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2009.04.30

「大正探偵怪奇譚 縁」 鬼の愛に泣け

 帝都の闇で暗躍する紅蜘蛛戒少佐=地獄丸を追う怪奇探偵・丑三進ノ助=夜叉丸。だが時既に遅く、戒の邪術は関東大震災を引き起こす。人が鬼と化す地獄となった帝都で、家族への歪んだ愛に突き動かされなおも暴走する弟を止めるため、進ノ助は最後の決着をつけるべく戦いに赴く。

 「鬼哭」「鬼子」と発表されてきた「大正探偵怪奇譚」の小説版第三弾「縁」がめでたく刊行されました。
 これまでの二作で描かれた要素の一つ一つが、あたかもこの一作のためにあったかのように結びつき、哀しくも美しい物語を描き出す、まさに完結巻に相応しい作品であります。

 以前、「鬼哭」の感想を書いた際には、人物描写と時代設定の必然性に難ありと述べましたが、しかしそれは本作においては完全に払拭された印象。

 人物描写で言えば、前二作で積み上げられてきた進ノ助をはじめとする登場人物たちのドラマがここで一気に花開き、一人一人が生きたキャラクターとして、物語を彩りドラマを展開させていくのです。
 特に今回新登場した戒の配下の四人組が、ネーミング的にも立ち位置的にもどう見てもやられ役と思いきや、これが戒の求めるものと密接に結びついて、胸をえぐるような切ないドラマを盛り上げるのには驚かされました。
(特に迷企羅の最期は、作家をもう一つの顔とする進ノ助の設定を十二分に生かした名シーン! まさかここで泣かされることになるとは…)

 一方、時代設定についても、物語と有機的に結びついたドラマが展開されています。
 本作の重要な背景となっているのは、この大正時代に起きた大事件――関東大震災。しかし、この大震災は、単なる物語を盛り上げるカタストロフとしてではなく、人の本質を問う背景装置というべき役割を果たしているのです。
 大震災の直後に、実際に起きたという虐殺事件。本作はそれを通じて、人と鬼を隔てる壁の薄さというものを、容赦なく抉り出してみせます。
 そしてこのキャラクターと背景が生み出すドラマの中で浮かび上がるのは、「鬼子」でも語られた一つの問いかけ――鬼と人の間の違いは那辺にあるのか? であります。

 鬼は鬼として生まれたから鬼なのか、鬼には「愛」という情はないのか?
 それは裏返せば、人を人たらしめているものは何か、という問いかけに等しいもの。そして、本作で繰り返されるまさしく骨肉の争いの中で示されるのは、そのあまりに切なく哀しい答えであります。

 立場を違え、時を超えて戦い続けてきた兄弟――しかし、二人を支えてきたそれぞれの想いに、本当に違いはあったのか…
 その想いは決して絵空事ではなく、我々にとっても極めて近しい感情であるだけに、より深く鋭く、胸に迫るのです。


「大正探偵怪奇譚 縁」(揚羽千景&松田環 徳間デュアル文庫) Amazon
大正探偵怪奇譚〈第3巻〉縁 (徳間デュアル文庫)


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 「大正探偵怪奇譚 鬼子」 鬼と人の間に

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2009.04.29

「忍歌」第1巻 人の心に忍びの技

 上杉と武田の激しい戦いの中、次から次へと危険な任務に派遣される武田家の素破・歌丸。愛する妻と、これから生まれる子供のために必死に任務を果たす歌丸だが、その身を思いも寄らぬ過酷な運命が襲う。情に動かされる忍び・歌丸の運命や如何に。

 すっかり時代アクション漫画家として定着した印象のあるかわのいちろう先生ですが、その最新刊が、戦国忍者アクション「忍歌」の第一巻。「週刊漫画ゴラク」誌でシリーズ連載中の作品なのですが、これがまた実に面白い作品で、今更ながら驚かされました。

