎の陰陽師と妖怪たちの思わぬの攻防戦が展開される「今昔」、そして長崎屋の庭に植えられた桜の花の精・小紅と若だんなの出会いと別れの物語「はるがいくよ」と、今回も実にバラエティに富んだ内容となっています。
そんな中で、本書の背骨ともいえるエピソードとなっているのが、若だんなの腹違いの兄・松之助の縁談にまつわるエピソード。使用人とはいえ、若だんなにとってはたった一人の兄弟であり、両親や兄やたちとはまた違った親しみを感じさせる兄が、嫁を迎えて独立するというのは、変わらぬ日常を迎えてきた若だんなにとっては大事件であります。
そうしてみた場合、本作に収録された五編に共通するのは、生々流転、様々な変化であることに気づきます。「生々」どころかいきなり冥府に行ってしまう「鬼と小鬼」(ちなみにこのタイトル、読み終わってから考えると少々ゾッとするものがありますね)から始まって、新しい一歩を踏み出す秋英・かつて踏み出したおたえの物語、そして上記の縁談を経て、最後に待つのはこのテーマの総括とも言うべき、様々な命の有りようと去りようの物語――
正直なところ、シリーズの中では平均点よりちょっと下がるかなという気もしましたが(特にプチ「妖怪大戦争」の趣がある「今昔」は、物語の構成要素が多すぎてとっちらかってしまった感があります)、しかしこのように一冊を通してみれば、印象は決して悪くありません。
四月という時期には、新しい一歩を踏み出す方も多いかと思います。私もその一人ですが、そんな時期に読むにはまことにふさわしい作品であったと感じた次第です。
「ちんぷんかん」(畠中恵 新潮社) Amazon
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