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2009.01.06

「妻は、くノ一」 純愛カップルの行方や如何に!?

 平戸藩の御船手書物天文係で星の知識以外に取り柄のない変わり者の雙星彦馬が、美しい妻・織江を娶ることとなった。が、仲睦まじい結婚生活を送ったのもつかの間、織江は一月で姿を消してしまう。織江を探し求める彦馬は隠居届けを出して江戸に向かうが、実は彼女は平戸藩を探るくノ一だった…

 十二月の角川文庫は時代小説フェアということで、いつになく様々な時代小説が刊行されましたが、その中の(個人的)目玉は本作、風野真知雄先生の「妻は、くノ一」です。
 タイトルだけ見て、以前に「時代小説大全」に掲載された同名の短編の長篇化かと思いましたが(そんなこと考える人はそうそういないでしょうが)、タイトルが同じだけで内容は全く別物。最近の風野作品からすると、ちょっとだけ異色の作品であります。

 主人公の彦馬は、一口に言ってしまえば喪男。空の星に魅せられて、実家の田畑を売り払ってまで望遠鏡を買ってしまうような天文オタクで、侍としての実務には馴染めない性格です。
 ビジュアル的にも今一つで、まあ今も昔もモテないタイプであります(あ、書いてて何だか胸が痛くなってきた)。

 一方の織江は、そんな彼には勿体ないくらいの慎ましやかな美人ですが、その実は、江戸から潜入してきたくノ一、御庭番。
 江戸には病身の母を抱え、非番の時には同僚くノ一と飲みながら妙に生々しいグチをこぼす(この辺りの妙にすっとぼけた空気は風野作品ならでは)という、ちょっと切ない暮らしを送っています。

 そんな、己の暮らしにどこか満たされないものを感じている二人が出会うことで始まる本作。
 たった一月でも彦馬にとっては一生愛すと誓った妻、たとえ任務でも――それもこのような任務は初めてではなくとも――織江にとっては初めて惹かれた男…かくて、本来であればそのまま二度と出会わないはずの二人のドラマが、始まることとなります。

 スパイが、潜入先の異性と、真剣な恋に落ちるというのは古今東西で描かれるストーリーというのは、時代ものでも決して珍しい趣向ではありません。
 しかし本作では、主人公二人を、時代ものならではの突飛さを持ちながらも、どこか現代にも通じるパーソナリティを備えた一個の人間として描くことで、我々読者にも大いに共感できる作品として仕上げているのが実にうまい。
 この辺りの呼吸は、いかにも風野作品であると感じさせられます。

 しかし、そんな二人の運命を動かすのは、かの松浦静山を擁する平戸藩と、その行動に疑いを持ち探索を始めた幕府という、二つの巨大な力のせめぎあい。
 一個人にはどうしようもないと思える状況に、果たして二人の想いの行方は…と、今のところ、さまで深刻に感じられないのも風野節ではありますが、しかし、ここまで応援したくなるカップルも珍しいのではないかと思います。

 本シリーズは三ヶ月連続刊行、少なくともあと二巻は続くこととなりますが、さて二人の純愛が叶う日は来るのか。本作のラストで松浦静山がとんでもないことを口走ったりして、まだまだ二人の前途は多難ですが…しかし実に先が楽しみなのです。


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妻は、くノ一 (角川文庫)

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