「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」 雲の兼続起つ!
大河ドラマの放送が始まり、いやがうえにも注目度が高まる直江兼続ですが、ある世代においては、直江兼続は「花の慶次」で初めて知ったという方も多いのではないかと思います。
本作はその「花の慶次」のスピンオフ、米沢に隠居した前田慶次郎が、若き日の直江兼続、樋口与六の活躍を振り返るという趣向のコミックであります。
「花の慶次」においては、動の慶次に対して、静のイメージが強かった兼続。しかし、本作で描かれる兼続像は、慶次に勝るとも劣らぬ傾きっぷり、大胆不敵で好奇心旺盛な、「雲」のような男として描かれています。
物語は、16歳の兼続(与六)が、越後を飛び出し、謙信と対峙する信長の人となりを見極めるために、敵地の中心たる安土に現れる場面から始まります。
折しも安土では信長の天下獲りの中心となるべき安土城建設の真っ最中、職を求める者、楽しみを求める者、名を売ろうとする者、そして他国の間者…と、人間のるつぼとなった世界で、与六の大暴れが始まるという趣向であります。
この、与六の豪快かつ人を食った暴れっぷりといい、実に頭が悪い悪役造形といい、本作で描かれるのは、良くも悪くもいかにも原哲夫(原作)作品らしい世界。何もここまで似せなくとも…とも思わないでもありませんが――そしてそれは、隆慶先生っぽいナレーションに対してより感じてしまうのですが――まあ、それは「花の慶次」のスピンオフという性格上、やむを得ないことなのでしょう。
物語はまだおそらく導入部ということでしょうか、大胆にも己の名と身分を名乗って安土城建設現場に乗り込んだ与六が、秀吉と出会い、そしてさらに意外な姿でその場にいた(この辺りも「花の慶次」チック)信長と対面するところでこの第一巻は幕。
「花の慶次」においては、秀吉はともかく(「ドキッ! 武将だらけの露天風呂大会」とかインパクトありましたなあ…)、信長については時代的・舞台的制約からあまり出番はなかったという印象がありますが、本作においては、その信長が、真っ向から描かれる様子で、これはなかなかに楽しみなところであります。
その一方で、正直なところ、肝心の与六の方は、まだまだ主人公として差別化されていない印象があります。厳しい言い方をしてしまえば、別に慶次が主人公でも支障はないような…
もちろん、天下の自由人ではなく、あくまでも上杉の家臣という立場の違いからくる物語上の違いは、これから描かれることになるのだろうと思いますが――
かぶき者の与六が、果たしてこれからいかなる道程を経てあの直江兼続となるのか――雲の兼続がどれほどの男であるか、見せてもらいましょう。
「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第1巻(武村勇治&原哲夫&堀江信彦 新潮社バンチコミックス) Amazon
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