「ひとつ目さうし」 探偵一休、謎に挑む
巨人ダイダラボウ伝説の残る地を訪れた一休は、思わぬことから土地の領主の館での騒動に巻き込まれる。領主の側室たちが、いずれも一つ目の子供を産んだというのだ。奇怪な事件に風狂の虫を騒がせた一休は探偵役を買ってでるが。
お馴染み異形コレクションの、お馴染み朝松室町伝奇。最新巻「幻想探偵」に掲載されたのは、久々に青年一休を主人公としたミステリ…そう、ミステリであります。
今回一休が挑むのは、隻眼の巨人伝説が残る地での怪事件。
土地の領主の五人の側室のうち、四人が産んだのが、いずれも奇怪な一つ目の赤ん坊だった…という、何ともおぞましい事件の探偵役として一休が立ち上がることになります。
まさに幻想探偵…ではあるのですが、しかし本作がこれまでの一休ものと明確に異なるのは――これは早々に作中で提示されるので言っても良いと思いますが――この怪事件を引き起こしたのが、超自然の怪異などではなく、あくまでも人間の悪意が引き起こしたものであることでしょう。
赤ん坊の目にまつわる怪異というと、山田風太郎の某短編を思い出しますが、あれはあくまでも、ある意味超自然的な忍法によるもの。
本作においては、しかし、そのような手段を用いることなしに、異常な「犯罪」の手段を描き出しているのに驚かされます。
しかし何よりも嬉しいのは、謎解きに至る過程で登場する人物、ガジェットがしっかりと朝松伝奇している――そして、なるほど、あの連中であればこうした知識があっても不思議ではないと納得できる――こと。
単に謎解きに一定の説得力を与えるだけでなく、朝松室町伝奇としての格好をきっちりと整える効果を上げているのには、これは手練の技と言うべきでしょう。
室町伝奇、そして一休ものの懐の広さをも感じさせてくれる一編であります。
「ひとつ目さうし」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 幻想探偵」所収) Amazon
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