「大正探偵怪奇譚 鬼哭」 怪奇探偵、帝都の闇を往く
銀座の片隅で伯母の九尾、給仕のたま子と共に暮らす小説家にして怪奇事件専門の探偵・丑三進ノ助。満月の晩、美しい娘ばかりが狙われる連続神隠し事件の捜査に乗り出した進ノ助は、子爵令嬢の白金千歳と出会う。互いに惹かれあう二人だが、その前に白金家の秘密が暗い影を落とす…
劇団しゅうくりー夢の代表作「大正探偵怪奇譚」が小説化されました。代表作、と言いつつ、恥ずかしながら舞台の方は未見なのですが、しかしあらすじを聞いて大いに楽しみにしていたこちらの期待通りの内容でした。
帝都の闇に暮らす古の――しかしその時代のあり方に適応した――妖たち、重い過去を背負って飄々と生きる探偵、続発する猟奇的事件、奇怪な陰謀を張り巡らせる怪軍人…
いずれも、私の大好物ばかりで、大いに堪能させていただいた次第。
特に、一連の事件の真犯人のあまりに無情な正体は――薄々察しはついていたとはいえ――なかなかにショッキングで驚かされました。
しかし、私好みと言いつつ、こうしたことを書くのは気が引けるのですが、いささか気になった点もあったのは事実です。
その一つは、人物描写がいささか薄味に感じられたこと。登場人物一人一人は、それぞれ個性的ではあるのですが、その描写においてもう少し突っ込んだ描写がほしかったとでも言いましょうか。
この辺りは――原作舞台を見ずに言うのも何ですが――おそらくは舞台で見れば違和感なく受け取れる部分、つまりは演出と役者の演技に依る部分だったのではないかと思うのですが…
また、何よりも惜しいのは、本作の内容から、舞台は大正でなくては! という強い必然性が伝わってこなかった点でしょうか。
時代の大きな変化の中で、妖の在り方もまた変わっていくということがバックグラウンドにはあるのだと思いますが――そしてそのこと自体はきちんと現れてはいますが――しかしそれが大正という時代と有機的に結びついていたかと言えば、それは…というところであります。
苦言が多くなってしまいまことに恐縮ですが、それも本作の内容に魅力を感じるゆえ、とご容赦いただければ幸いです。
同時発売された、本作ではほのめかされる程度だった主人公たちの過去(それも相当の!)の物語を描いた第二巻も、すぐに手に取るつもりであります。
「大正探偵怪奇譚 鬼哭」(揚羽千景&松田環 徳間デュアル文庫) Amazon
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