 基本的には主人公・歌丸が、次々と危険な任務に挑む様を、忍術の心得を記した忍歌と絡めて描く短編連作エピソードなのですが、歌丸がスーパーヒーローではなく、また歴史を動かすような力や地位を求める者ではないのが、本作に単なる忍者ものから一線を画する面白さを与えていると言えます。
 あくまでも心身ともに常人の範囲内で、人より少しばかり(もちろん、かなり幅の広い「少しばかり」ですが)優れた忍びの腕と機転でもって、死地を潜り抜ける様は――主人公像的な意味で忍者版「ダイ・ハード」という印象すらありますが――実に人間的で共感させられると共に、クライマックスでの大逆転が更に爽快に感じられるのです。
(特に、ラストエピソードでの服部半蔵正成(!)戦での決め技が実に印象的!)

 そんな歌丸の戦いが変化を見せるのは、この第一巻の後半。何者かに里を襲撃され、身重の妻を奪われた歌丸は、主家を捨て、フリーランスの忍びとなって、少ない手がかりを元に妻を追い求めることになります。
 忍びたるもの、非情を以て旨とするのがあくまでも基本。その意味からすると、歌丸は単に主家を捨てたという以上に、忍びであることを捨てていることになりますが、しかしそれでも頼りになるのは習い覚えた忍びの技。

 人の心に忍びの技という、魅力的な存在となった――本人には嬉しくも何ともないかと思いますが――歌丸が、どこまで人としての己を貫くことができるか…戦いの行方を見守りたいと思います。


 ちなみに、歌丸自身は庶民的ながら、ほとんど全てのエピソードに歴史上の有名人が登場する本作。その中でも、一般にはどうしようもないボンボンの印象の強い今川氏真が、本作ならではのキャラクター像で描かれているのが印象に残ります。


「忍歌」第1巻(かわのいちろう 日本文芸社ニチブンコミックス) Amazon

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2009.04.28

「岡っ引どぶ」 これぞ柴錬捕物帖

 飲む・打つ・買うの三拍子揃った岡っ引き・どぶ。一歩間違えれば牢に入る側に回りかねないどぶだが、彼を見込んだ盲目の天才与力・町小路左門は、どぶに次々と怪事件の探索を命じる。どぶの糞度胸と仕込み十手が、隠された奇怪な真実を暴き出す。

 数年前復刊された柴錬先生のこの連作短編集、「柴錬捕物帖」と副題にありますが、捕物帖でも柴錬が書けばこうなる! と言うべき快作であります。

 主人公・どぶは、前歴は侍というほか、氏素性のほとんど知れない男。飲む・打つ・買うと品行方正にはほど遠いが、しかし弱者へのたかりは決してしない硬骨漢でもあります。
 もっとも、強い相手には遠慮せず、かの河内山宗俊と組んで悪徳商人を向こうに回して一勝負やらかすような無茶苦茶なキャラクターは、やはり柴錬主人公といったところでしょうか。

 そしてそのどぶを岡っ引きとして使うのは、盲目ながら眉目秀麗・頭脳明晰の与力・左門。名門の生まれながら病で視力を失い、町奉行所の与力株を買って、独自の立場から怪事件を追う、一種の怪人物であります。

 このどぶと左門、あまりに対照的な二人が挑む事件は、その破天荒なキャラクターにふさわしく、伝奇的な怪事件ばかり。
 この正編に収められているのは以下の三編――
 先祖代々の陰惨な宿業を伝えるという通称・怨霊屋敷に伝わる名刀の行方にまつわる「名刀因果」
 体中の肉が落ちた無惨な白骨死体と、驕慢な将軍庶子の姫君の乱行から浮かぶ地獄図絵「白骨御殿」
 権勢を誇る幕閣の屋敷で次々と起こる怪事件の陰に、綿々と続く壮絶な怨念が蠢く「大凶祈願」
 いずれも、いかにも柴錬先生らしい、奇想に満ち満ちた作品で、粋だ人情だという捕物帖に付き物のそれに背を向けた伝奇ぶりが清々しいばかりです。

