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2009.03.03

「無限の住人」第24巻 二人の凶獣

 最終章に入ってから盛り上がりっぱなしの「無限の住人」の最新第24巻で描かれるのは、凶人・尸良と万次の血戦。万次に対して異常な執着を見せる尸良の新たな力の前に苦戦を強いられる万次と凛の運命は…

 変人変態の少なくない本作において、まず出くわしたくない筆頭である尸良。その尸良が不死身に…という展開は、正直なところ不死力解明編のラストで万次の腕を奪って消えた時点で予想できましたが(そして引っぱるだけ引っぱった不死力解明編の身も蓋もない結論にガックリときましたが)、しかし、一番不死になってはいけないような男が不死になってしまったのは間違いのない話。

 真冬の水の中に凛を沈め、その息の根が止まる前に自分を倒せと迫る姿は、なんというか、冷静に考えると男塾チックなものがありますが、そんな阿呆な感想も吹っ飛ぶほど、絵のクオリティは相変わらず――いやこれまでにも増して高い。
 万次も尸良も、ただ得物を手にして立つだけで実に絵になるものです。

 しかし体質は同等で剣力はほぼ互角、共に同じ隻腕…となれば、勝負を分けるのは精神――気合いの問題ですが、その点で万次を上回ったのは尸良の妄執。凛を助けようと焦る万次は、更なる罠の前に凛ともども絶体絶命の危機に…というところで思わぬ(?)助っ人の登場に、いよいよ状況はわからなくなりますが、しかし個人的に気になるのは、この万次を追い詰めた後に尸良が見せる、人間らしい表情と述懐。
 それまでの狂気が嘘のようなその姿は、あるいは彼らしい気まぐれの一つなのかもしれませんが…尸良についてはその他にも、いくつか違和感、ひっかかりを感じる部分があったのですが…さて


 と、ほとんどを万次対尸良に費やされてしまったために割を食った感がありますが、見逃せないのはこの巻の冒頭での逸刀流・馬絽祐実の大暴れ。前巻からの続きで、江戸城脱出の途中に番士たちに捕らわれた馬絽が見せる、凄まじい剣技たるや…!

 帯で凶獣と評されているのは尸良ですが、手負いの状態から十人以上の番士を向こうに回し、斬るというより粉砕するというのが相応しいような颶風の如き大殺陣を演じた馬絽もまた――その精神のあり方も含めて――凶獣と呼ぶに相応しいと感じます。

 そして、その大殺陣の描写もまた素晴らしい。アクロバティックな殺陣の描写には連載当初から定評のある作品ですが、数ページに渡って描かれるその描写には、まだこのような手があったか! と大いに感心いたしました。
 現実的ではない、と言う方もいるかもしれませんが、作品の中で描かれたものこそが、漫画における現実。ここで描かれた馬絽の大殺陣は、まぎれもなく現実の迫力と重みを持って感じられるものであったと感じます。


 …今までニセ万次とか言っててごめんね。


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