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2009.03.02

「身も心も 妻は、くノ一」 静山というアクセント

 三ヶ月連続刊行ももうラスト、「妻は、くノ一」の第三巻「身も心も」が発売されました。
 前巻からの引きは幸い大事にならずにすみましたが、しかし彦馬と織江の愛の行方はいよいよますます前途多難であります。

 三巻目にして、既に物語に完全に安定感が備わった感のある本作。
 安定しているというのは、よく言えばスタイルが確立されたということであり、意地悪に見ればパターン化されたということかもしれませんが、しかしいずれにせよこの安定感が、もどかしい二人の物語とマッチしているのは間違いないことだと思います。

 そして、そんな物語に絶妙なアクセントとなっているのが、松浦静山の存在でしょう。
 平戸藩主としては藩政改革・教学振興に積極的に取り組み、また自身は文武に優れ、特に剣術は殿様芸の域を遙かに越えた達人。そして何よりも、怪談奇談を数多く含んだ随筆集「甲子夜話」の筆者――史実から見ただけでも実に個性的なだけに、時代小説に登場することも少なくない人物ですが、本作のアレンジはちょっと類を見ないユニークなものであります。
(ちなみにこの巻では、静山を巡る第三勢力として、時代ものではお馴染みの――そして静山とは不思議な縁のある――あの人物が登場。まだほとんど顔見せ程度ですが、これからの動きが気になります)

 隠居して飄々と暮らしながらも、その一方で、ある意味、国を破壊しかねない大望を抱く…本作の静山は、彦馬の、そして織江の運命に大きな影響を与える――というより、そもそも静山がいなければ二人が出会うこともなかったのですが――巨星として、物語の中心に鎮座しているのです。


 松浦静山をはじめとする人々が持ち込む怪事件・珍事件に挑む彦馬の活躍を縦糸に、その静山の周囲を探る任を受けた織江の苦難と苦悩に満ちた探索行を横糸に織り上げられる本作。

 そこに浮かび上がる物語は、実に面白く、いつまでも読んでいたいと思わせる一方で、物語が続けば続くほど二人の苦しみはつのるばかり。
 幸いにもと言うべきか、残念ながらというべきか――三ヶ月連続刊行の後もシリーズは続くようですが、こうなったら少しでも早く、続く物語を見せていただきたいものです。


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