 しかしこの三編、いずれも武家屋敷を舞台にした物語で、(それなりの理屈はあるにせよ)町方が武家の事件に…? と思わないでもないのですが、しかしむしろそれこそが主人公が岡っ引きである由縁。

 三編に共通するのは、武家(屋敷)という確固たる世界の内側の因縁・虚栄・偽善の存在と、それにより最後にはその世界が崩壊していく様。
 身分制――というよりインテリゲンチャの負の側面――が生み出した、武家社会の暗部を暴き、崩壊させる役目は、これは武家社会の外側に位置する者がふさわしい、と感じられるのです。

 さらに言えば、負の鎖で縛られた共同体を解体する役目を持つ探偵――ネタっぽく言えば結局犯行を止められない点も含めて――という意味で、どぶには金田一耕助的な立ち位置を感じるのですが、さすがにこれは牽強付会に過ぎるかな。


 地べたから物申す、を体現したようなどぶの活躍は、続編も刊行(こちらはつい先日復刊されたばかり)されていますので、こちらも近日中に取り上げたいと思います。


「岡っ引どぶ」(柴田錬三郎 講談社文庫) Amazon
新装版 岡っ引どぶ (講談社文庫)

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2009.04.27

五月の伝奇時代アイテム発売スケジュール

 先日桜が開いたと思ったら、もう藤の咲く頃で、その次は躑躅が…と咲く花で時間の流れを知るのも楽しい季節ですが、何が言いたいかというとあっという間にもう5月。5月の伝奇時代アイテム発売スケジュールです。
 さすがにこの数ヶ月間のラッシュに比べるとおとなしいですが、まあ小休止ということかもしれません。

 文庫小説の新刊では、第一弾の完成度の高さも記憶に新しい翔田寛の「やわら侍・竜巻誠十郎」シリーズの続巻「夏至闇の邪剣」が登場。また、続きが待ち遠しかった風野真知雄「妻は、くノ一」の第四弾「風の囁き」も刊行されます。
 も一つ色々な意味で気になるのは、倉阪鬼一郎の「深川まぼろし往来」。タイトルだけ見ると何やら妖しげな印象で楽しみですが…双葉文庫ので愕然としたので油断できません。

 旧作では山風先生の名作「叛旗兵」が登場。…なのですが、サブタイトルが「妖説直江兼続」なのはいかがなものか。いや、ウソをついてはいないのですが。
 また、初登場の新人物往来社文庫では、風野先生の「黒牛と妖怪」が登場。これはかなり嬉しい復刊です。新人物往来社は、単行本のみ刊行の時代小説をかなり抱え込んでいる印象があるので、文庫の弾には困らない印象ですね。ちなみに永倉新八の「新撰組顛末記」も同時発売です。これも気になる…
 その他、快調ランダムハウス講談社時代小説文庫からは、「若さま侍捕物手帖」の第五巻と、柴錬先生の「江戸八百八町物語」が、ちくま文庫からは「読んで、「半七」!」と題した半七捕物帳傑作選が登場するのが、目についたところです。


 さて、漫画の方もそれなりの点数。新登場は、奇蹟の(?)復活を遂げた「危機之介御免」の第二シリーズ「ギヤマンの書」の第一巻のみですが、続刊は「風が如く」「惡忍 加藤段蔵無頼伝」「そして 子連れ狼 刺客の子」「裏宗家四代目服部半蔵花録」「ムヨン 影無し」「ICHI」と、なかなかのラインナップです(「惡忍」はこれで完結というのが残念ですが…)。


 映像作品では、武侠もので黄暁明版の「鹿鼎記」DVD-BOXが登場。ちょうど原作の文庫版も刊行中ですし、良いタイミングです。相変わらずマクザムさんはいい仕事するなあ…


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2009.04.26

「必殺仕事人2009」 第13話「給付金VS新仕事人」

 おそらくは前回から延長分に突入した「必殺仕事人2009」ですが、いよいよ今回から新仕事人・仕立て屋の匳の登場であります。
 正直に言って、時事ネタ、それも新仕事人登場のイベント回ということであまり期待していなかったのですが、なかなかどうして面白いエピソードとなっていました。

