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2009.01.13

「流転の果て 勘定吟味役異聞」 勘定吟味役、最後の戦い

 我が子として育てた五代将軍綱吉の子・吉里を将軍につけることを念じて亡くなった柳沢吉保。その企みの一端として、大奥に送り込まれた刺客が、将軍家継に迫る。折しも大奥への事情聴取に訪れていた水城聡四郎は、この暴挙を防ぐことができるか――

 勘定吟味役・水城聡四郎の活躍を描く「勘定吟味役異聞」シリーズも、この第八巻でいよいよ完結であります。

 これまで長きにわたって描かれてきた、将軍位を巡る暗闘――いまだ幼い現将軍家継を押さえる間部詮房、将軍親政を目指す紀州の徳川吉宗、実は綱吉の子である柳沢吉里を将軍位に就けんとする柳沢吉保。
 三者の、そしてその周囲で、権力の座に少しでも近づこうとする者たちの思惑が入り乱れる中で、我らが聡四郎は、孤軍奮闘を強いられてきました。

 とにかく向かうところ全て敵だらけ、それも、その一つを敵にしただけでも命が危ういような相手ばかりに囲まれた聡四郎の運命の行方については、シリーズ読者として大いに心配させられてきたものですが、ついに本作が、勘定吟味役・聡四郎の最後の戦いということになります。

 そのクライマックスとなるのは、大胆にも大奥に送り込まれた、将軍暗殺の刺客との対決。
 前巻でついに世を去った柳沢吉保が最後に遺した毒とも言うべき暗殺者との戦いは、命知らずの聡四郎の戦いの中でも、色々な意味で最も危険な戦い。まずはシリーズのクライマックスとして、ふさわしいステージであったかと思います。


 さて、全八巻という結構な分量となった「勘定吟味役異聞」シリーズ。完結したいま振り返ってみれば、権力者と彼らに寄生する者たちとの暗闘を、伝奇風味たっぷりに描いた、いかにも上田先生らしい快作であった、と感じます。

 何よりも、主人公を勘定吟味役という特異なお役目に設定することにより、徳川幕府における「経済」という、知られているようで知られていないユニークな題材を、エンターテイメント性豊かに描いてみせたのは、本シリーズならではの収穫でしょう。
(もっとも、後半は将軍位を巡る争いが中心となったこともあり、経済という側面が、物語の背景に行ってしまった感はありますが…)

 また、特にユニークであったのは、紀国屋文左衛門の存在でしょう。
 聡四郎のある時は強敵として、またある時は助言者として謎めいた行動を見せた文左衛門は、本作の主題である「経済」を代表する存在でありながら、その一方で、物語に登場する様々な権力ともある程度の距離を置いた、きわめて自由な男。
 上田作品に通底するテーマは、権力と対峙した人間の姿・在り方だと個人的には考えておりますが、そう考えると、本作のもう一人の主人公ではないか――そんなことすら考えてしまうのです。

 何はともあれ、時代は大きく動き、聡四郎の戦いもひとまず終わりました。
 経済面に大きな問題意識を持った吉宗が八代将軍となることにより、本シリーズで描かれたような経済面の歪みというものは、ある程度は解決されるのでしょう。

 しかしながら、それだけで、徳川幕府の権力を巡る歪みが解消されるわけでは、もちろんありません。それどころか、一層の歪みが露わになることも――例えば、構造改革の狂騒が過ぎた現在の日本のように――あるでしょう。
 その時こそ、聡四郎の出番が再び回ってくるのではないか――期待混じりに、そう感じている次第です。


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