「柳生烈堂血風録 宿敵・連也斎の巻」 江戸対尾張のドリームマッチ
将軍家綱の鶴の一声により、開催される江戸柳生と尾張柳生の御前試合。将軍家指南役を賭けたこの御前試合に、尾張柳生は最強の剣士である連也斎が出場、対する江戸柳生からは、烈堂に白羽の矢が立てられる。旅先で連也斎と出会い、己の腕が遙かに及ばぬことを悟った烈堂は、沢庵和尚が残したという秘奥義を求めるが、連也斎も同じものを求めていた…。果たして秘奥義の正体は、そして闇御前試合の結果は如何に。
火坂先生の「柳生烈堂」シリーズ第二弾。先日紹介した「柳生烈堂 十兵衛を超えた非情剣」の続編です(ちなみにこのシリーズ、微妙にタイトルに統一が取れてなくて、並べてみるとちょっと微妙)。
前回は兄・十兵衛の死の真相を巡り、十兵衛の高弟たちと対決した烈堂ですが、今度の相手は、同様に柳生新陰流とはいえ、江戸柳生とは不倶戴天の関係にある尾張柳生。それも最強と噂される連也斎厳包を向こうに回しての御前試合となれば、剣豪小説ファンとしては否応なく興味をそそられます。
連也斎厳包は、江戸柳生の面々や父・兵庫介に比べると、知名度の点ではいささか劣りますが、その強さでは他の面々に勝るとも劣らないと言われる人物。中でも、将軍家光の御前において当時の江戸柳生総帥・宗冬と対決、その指を砕いて勝利したという逸話(伝説)は、剣豪小説ファン、柳生ファンであればよくご存じではないかと思います。
ここで烈堂と連也斎の生没年に目を向けてみると、連也斎は寛永2(1625)~元禄7(1694)、一方、烈堂は寛永12(1635)~元禄15(1702)。連也斎の方が10年先に生まれ少々早く亡くなったものの、ほぼ全くの同時代人と言ってよいでしょう。
しかしながら、この二人が競演した作品というのは、私の知る限りほとんどなく――あるいは、上記の宗冬と連也斎の御前試合のエピソードが有名すぎるためかとは思いますが――本作でこの二人のいわばドリームマッチを持ってきたのは、なかなかにうまい着眼点、コロンブスの卵かと思います。
この二人の御前試合がクライマックスである本作のストーリー構成は、前作に比べても比較的シンプルではありますが、そこに興味深い味付けとなっているのが、沢庵和尚が残したという秘奥義の存在。
沢庵が剣術の奥義を、というと一見眉唾というか、逆にありがちにも見えますが、ラストで明かされるその正体はなかなかユニークであり、烈堂がその奥義に開眼する過程/理由も、二人の間の関係を考えると頷けるものがあり、この辺りは――初期の火坂作品に共通する――職人芸的なひねり、うまさがあるな、と感じた次第です。
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コメント
今晩は。泊瀬(はつせ)と申します。古武道研究を暇な時にしています。
火坂さんの著作の「烈堂」は小池氏の「子連れ狼」と同様ですが、本当の歴史では義仙列堂で、作品の中でこの主人公だけ架空ですね。この二人の作家の符丁でしょうか?
投稿: 泊瀬光延 | 2009.03.17 01:11
泊瀬様はじめまして。どうぞよろしくお願いします。
このシリーズの一作目のあとがきには、こう書かれています。
「柳生烈堂は、文献的には「列堂」と書かれることが多いが本書ではとくに不羈奔放な剣客のイメージから、編集部との相談のうえ、あえて「烈堂」と記することにした」
同じあとがきに「子連れ狼」の烈堂への言及がありますので、こちらを踏まえつつ、上記のイメージ的理由からあえて「烈堂」としているということなのでしょう。
「子連れ狼」の方の「烈堂」の理由は、恥ずかしながら不明ですが、やはりイメージ的なものが大きいのではと想像します。
投稿: 三田主水 | 2009.03.17 23:17
主水様、ご教示有り難う御座いました。確かに小説の登場人物的には「烈」のほうが良いですね♪小島剛石氏の描くあの「烈堂」はそれに相応しいかも。これからもよろしくお願い致します。頓首
投稿: 泊瀬光延 | 2009.03.18 00:49