「柳生一族の陰謀」(TVSP) 集団から個人、ドライからウェットへ
「柳生一族の陰謀」のリメイク版スペシャルドラマが、28日に放映されました。
原版である劇場用映画「柳生一族の陰謀」については数日前の記事に書きましたが、言うまでもなくかつて東映が総力を挙げて製作した伝説的大作。その作品が、映画版で徳川家光を演じた松方弘樹が柳生但馬守を、上川隆也が柳生十兵衛を、内山理名が出雲の阿国を演じるという布陣で、リメイクされたのです。
さて、結論から先に言ってしまえば――「柳生一族の陰謀」でなければなかなか面白かった、の一言でしょう。
ストーリー的には映画版をかなり忠実になぞっており、既視感を覚えるシーンも多くあったこのドラマ版。さすがに二時間強の映画に比べると若干スケールダウンしている点はあり――特に勅使襲撃シーンがどうにもこじんまりとしていて、三条大納言の殺されっぷりもおとなしかったのは残念――また、小笠原玄信斎や左助が登場しないなど、登場人物の整理が行われていますが、これはまあ、仕方のない部分ではありましょう(映画版ではあっさりと倒された烏丸少将が、こちらでは大フィーチャーされていますし)。
しかしながら、本作が映画版と決定的に異なっているのは、ほぼ完全に、柳生十兵衛を主人公として描いており、また、劇場版では忠長の恋人であった出雲の阿国を、十兵衛に対するヒロインとして設定している点であります。
家光と忠長の権力闘争に心を痛めつつも、この争いが天下を安定させ万民を平和に暮らさせるためと信じて刀を振るう十兵衛と、権力を巡る暗闘の中で運命を狂わされ、自らもその駒の一つとして生きる阿国。この二人が時に憎みあい、愛し合う様が、物語のもう一つの背骨として描かれているのですが――
やはりというか何というか、これが映画版にあった「柳生一族の陰謀」という作品の魅力を減じさせた、というほかありません。
映画版の物語は、役柄の軽重こそあれ、誰が主人公と明言しにくい人物配置で描かれた、いわば群像劇でありました。もちろん、物語の中心には柳生但馬守がいることは間違いありませんが、しかし(先の記事でも書きましたが)但馬守自身はラスト以外はさして動きを見せず、いわば「台風の目」的な存在として位置しています。
いま台風という表現を使いましたが、まさに劇場版は、権力を巡る嵐の中で、善悪もなく主義主張もなく平等に翻弄される人々の姿を描いた作品であり、そしてそのドライな平等さこそが、人一人の存在など一顧だにしない歴史のうねりの巨大さを浮かび上がらせていたのですが…本作では、十兵衛が主人公となることで、物語の焦点がぼやけ、映画版にあったドライな味わいが薄れてしまった感が強くあります。
まあ、集団から個人、ドライからウェットというのも、時代の変遷ではありますが――
大作アクション時代劇としてみれば、見せ場も多く、ネタ的な部分も色々とあって、ずいぶんと楽しませていただいたので、しょーもないワイヤーワークを除けば、作品そのものとしては悪い印象はないのですが、やはり看板が大きすぎた、というところでしょうか。「柳生一族の陰謀」でなければ、素直に楽しめたのだと思いますが…
ちなみに、本作での心配要因の一つであった松方弘樹の柳生但馬守は、実に重厚な演技で良かったと思います。ラストの「夢じゃ夢じゃ」のエフェクトにはひっくり返りましたが…
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