「ネリヤカナヤ 水滸異聞」第2巻 帰ってきた林冲!
異色水滸伝コミック「ネリヤカナヤ」の第二巻がついにと言うかようやくと言うか、発売の運びとなりました。
第一巻が発売された後、版元の破産で続巻の商業出版での刊行(本作は元々は同人誌として発表されている作品であります)がかなり難しくなったと思われたところに、版元をメディアックスに移しての続行というのは、ファンとしてはまことに嬉しくありがたい話であります。
それはさておき、この二巻では、前半で登州の毛家を巡る争いが、後半では高キュウを除かんとする王進たちの死闘が描かれることとなります。
ここで水滸伝ファンであれば「?」となるか「!」となるかと思います。登州の毛家と言えば、原典では中盤(のはじめ辺り)に描かれるエピソード。しかも原典のこの件では林冲は全く関わってこないのですから。
しかし本作の林冲の設定を見直せば、彼は尚書省刑部長官付きの間者(巡視官)。登州に向かったのも中央と結んでの汚職の証拠を求めてのことであり、その点からすると、このエピソードは、原典から持ってくるのに規模的にも内容的にも手頃だったのかな? と考えられないでもありません。
そして後半は、東京開封府に舞台を移してぐっと原典に近い――というより原典での林冲エピソードのスタート地点はここなのですが――展開。
もっともこちらでは、高廉(!)を懐刀に、宋朝の中枢を腐らせていく高キュウを暗殺するため、王進将軍が刺客に名乗りを上げるも…というアレンジが為されており、林冲の設定と合わせて、より「腐敗した権力との対決」という姿勢を明確にした本作ならではの展開という印象があります。
その一方で、林冲と魯智深(本作では有髪なんですが、いい感じにダメ人間で素敵)の友情、陸謙の転落など、人物描写も時にコミカルに時にシリアスに、達者に描かれており、キャラクターものとしての水滸伝の楽しさにも目配りされていると感じます。
そして次の巻では、いよいよ林冲の受難が描かれる模様…様々なバージョンの「水滸伝」物語においても、ほとんど必ず描かれるこのエピソードを、如何に本作ならではの味付けで描くことができるか。
辛い内容のエピソードではありますが、目を逸らさずに見届けたいと思います。――本作を再び読むことができる幸せを噛みしめつつ。
(にしても丸善では平積みで置かれていたのには少々吃驚しました)
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