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2008.08.30

「カミヨミ」第1-2巻 これを伝奇と言わずして何を…

 名門の少年軍人・日明天馬は、子供の連続誘拐殺人事件解明のため、異界のモノを括るカミヨミの力を持つ少年・帝月とともに、九州赤間関に向かう。折しも近くの漁村では、大量斬殺事件が発生、天馬の母・日明蘭大佐が率いる軍の始末屋・零武隊が調査に訪れていた。二つの事件の背後には、あってはならない存在の影が…

 伝奇ファンの私の畏友が絶賛していた、柴田亜美の「カミヨミ」の第一章に当たる第一、二巻を読みました。
 恥ずかしながら私にとって柴田亜美と言えば「どきバグ」…いやむしろドラクエ四コマという印象で、あの絵で伝奇? という思いはあったのですが――一読、己の浅はかさを呪いました。これは面白い。
 確かに絵的な面では、特に主人公・天馬のデザイン等、線の太いマンガらしいタッチが、物語のムードに対してそぐわない印象はあるのですが、しかしそういった点を遥かに補って余りあるのが、これを伝奇と言わずして何を伝奇と呼ぶ、と言いたくなるストーリーと構成の妙です。

 舞台となるのは明治三十年代前半、日清・日露両戦争の合間の、日本がまさに富国強兵にひた走っていた時期。しかしその裏側では、維新を期に西(都)から流入した古古しきもの、異界のものが引き起こす事件があり、それに対峙するのが治外法権的特権を持つ零武隊、そして異界と交信し、封じる力を持つカミヨミの存在だった…というのが基本設定。そして天馬少年は、零武隊隊長の息子であり、そしてカミヨミの力を引き継ぐ少女・菊理の許婚という二つの立場から、物語に絡んでいくことになります。
(が、劇中で主にカミヨミの力を振るうのは、菊理の双子の兄であり、妹以上に天馬に愛を向ける帝月というのが、色々な意味でうまい)

 この「赤間関事件」編では、赤間関の海から引き上げられたあるモノが引き起こす惨劇が描かれます。そのモノ自体は、伝奇ものにしばしば登場する存在であり、決して珍しくはありませんが、しかしそこに一ひねりを加えることにより、「あってはならないもの」でありながら、時の政府にとってなくてはならぬもの、という強い存在感が生まれているのには感心いたしました。

 しかし何より気に入ったのは、事件の引き金となり、そして複雑化させたのが、人の欲望そして妄執であり――すなわち、異界のモノではなく、人間の存在である点です。
 わかりやすく言い換えてしまえば、凶器は超自然的存在であっても、犯人とその動機はあくまでも人間のもの。登場人物の一人・八俣警視総監の言葉にあるようにあくまでも「人間の愚かしい欲が事件を起こすの」であり、異界のモノを扱いながらも人間主体の物語である点が、私の好みに実に合いました。
(ちなみにこの人物、オカママッチョというド変態ながら、物語の近代的理性の側面を象徴するような切れ者のキャラで、私は大いに気に入っています)


 第二巻のラストは、えっ、ここでこうなるの? 的な展開ですが、物語的には、あくまでもここからが本番ということでしょうか。この先も読まないわけにはいかなくなってきました。


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