「柳生烈堂 十兵衛を超えた非情剣」 悪役剣士の再生
父の遺命で僧侶にされることを嫌い、無頼の日々を送っていた柳生宗矩の四男・烈堂は、剣の師である荒木又右衛門の勧めで、兄・十兵衛の晩年の三人の高弟を訪ねる旅に出る。だがそれは、柳生家の暗部に触れる旅に他ならなかった。十兵衛の死の真相を求める烈堂を襲う敵の正体は…
来年の大河ドラマ効果ということか、火坂雅志先生の旧作「柳生烈堂 十兵衛を超えた非情剣」が書店に並んでいました。柳生十兵衛・友矩・宗冬の下の、柳生宗矩の四男であり、後に京都大徳寺の住持ととなったと言われる列堂義仙の若き日の活躍を描いた剣豪小説です。
内容的には、この時期の火坂作品らしく、いかにもそつなくまとまった、ウェルメイドな作品。チャンバラあり、サスペンスあり、謎解きあり、濡れ場あり…まずは一時の楽しみとして読む分には、実に楽しい作品となっています(柳生ファン的には、柳生新陰流幻の奥義として、あの秘伝が登場するのが興味深いところ)。
尤も、後世に残る名作か、と言われれば首を傾げてしまうのですが、大衆時代小説に対してそれを云々するのは野暮というものでしょう。
そんな本作で最も注目すべきは、やはり主人公にあの柳生烈堂を持ってきた点でありましょう。
柳生烈堂の名前そのものを天下に知らしめた「子連れ狼」、また小説で言えば「吉原御免状」シリーズでの印象から、自然と悪役としてのイメージが強い烈堂。
その烈堂を、予め定められた己の境遇に激しい焦燥と不満を抱く青春の最中にいる若者(この人物像が、当時の火坂先生に重なるように思えます、などと言ったらやっぱり怒られるかしらん)として、そして剣の道を往くことで己を高め、成長していく剣士として描くことで、本作は、「悪役」烈堂を、新たなヒーローとして再生せしめたと――いささか大げさかもしれませんが――言えるかと思います。
火坂先生の「柳生烈堂」シリーズは、本作を含めて全五作。残る四作についても、いずれ紹介したいと思います。
「柳生烈堂 十兵衛を超えた非情剣」(火坂雅志 祥伝社文庫) Amazon
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