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2009.01.30

「星影の女 妻は、くノ一」 「このままで」を取り戻せ

 三ヶ月連続刊行の第二弾、「妻は、くノ一」の続編の登場です。
 藩に潜入してきた御庭番のくノ一を妻として愛した男と、その夫を真剣に愛してしまった女のドラマの行方や如何に…

 前作の後半で、行方不明となった妻・織江を捜すために江戸に出てきた彦馬。当時の人間としては極めて科学的思考の持ち主である彼は、妻を捜すうちに出くわした怪事件を次々と解決することになります。
 と、この辺りの展開は、いつもの風野作品のパターンそのまま。どこかすっとぼけたユーモアとペーソスを交えて、主人公が一見不可思議な事件を解決していくという趣向であり、本書にも全部で五つのエピソードが収録されています。

 その一方で、大きく異なるのは、もちろん彼の妻の存在です。
 彦馬が仕えていた平戸藩の藩主であり、江戸に出てからは彼の後見的立場となる松浦静山。前作ラストで驚きの野望を口にしたその静山の身辺を探るために、織江は平戸藩の下屋敷に潜入してくることになります。

 つまりは、彦馬にしてみれば探し求める妻がすぐ近くにいるのに気付かず(変装しているので)、織江にしてみれば愛する夫が目の前にいても声をかけられないジレンマ…
 もちろん二人ともそれなりの年齢、ロミオとジュリエットというほども純愛ではないかもしれませんが――彦馬はともかく、織江の方は単純に美化されることなく、年齢や経験相応の言動を見せる生身の女性として描かれているのには感心します――ただでさえ大変なところに、いよいよ苦難が増えていく二人の愛の行方には、大いにやきもきさせられます。


 そして、そんな二人の(今のところ)叶わぬ想いの象徴が、織江が七夕の短冊に書いた「このままで」という言葉。
 今の幸せが、このままであるように――儚い仮寝の夢とも言うべき夫婦の暮らしを繋ぎとめようとする織江のこの切ない祈りを思えば、彦馬でなくとも胸がつまる想いがいたします。

 実のところ、風野作品は居心地の良い雰囲気のものが多く、「このままで」という気分になることも多いのですが、しかし、彦馬と織江のことを思えば、今の「このままで」では困るのも事実。
 かつての「このままで」を取り戻せるように、心から願う次第です。

 この巻のラストが、風野作品には珍しいくらい後味の悪い引きだっただけになおさら――


「星影の女 妻は、くノ一」(風野真知雄 角川文庫) Amazon
星影の女  妻は、くノ一 2 (角川文庫)


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