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2008.06.17

「悪忍 加藤段蔵無頼伝」第2巻 痛いほどの画の力

 海道龍一朗の同名小説の漫画化「悪忍」の単行本もこれで二冊目。雑誌掲載が不定期なために、なかなか会えないこともあるのが何ともやきもきさせてくれますが、しかし第一巻と変わらぬド迫力で安心いたしました。

 神出鬼没の果てに、一向一揆で揺れる加賀に現れた加藤段蔵。朝倉家に狙いを定めた段蔵は、富田治部左衛門に近づき、その懐に潜り込んで…という展開がこの巻のメイン。
 何の後ろ盾も持たぬ男が、桁外れの情報収集能力と底知れぬ武術、そして命知らずのクソ度胸でのし上がっていく、というのはこの種の物語のパターンではありますが、朝倉家に一向宗の本家・分家、さらには長尾景虎と武田晴信まで絡む混沌とした状況の中で、水を得た魚のように活動する段蔵がパワフルでなかなか面白い。何よりも、登場する作品が違うんじゃないかというくらい、他のキャラと違いすぎる(いや、絵柄を意図的に変えているわけですが)段蔵の凄まじい眼光はインパクト十分で、漫画の画の持つ力というものを感じさせます。

 しかし何よりも画の力というものが痛いほど伝わってくるのは、今回初めて描かれる段蔵の過去エピソードでしょう。何故段蔵が義というものを憎むのか、伊賀の服部一族から追われるのか…段蔵の運命を決定的に変えることとなった少年時代の事件が、第二巻の終盤で描かれるのです。
 自分以外の存在全てに牙を剥いていた段蔵少年が、命を救われ、そして心を開くこととなった伊賀の少女・桔梗。段蔵が慕情を寄せた彼女が、しかしその後にどのような運命を辿ることとなったか――それは、実は第一巻に一シーンのみ描かれており、おそらくは私を含めた多くの読者にとっては「これは一体どういうことなのだ?」と強く印象に残っていたと思うのですが――そのあまりの痛ましさと、その反動として噴出した段蔵の激しい怒りと憎悪の有り様は、これはまさしく画あっての説得力ではないかと、強く感じた次第です。

 さて、段蔵の過去の一端が描かれた一方で、現在の方でも段蔵の暗躍は続きます。独り忍びであるはずの段蔵が頼みとする深編笠の男は何者か、朝倉家の正室を襲った段蔵と瓜二つの男は何者か…さりげなく謎と伏線が描かれるなかで、Ninja Del Picaro――すなわち「悪忍」のこれからの活躍や如何に。第三巻は、もう少し早い登場を期待したいところです。


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