「必殺仕事人2009」 第8話「一発勝負」
だいぶ遅れてほとんど次の回にかぶってしまいましたが、先週の「必殺仕事人2009」の感想。
「必殺仕事人2009」の特徴の一つに、各回の豪華なゲストがあるかと思います。今回のゲストは長門裕之と神保悟志。それも長門裕之演じる老スリと主水さんが絡むというので大いに期待しておりました。
ストーリー自体は、思わぬ秘密をスリとってしまったスリたちが、次々と黒幕に襲われ、仲間たちが復讐を決意するという、古今よくあるパターンではあるのですが、今回はそこにスリの親分である嘉助(長門裕之)と富吉(神保悟志)父子の複雑な愛憎を絡めたのが趣向の一つ。
既に一線を退きながらも、未だに息子には全てを任せれず、一人暮らしを続ける伝説のスリ・嘉助と、そんな父にコンプレックスを感じ、憎みすらしながらも、子としての情愛を捨てきれない富吉…父と子でありながら、いやそうだからこそ互いの意地を捨てきれない――そしてそれが悲劇を生むことになる――二人の姿が、実にいいのです。
ギラギラしたものを秘めながら、同時にどこか線の細さも感じさせる神保氏の演技と、もうどこからどこまでが演技なのかわからないような長門氏の豪快でへそ曲がりな爺っぷりが、物語の設定の味わいをよく引き出していたと思います。
そしてもう一つの趣向は、主水と嘉助の、八丁堀とスリという立場を超えた二人の友情であります。
既に老境に差し掛り、共に生き過ぎてしまったという想いを抱える同士のやりとりは、あまり深刻にならないような顔合わせだからこそ、なおさら胸に迫るものがあります。
(そしてまた、嘉助が主水の裏家業に気付いていたことをほのめかす描写もまたいい)
これはいつか書こうと思ってきたのですが、今回のシリーズの主水さんの佇まいは、単に老仕事人というのではなく、その言動の端々に「生き延びてしまった」者の哀感があるように感じられます。
このような見方は、これまでのシリーズの積み重ねがあってかもしれませんが、今回、嘉助が主水に託した仇の太刀――この太刀、息子の仇討ちのため、下手人の差料を嘉助が公衆の面前でスリ取ったものというのがまた凄い――を前に見せた厳粛な表情は、また一人、昔馴染みを見送ることになってしまった悲しみがあるように感じられたことです。
実のところ、今回は必殺としては、極めてオーソドックスなスタイル――つまりフォーマット通り――だったのですが、しかしドラマ面を充実させることにより、見応えある佳品として仕上がっていたかと思います。
仕事シーンについては、色々ツッコミどころはありましたが…まあこれも冒険心の表れということで一つ。
(しかし涼次の仕事だけはどうにも。あれは絶対後ろから見えてるって…)
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コメント
今回の長門さんは良かったですよね。
あのクセの強い庶民的な風情は、なかなか他の俳優さんには真似できないかもしれないなと思いました(他の同年代の俳優たちは上品すぎて出来ないだろうと)。
中村主水の藤田さんも実にしみじみとした役柄ですしねぇ。
ところで若い連中どうでしょうね?
今回は、松岡もヒガシもなかなか頑張っているように思えますが。
投稿: たぬき | 2009.03.12 12:28
今いろいろと思い返すと、親子別居で互いにいがみあいつつもお互いを気にかけている今回の親子は現代人の家族の絆に対するメッセージが込められているのかなとも感じてきました。これもやはり長門・神保両氏の名演の賜物ですね。
あと嘉助が決してスリの本分(という言い方もアレですが)を弁え、息子の仇も血を流さず(そういう血なまぐさい考えすら念頭になく)討ったところも良いですね。番屋に包まれた大刀が無造作に置かれていたシーンには胸のすく思いでした。嘉助の完璧な勝利!
投稿: 伯爵 | 2009.03.12 13:30
いやーよく見たら思いっきり打ち間違えとかしてました。お恥ずかしい。
たぬき様:
嘉助のキャラクター像自体は珍しいものではありませんが、長門さんのあの演技によって、きちんと血の通った存在になったと思います。
今回は若手が前面に出ていますが、主水さん含め、しっかりと脇を固めるベテランあってこそ…ということでしょう。
その若手も頑張ってると思います! 特に松岡さんの涼次はいいキャラですね。キャラが立ちすぎて最終回に死なないか心配です(笑)
伯爵様:
そうそう、話の筋や二人の演技に気を取られてしまいますが、よく考えればあの父子の姿は、現代劇にもありそうな形ですね。ちなみに二人で大喧嘩した後の、神保さんの切なげな表情が印象的です(あれ見るまで、裏切るんじゃないかと心配してましたが安心しました)。
嘉助のあれも、(ラストの主水さんの仕事も含め)お約束と言えばお約束ですが、気分よかったですねえ。映像で見てもいつスったかわかりにくいのがすごい。
投稿: 三田主水 | 2009.03.12 23:55