「猫絵十兵衛 御伽草紙」第1巻 猫と人の優しい距離感
作者のサイトで知って以来、単行本化を心待ちにしていた「猫絵十兵衛 御伽草紙」の第1巻がついに発売されました。
本作は、江戸時代を舞台に、鼠除けの猫の絵を専門とする猫絵師の十兵衛と、その相棒で猫又のニタが出会う様々な事件を描いた連作漫画ですが、期待通り実に私好みの作品でした。
猫の絵はうまいが人の絵は苦手、ぶっきらぼうなようでいて心は温かい十兵衛と、かつては猫仙人を務めていたほどの力の持ち主で、煙管や猪口を持つ姿も堂に入ったニタのコンビが出会うのは、猫と、その周囲の人間たちに関する様々な事件。
不思議な出来事もあればごく当たり前の日常を描いたものもあり、また必ずしもコンビが活躍するわけでもなく――というより大半がそうなのですが――狂言回し的位置にあるエピソードもあり、なかなかバラエティに富んでいます。
そんな本作の最大の魅力は、人間と猫の間の距離感の描き方の巧みさでしょう。
猫という動物は、少しでも興味のある方であればよくおわかりかと思いますが、犬などとは違って実にきまぐれ。ひどく用心深く、そして冷たく振る舞うかと思えば、心を開いた相手にはとことんべったりしてきたり…まあ、その辺りがたまらない魅力であるのですが、いずれにせよ、ある意味しっかり一個の存在として自己を確立した連中であります。
そんな猫と人間の間にある、時に広がり時に狭まる距離感を、本作においては、どこかのどかな絵柄と物語の中で、江戸の風物をデコレーションにして、温かく描き出しているのです。
私が作者の長尾まる先生の作品を初めて読んだのは、妖かしを見る力を持った旅絵師を主人公にした「ななし奇聞」ですが、その際に、主人公の妖かしに対するスタンス――特にこれを恐れるわけでも敵対するわけでもなく、それが天然自然の一部であるかのように振る舞う姿が、実に魅力的に感じられたものです。
それ以来、長尾作品が気になっていたのですが、その魅力は本作においても、人間と猫との関係の描き方において、健在であった…と大変に嬉しく思った次第です。
(ちなみに本書に収録された作品の中で十兵衛が語る、化生の者との接し方のこつというのが、また実に「らしい」ものであって、思わずニンマリさせられたことです)
そしてまた、人間以外の存在を描くことは、それに映し出さされる人間自身の姿を描くことでもあります。本作で描かれる人間と猫の間の優しい距離感は、同時に人間と人間の間のそれでもあり――それだけにより一層、本作の持つ温かさというものが嬉しいものとして感じられるのです。
絵柄の温かさ、可愛らしさももあり、猫好きの方には是非、とお薦めできる本作。猫好きである私本人が言っているのですから、間違いはないですよ。
(また、「ねこぱんち」最新号掲載のエピソードが良いんだ…)
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