 前回ラストで小五郎の獲物をかっ浚った匳。その彼の匳の弟分をはじめとする人々が巻き込まれた陰謀と悲劇が今回描かれるのですが、その中心となるのがなんと定額給付金。

 あまりにもあまりにもの時事ネタに初めは愕然としましたが、しかしこれが人別の帳外れ(逃散などにより人別帳から外された者)と組み合わされたことで、コロンブスの卵的面白さが生まれていたのには驚かされました。

 それというのも今回の悪人の陰謀というのが、帳外れの人々に人別を与えると持ちかけ、別人として生活させ、その分の給付金を着服するというもの。
 現実の方でも、制度の不備で本来必要としている人間の手に給付金が渡らなかったり、受給詐欺の可能性が指摘されているところ、これは妙な説得力がありました。
 そして何よりも、時代もので色々と難しい部分がありそうな人別ネタを、このような形で持ち出してきたのにはただ感心。まさに今この時しかできないネタあしらいであります。

 そしてまたうまいのは、そこに匳自身の物語を絡めてきたことでしょう。
 帳外れの人々の庇護者として振る舞う彼であっても、彼らを一気に、全て救うことはできない。つっぱっていても一人では何もできない――そんな彼の無力さが、小五郎たちの手を借りての仕事に繋がっていく展開はうなずけます。
 またいささか意地悪に見れば、彼も帳外れの人々に必要とされることに、自分の価値を見出していたと解せる部分もあり、その意味で、からくり屋とは別の意味の若さ・弱さが見て取れるのです。

 しかし、からくり屋の轍を踏まないようにということか――ここで匳の前に主水が出てくるのがうまい。仕事料を取らずに仇を仕留めた匳に対する主水の言葉は、神様(人々を未然に救うヒーロー)にも、悪魔(自分のために他人を殺す者)にもなれない、仕事として人を殺す仕事人の、中途半端で、しかしどこまでも人間的な存在感を語るものと受け止めました。

 まあ、肝心の匳の仕事ぶりは、技の序破急の区切りがはっきりしなくて今一つノれなかったのですが、これは初陣ということで良しとしましょう(むしろあの技で、前回ラストにどうやって本田博太郎を殺せたのか…)。

 何はともあれ、匳の存在はまだまだ台風の目になりそうで、後半戦も楽しむことができそうです。


 ちなみに今回、主水のめざし一本で、小五郎の複雑な心境(というか彼の動揺ぶり)を表現していたのは、地味にうまい、と感心した次第。


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 「必殺仕事人2009」第04話「薬物地獄」
 「必殺仕事人2009」第06話「夫殺し」
 「必殺仕事人2009」 第8話「一発勝負」
 「必殺仕事人2009」 第10話「鬼の末路」
 「必殺仕事人2009」 第11話「仕事人、死す!!」

関連サイト
 公式サイト

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2009.04.25

「この島にて」 恐るべき進化の果てに

 神隠しにあった息子を求めて、朋輩とともに「この島」なる孤島に渡った香西四郎。つい先日暗殺された妖管領・細川政元が生み出したというその島に上陸した彼らを、奇怪に変容した生物たちが襲う。果たしてこの島で行われていた術とは…

 奇々怪々なお題の多い「異形コレクション」にしては珍しくストレートな(?)テーマ「進化論」に収録された一編であります。
 進化論と室町伝奇を結びつけてみせた本作の作者は、言うまでもなく朝松健先生。今回も、アクロバティックでありながら、骨太な伝奇世界が展開されています。

 本作の主人公は、「妖管領」細川政元を暗殺した香西元長(実在の人物)の従兄弟・香西四郎。
 神隠しに遭った息子が、実は政元に拐かされ、「この島」なる孤島に捕らわれていることを知った四郎が、島で目撃した地獄絵図が、元長による政元暗殺の場面と平行して描かれます。

