「悪忍 加藤段蔵無頼伝」 無頼の悪党、戦国を行く
伊賀と甲賀の秘技を極めながらも、その双方の忍びを敵に回して戦国を闊歩する孤狼の悪忍・加藤段蔵。京で一仕事終えた段蔵は、次の仕事場を一向一揆に揺れる北陸に定め、越前朝倉家に姿を現す。首尾よく朝倉家に食い込んだ段蔵が狙う相手は果たして…
漫画版が完結してからこちらを、と思っておりましたが、まだ少しかかりそうなのでやはりいま紹介してしまいます。原作小説たる「悪忍 加藤段蔵無頼伝」であります。
加藤段蔵といえば、以前、漫画版の紹介の際にも書きましたが、上杉謙信や武田信玄の周囲に出没し、遂にはその技を恐れられて討たれたと伝えられる人物。本作では、朝倉家と加賀一向衆、そして上記の「史実」にも現れる上杉家(長尾家)を向こうに回して、段蔵が縦横無尽に暴れ回ることとなります。
何せこの段蔵、今は故あって甲賀も伊賀も敵に回す(何たる無茶を!)暮らしですが、かつてはその二つの地で忍びとして、忍将として数々の秘技秘術を叩き込まれた男。いわゆる陰働きたる陰忍としてだけでなく、表に出て人の心を操り動かす陽忍としても超一流なだけに、その活躍も表裏に渡って実に多面的でユニークなのです。
権力・財力・暴力…強大な力を持つ対手に、ある時はブラフで、またある時はそれ以上に強大な力で立ち向かう段蔵は、しかし、どこまでいっても頼むのは己の身一つ(…一つ?)。他人を利用することはあっても頼ることは決してないその生き様は、まさに「無頼」と言うべきものでしょう。
そんな段蔵は、まごうことなき悪党ではありますが、しかしここで想起してしまうのは、悪党は悪党でも、鎌倉から南北朝時代にかけて活躍した悪党のほう。既存の権力に抗する者として悪の名でもって呼ばれた彼らは、同時に混沌とした時代に、ある種の主体性をもって切り込んだ存在であり――その姿が、本作の段蔵と被って見えるのです。
(段蔵が、悪党の代表格である楠木正成の名を冠した楠流軍学を修めているのは果たして偶然かしらん)
さて、そんな痛快な段蔵の冒険譚も、しかし、本作の時点では道半ばといったところ。確かに一つの――それも彼にとって大きな大きな意味を持つ――戦いは終えたものの、それは更なる戦いへの序章に過ぎません。伊賀に甲賀、雑賀との戦いもまだまだ続きますし、サラッと流されましたが彼の出自を考えれば…
そして、誰もが「それはさすがに…」と突っ込むであろうラストで明かされる豪快なネタもまだまだ描くべきことはあるはず。
現在雑誌連載中の続編では、武田家を向こうに回しての活躍が描かれるようで、そちらの展開も、実に楽しみなのです。
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