「獣兵衛忍風帖」 テーマは娯楽エンターテイメント!
奇怪な忍者に襲われるくノ一・陽炎を救ったはぐれ忍び・牙神獣兵衛。それがきっかけで敵の襲撃を受けることとなった獣兵衛の前に現れた公儀隠密・濁庵は、敵の正体が鬼門八人衆であり、それを束ねるのは獣兵衛とも因縁のある氷室弦馬だと告げる。やむなく手を組んだ獣兵衛・濁庵・陽炎は、八人衆と死闘を繰り広げつつ弦馬の陰謀の正体を探るが…
つい先日より最新作「ハイランダー」が新宿で公開されている川尻善昭監督の代表作の一つ――というより、私にとって時代劇アニメのオールタイムベスト――が、本作「獣兵衛忍風帖」です。
残念ながら、日本での知名度はいまひとつですが、アメリカでは「NINJA SCROLL」のタイトルで公開されて大ヒット、ジャパニメーションの代表格として遇され、川尻監督による上記の「ハイランダー」アニメ化の遠因ともなった作品であります。
今回、川尻作品のオールナイト上映で劇場の大スクリーンで再見する機会があったのですが…その徹頭徹尾隙のない面白さに、改めて感心し、感動いたしました。
凄腕の風来坊が奇怪な忍者たちの陰謀に巻き込まれ、勝ち気なくノ一と老獪な公儀隠密と共に、やむなく死闘を繰り広げるという、ストーリーとしてはかなりシンプルな本作ですが、しかしそれだけに、冒頭からラストまで、迷いなくグイグイと突き進む様は爽快ですらあります。
上記オールナイトのトークショーで、「テーマは娯楽エンターテイメント」と実に男らしく言い切った監督の言葉そのままの、エンターテイメントのお手本のような作品、としか言いようがありません。
その原動力となるのが、シャープで躍動感のあるアクション設計であることは間違いありませんが、しかし見るべきはアクションだけというわけではないのはもちろんのこと。主人公とヒロインの造形と、そこから生まれるドラマも、実に印象的です。
特に心に残るのは、ヒロイン・陽炎のキャラクター。体に強烈な毒を持ち、触れた男をみな殺す美貌のくノ一…と言えば、名前といい能力といい、これはもう山風の「甲賀忍法帖」の陽炎のオマージュであります。
しかし、「甲賀~」の陽炎が、味方すらも滅ぼしかねない強烈な情念の持ち主であったのに対し、本作の陽炎は、その能力から来る孤独感から心に壁を作り、主人公に対しても常に一定の距離を置こうとする女性として描かれます。その感情はやがて大きく変化していく…というのは当然(?)の展開ではありますが、それがストーリーと結び付いて、運命的な帰結を迎えるのが素晴らしい。
アクションエンターテイメントだからこそ、その原動力となるストーリー、キャラクターの行動原理が明確でなければならないという監督の思想の現れが、ここにはあります。
ちなみに、しかし上記のオールナイトでは、同じく監督の代表作である「妖獣都市」の次に本作が上映されたのですが、ヒロインが捕われて主人公がじじいの制止を振り切って飛び出すというシチュエーションが全く同じで苦笑したのですが、両作とも――前者は原作付きですが――主人公とヒロインが結ばれることに、格別の意味が持たされていることに感心しました。ロマンチストとしての川尻監督の側面を思わぬところで見せられた感があります。
と、本作について語り出すと色々と止まらなくなってしまうのですが、それだけの価値ある作品であることは間違いありません。
公開から十五年経っても些かも色あせることなく輝き続ける本作――今までこのブログをご覧になって「三田の野郎とは趣味が合いそうだ」と思って下さった方で、本作を未見の方は是非ともご覧いただきたい、そんな名作中の名作であります。
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