 細川政元と言えば、その強大な政治力・軍事力で応仁の乱後の幕府を牛耳った人物ですが、その政元が「妖管領」なる異名を持つのは、実に数々の邪法を行い、奇怪な挿話を残しているが故。
 しかもそれが立川流とくれば、これはまさに朝松室町伝奇のために生まれたような人物であります。

 さて、その妖管領が生み出した島で待つのは、本来の姿からかけ離れた奇怪な姿を持つ生き物たち。
 「孤島もの」とでもいうべき物語様式に忠実に、一人、また一人と同行者が犠牲となっていく中で、四郎がたどり着いたあまりにも無惨な真実――それこそが、本作における「進化論」の正体であります。

 物語の核心でありますゆえ、はっきりとは書けませんが、妖術としては非常にメジャーなあの術法を題材としつつ、それを「進化論」として捉えてみせた視点の妙には、ただただ唸るほかない…というのが正直な気分。
 なるほど、共に○○○○という共通項がありますが――いやはや驚きました。

 物語構成としてはシンプルな部類に入りますが、「この」強烈なワンアイディアでKOされました。いつもながら見事な作品です。


「この島にて」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 進化論」所収) Amazon
進化論  異形コレクション (光文社文庫)

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2009.04.24

「アイゼンファウスト 天保忍者伝」第1,2巻 暴走する正義、暴走する作品

 伊賀忍者・箒天四郎と塵ノ辻空也は、江戸南町奉行・鳥居耀蔵による奇怪な試験を受ける。試験に合格した二人は、鳥居より、正義の世直しの尖兵として悪に鉄槌を下す役目を命じられる。勇躍拝命した天四郎に対し、空也はこれに反発して悪の鉄盾となることを宣言する。二人の対決の行方は…

 と、あらすじだけ見ると真っ当に見える「アイゼンファウスト 天保忍者伝」の単行本が一、二巻同時に発売されました。

 いやはや、第一話の時点での予想を遙かに上回るエロ方面での暴走に、一応全年齢対象のうちのブログとしては、紹介してよいものかしらと考えましたが、これくらいで引き下がっては伝奇時代劇アジテーターの名がすたる、と思い返して紹介する次第。
(だからよい子と純情な婦女子は読んじゃダメ!)

 というわけで、本作ですが…
・忍法合戦少なめ、鬱展開多め(というよりほとんど全部)の原作
に、
・無駄に過剰なエロ
こないだ原稿盗まれた横山まさみち先生的表現術
・やっぱり期待通りの長谷川チックな鳥居様
・果てなきDT魂(ロベスピエールには負ける)
をブチこんだら何だか大惨事(ホメ言葉)になってしまったという印象。

 まったく、劇画村塾は遺伝子レベルで頭の中をいじってたんじゃないか…とあらぬ疑いをかけたくなるような狂いぶりであります。
 近頃の山風先生を神格化する向きが見たら、泡吹いて倒れるかもしれません。

 しかし…これはひねくれ者ゆえの感想かもしれませんが、これだけ無茶苦茶している本作であっても――少なくとも第一章では――読後に受ける印象は、意外なほど原作のそれに近いものがありました。
 アレンジが(特にエロ方面で)暴走すればするほど、そのギャグ寸前の極端な描写が、原作の主題である人間の、特に女性の二面性――善と悪、美と醜、聖と俗――がより極端に浮き彫りにされるように感じるのです。
(これでもかと強調される天四郎のDTぶりも、彼の青臭い正義感の象徴なのでしょう。とすれば…)


 とはいえ、暴走は加速するもの。これから先、本作がどこまで転がっていくかはわかりませんが、これはこれで長谷川先生と山風先生の真剣勝負、と言うべきでしょう。


 しかし原作初読時、「これからすごい忍法合戦が展開されるのでは?」と、まだまだ甘い期待をしていた三田さんを愕然とさせた空也の変貌をあの絵柄でやってくれたら、長谷川先生を神と崇めます。
 先生はやる気まんまん(notオットセイ)みたいですが!

