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2008.12.16

「怪異いかさま博覧亭」第3巻 この面白さに死角なし

 続刊が出るのを今か今かと待ちかまえていたのにさんざんじらされていた「怪異いかさま博覧亭」の第三巻がようやく発売の運びとなりました。両国の見世物小屋を舞台とした妖怪人情コメディたる本作、テンポのよいギャグの切れ味はそのまま、時代ものとしての楽しさに磨きがかかって、いよいよ死角がなくなってきたように感じられます。

 さて、登場キャラクターが徐々に増えていくとはいえ、基本的にクローズドな世界で展開するコメディ漫画である本作について、毎回紹介するというのはなかなか難しい話ではあるのですが、しかしそうした作品だけに、特に内容の進化・深化は敏感に感じられます。。
 具体的に言えば――あくまでも個人的な感想ですが――この第三巻では、作中への江戸豆知識の投入と、それを踏まえたギャグ展開・物語展開が、非常にスムーズに、より効果的なものとなっていると感じられるのです。

 この巻のエピソードで言えば、例えば放生会という行事。時代小説などでは時折描かれることがあるものの、少なくとも最近の時代漫画では滅多にお目にかかれないこの行事を、本作においては、身も蓋もないくらいにシンプルかつ明確に紹介しつつ、登場人物のキャラ立てと、ギャグのネタ振り、そしてここから実におバカな(もちろんホメ言葉であります)物語を展開していくスタート地点として、うまいこと使っているものだと、大いに感心させられます。

 その時代ならではの事物を描くというのは時代ものの魅力の一つですが、単なる知識の紹介で終わっては、折角フィクションの物語を描いている意味がない。その存在を物語の構成要素に絡め、そして物語のテンポとダイナミズムを生み出していく…それをきちんと達成している本作は、良質の時代ものであると、今更ながら感じた次第です。


 まあ、そんなマニアの戯言は置いておくとして、本作の最大の魅力であるギャグの切れ味は今まで同様、いやそれ以上に研ぎ澄まされて、愉快としか言いようがありません。
 個人的にこの巻で一番好きなエピソードは、両国の見世物小屋の連中が、酔い潰した助平侍たちの身ぐるみを剥ぐ際のシーケンス。各自がそれぞれの仕事と特技を生かした上で次々と悪巧みを積み重ね(特に、居合い抜きの浪人が、満面の笑みですり替え用の赤鰯を持ってくるのが大好き)、瞬く間に狐に化かされた哀れな犠牲者ができあがってしまう様には、腹を抱えて笑わせていただきました。
 さらにそれが妖怪馬鹿の逆鱗に触れ、更なるギャグ展開につながっていく辺りの呼吸は、実に見事としか言いようがありません。

 コメディとしての楽しさに、時代ものとしての魅力が一層強まり、いよいよ完成度が高まってきた感のある本作。妖怪ものや時代ものとしてだけでなく、適度に萌えもある上にマスコットにも事欠かないことですし、そろそろ一気にブレイクしてもいいのでは――と、これはファンとしての願望抜きで感じているところであります。


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投稿: siruku | 2009.01.15 17:13

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