「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」第3巻 独眼に映る戦場の真実
一回あたりのページ数がそれほど多くないためか、前の巻が出てからずいぶんと空いた感のある「姫武将政宗伝 ぼんたん!!」の第三巻が待望の登場です。
第二巻では、梵天丸が伊達政宗となる様が描かれましたが、この巻で描かれるのは、その政宗の初陣。青雲の志を抱いて戦場に臨んだ政宗ですが…
と、初陣の前に、この巻の冒頭で描かれるのは、なんと(?)政宗の結婚。大河ドラマでもお馴染み愛姫のお輿入れですが、しかし本作の政宗はアレなわけで、一体どうごまかすのか…と思えば、ここで出てくるのが例の義姫の三年間の配慮。
このエピソードをここで使ってくるか! というひねりが本作では非常に多いのですが、ここでもそのセンスは健在で、感心させられました。
しかしこの巻で最も驚かされたのは、政宗が初陣で目の当たりにした、当時の戦の真実と、そこから生まれるドラマであります。
初陣で敵軍を圧倒し、意気軒昂たる政宗が、戦の後に見たもの…それは、焼き出された民百姓を襲い、略奪暴行を繰り広げる自軍の兵の姿。誇り高き武士の晴れ舞台の裏側にある、あまりにも生々しい戦の有り様に、政宗は大いに憤るのです。
この時代を描いた作品は数あれど、こうした「現実」について触れられたものは存外に少ないのは、これは間違いない話。その理由は色々とあるかと思いますが、その一つには、当時の武将にとってはこれは当たり前のことであり、一々動じるものではなかった、ということもあるのだと思います。
しかし本作においては、政宗はそうした戦の「常識」とはある意味無縁の存在。その彼女の目だからこそ、当時のいくさ人には当然のこととしてスルーされてきた「現実」を、明確に理不尽として――そしてそれは現代の我々が共感できる感情であります――映し出すことができるのでしょう。
本作の最大の特長である政宗が女性、というアイディアを、このような形で展開してみせたのは、正直に言えば全く予想外でしたが、しかし、なるほど! と大いに感服できるものであります。
そして同時に、このエピソードにより、史実では猛将と知られながらも、本作では何だか頼りなかった伊達成実の成長、そして政宗の天下獲りの決意に繋げていくドラマ構成もまた、心憎い限り。
さらに勢い余って(?)政宗の「独眼竜」宣言も飛び出し、ネタ的・メタ的なものをうまく取り込みつつ、シリアスとギャグのバランスをうまくとって物語を回していく作者のセンスとサービス精神を、大いに楽しませていただきました。
そんな紆余曲折を経て、逞しく育っていく政宗ですが、しかしこの巻のラストに描かれるのは、激動の予感。
政宗ファン、戦国ファンにとっては、この後に起きることは周知のことではありますが、さてそれを本作でどのように描いてみせるのか――到底ギャグではすまない大事件を如何に料理してみせるのか、大いに期待しているところです。
しかし今回は最上分少ないと思ったらわざわざラストに…特定の人向けのサービスとしか思えないよ! と思わせつつ、駒姫をしっかりと出してくるあたり(そして義光に「そなたをこの世の誰より幸せな嫁にしてみせるぞ」と言わせてしまうあたり!)そして、これまたさすがとしか言えません。
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