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2008.07.22

「百物語 浪人左門あやかし指南」 どうにも小粒?

 再修業のため再び江戸に出た苅谷甚十郎は道場の先輩・辻村鉄之助に頼まれて、怪談好きの商家の隠居・和泉屋が開催する百物語の会に参加する羽目になる。が、百物語が終った時、和泉屋はどこかに姿を消し、参加者の一人が死体で発見される。この不可解な事件に、甚十郎は平松左門と共に挑まんとするが、事件の因縁は彼ら自身にまで繋がるのだった。

 剣は強いが無類の臆病者で怪談が大の苦手の青年・苅谷甚十郎と、剣は無敵だが酒と怪談話をこよなく愛する奇人剣豪・平松左門を主人公とするシリーズの第二弾が刊行されました。

 作中にちりばめられた数々の怪談と、それと密接に絡む怪事件の謎を、誰も彼も一風変わった個性的な登場人物たちが説き明かすというスタイルは本作でも健在。今回は怪談の王道(?)、百物語にまつわる怪事件が描かれることになります。

 その百物語というのも、甚十郎以外、皆中年の浪人ばかりが集められた怪談会という、実に怪しげなシチュエーションで語られるもの。そこで和泉屋の口から語られる怪談は、どれも単独で楽しめるクオリティのものでありますが、もちろんそれだけでは本作は終わらない。
 その怪談会の裏には、甚十郎と左門、そして彼らの道場に絡む事件の影が――というわけで、一見無関係に見えた数々の要素が、物語が進むにつれ一つにまとまっていくという、ミステリならではの快感が味わえます。

 が――正直に申し上げれば、前作に比べれば本作は、どうにも小粒の印象を受けます。事件そのもののスケール・複雑さもさることながら、怪談と物語の関わり、トリックとの絡めようが、どうにも弱い、という感が、まことに残念ながら本作にはあります。
(特に中心となるアイディアに、少々無理があるような――)

 しかし幸か不幸か、キャラクターを前面に押し出したミステリ・時代小説としては、本作はまことに面白い。特に、主人公二人やその師匠のキャラクターの何とも言えぬ呑気さは、一歩間違えると陰惨な印象となりかねぬ物語を、うまく救っていると言えます。

 ちょっと今回は残念な部分もありますが、この先シリーズが続いていけば、実に面白い存在になるのでは…と、思う次第です。


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