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2008.07.20

「五右衛門ロック」 豪快で大バカで痛快で

 釜茹でにされたはずの石川五右衛門は生きていた。日本を飛び出し、神秘の宝・月生石を求めて南国タタラ島にたどり着いた五右衛門だが、島ではタタラ国王・クガイがその強大な力で民を支配し、月生石を護っていた。タタラを狙うバルバ国の将軍・ボノーらとタタラ軍が激しくぶつかる中、クガイと対峙した五右衛門が見たものは…

 ここしばらく、劇団☆新感線はシリアスな作品がほとんどで、それはそれでもちろん素晴らしいのですが、やっぱりたまには昔の新感線みたいな豪快で大バカで痛快な作品も観たいな…と思っていたところにやってきたのが本作「五右衛門ロック」です。
 釜茹でで死ななかった石川五右衛門が、腐れ縁の悪女に引っ張られ、日本を飛び出して海の向こうの王国に乗り込んでみれば、そこには秘宝と思わぬ彼自身の過去の因縁が…というのが本作のお話。
 宝探しに敵討ち、恋の鞘当てに陰謀に骨肉の争い…そんなエンターテイメントものの王道要素を全てブチ込んで歌と踊りと、もちろんアクションで飾った、三時間強の上演時間もあっという間の快作でした。

 それにしても、新感線の舞台を観ると舞台を構成する要素全体を通してのクオリティの高さに驚かされるのは毎度のことなのですが、今回はそれが――作品自体のテンションの高さもあってか――より際立っていた感があります。
 そんな中でも、特に印象に残ったのは、キャラクターと配役のバランスの良さと言いましょうか…一歩間違えればとっちらかってしまいそうなほど個性的な面子が暴れ回る本作において、どのキャラクターもキャラが立っていて、見せ場があって、演じる役者の持ち味が生かされていたのが何とも嬉しい。当たり前と言えば当たり前のようでいて、しかし本作のような作品においては実は非常に難しいこのバランス感覚は、ひとえに脚本と演出の妙、そして五右衛門を演じた古田新太の存在のおかげではないかな、と感じた次第です。
 特に古田さんは、実はタイトルロールの割りには出番はさほど多いわけではない――場面毎に新しいキャラクターが登場する第一幕など特に――のですが、しかし要所要所で登場してはきっちりと場を締めていくのが、さすが! としか言いようがありません。

 さらにキャラクターについて言ってしまえば、ここしばらくの新感線では、客演が多くなればなるほど、劇団員が目立たなくなってしまって、悲しい思いをすることがあったのですが、今回はその辺りのバランス取りが実に良かった。
 キャスティングを見ると呆れるくらい豪華な客演陣を向こうに回し、ネタもの以外で久々に集結した古田・橋本・粟根・高田の四人が――後ろのお二人は出番自体はそれほど多くなかったのですが――それぞれに印象的な芝居を見せてくれたのが、何とも嬉しいのです(あと右近さんがお仲間を得て今回は倍のウザさ)。

 もちろん客演陣についても文句なしだったのですが、個人的には濱田マリさんが実にキュートで魅力的なプチ悪女を演じていたのが何とも嬉しく――いや、モダンチョキチョキズのファンだった身としては、本当に全く変わらない歌声を見せてくれたのが本当に嬉しい限りでした。じゅんさんとの、プチマクベス夫妻とも言うべき野心家カップル(…そういえばまた森山君は王子だったか)ぶりも楽しく、今まで新感線に出ていなかったのが不思議なくらい…と言っては言いすぎでしょうか。
(ちなみに、本作に登場する女性キャラ三人が、それぞれにきちんと自分というものを持った聡明なキャラでありつつも、それぞれに大馬鹿な男どもを優しくその懐の中で遊ばせていたのは、なかなか印象的でした)


 …と、本作を文句なしに楽しみつつも、野暮と贅沢、そして身の程知らずを承知にあえて一つ言わせていただくとすれば、「新感線の五右衛門は、まだまだこんなものじゃないだろう」という気持ちも、個人的にはあります。
 これはネタバレにもなってしまうのであまりはっきりとは言えませんが、五右衛門が結局の所、クガイの手の上を抜け出せなかったように感じられたのが、なんとも残念なのです。パンフレットで中島かずき氏が自ら触れられていた五右衛門を、新感線の五右衛門、古田五右衛門には遙か上を行って欲しい、人の心を、人間の自由を笑う奴らを、真っ向からブチのめして欲しい――と、そういう気持ちが正直なところあるのです。
 それだけのポテンシャルは間違いなくあるのですから…それに何よりも、この世界は俺たちには狭すぎるぜ! と飛び出した五右衛門の冒険はまだまだ始まったばかり。いつか再び、本作に負けるとも劣らない、五右衛門の痛快な冒険譚を見せていただきたいものだと心から思います。

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受信: 2008.07.23 09:39

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