「アイゼンファウスト 天保忍者伝」第1,2巻(長谷川哲也&山田風太郎 講談社KCDX) 第1巻 Amazon/第2巻 Amazon
アイゼンファウスト 天保忍者伝(1) MiChao!KC (KCデラックス)アイゼンファウスト 天保忍者伝(2) Michao!KC (KCデラックス)


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 「アイゼンファウスト 天保忍者伝」第3巻 暴走の中の再構築

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2009.04.23

「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」 唯一最良のブックガイド

 いま時代小説界で無視できない――どころか、むしろ積極的にリードしている感すらある文庫書き下ろし時代小説。毎月、驚くほどの点数が発売されている文庫書き下ろし時代小説の、初めてのガイドブックが刊行されました。

 内容は、ベストシリーズランキング、殿堂入り作家紹介、江戸時代解説、ブックガイドと、かなり鉄板な内容ですが、今まで網羅的に扱われたことがほとんどなかった文庫書き下ろし時代小説の世界を、ほぼ一望の下に見渡すことが実に有難い話。
 私個人の趣味からは外れている作品も多い故、全て把握していたわけではないのですが、それでも文庫書き下ろし時代小説がこれほど刊行されているとは…と、その壮観ぶりには素直に驚かされました。

 本書の中心となっているのは、以前このブログでも紹介した「架空戦国記を読む」の筆者である榎本秋氏。「架空戦国記を読む」の時も感じましたが(そして氏の活動分野の一つであるライトノベル界においてもそうですが)、広く浸透していながらも、なかなか概観されてこなかった世界で、このようなジャンルガイドをいち早く刊行してみせる氏の感覚には感心します。

 さて、個人的に嬉しかったのは、あまりご自身の言葉を目にすることが少ない――あとがきがついている作品が少ないのも文庫書き下ろし時代小説の一つの特徴と思います――作者の方々に対するアンケート記事です。
 実に三十名近い作者の、ペンネームの由来・デビューの経緯・好きな作家等が掲載されており、なかなか作品を読んでいるだけではわからない作者像がぐっと身近に感じられると共に、作者の作品に対する姿勢も窺われて、これはこれで作品を読む時のガイドになると感じます。

 また、ベストシリーズランキングの一位の作者である上田秀人先生へは、ロングインタビューが行われているのが何とも嬉しいところ。作品には後書きが付されることの多い先生ではありますが、特にその作品の完成度の高さと裏腹に――と言うのは失礼かも知れませんが――注目されることが少なかったように感じられるだけに、これだけきっちりと取り上げていただけるのは、本当にありがたいことです。

 と、かなり満足できる内容の一冊なのですが、もちろん不満点もあります。何よりも、ベストシリーズランキングと、ブックガイド、さらに殿堂入り作家の関係がわかりにくく、また選考基準も今ひとつ明確ではない点。
 ベストシリーズの方は2008年に刊行され、かつ四巻までしか刊行されていない新しいシリーズ、一方でブックガイドでは五巻以上刊行されているシリーズと分けてはあるのですが、何故この基準なのか…というのは今ひとつすっきりしません。
 もっとも、本書に掲載されている全国チェーン書店での実売ランキングが、目にした途端(失礼な表現かもしれませんが)爆笑するしかない内容だけに、これはこれでやむを得ないことかと思いますが…

 その他、本書の対象となっているのが、基本的にシリーズもののみである点や、作品紹介のみに終わって、文庫書き下ろし時代小説の傾向や功罪の分析まで欲しかったところですが、これはちと贅沢の言い過ぎかもしれません。


 何はともあれ、一見近づきやすいようでいて、実は途方もなく広大な――そしてそれは、名作が数多く埋もれかねないことを意味します――文庫書き下ろし時代小説の世界において、本書が間違いなく現時点で唯一最良のブックガイドであることは確かなことであります。
 このジャンルに興味がある方は、目を通して損はない、いや一度は目を通しておくべき本でしょう。


「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」(宝島社) Amazon
この文庫書き下ろし時代小説がすごい! 時代小説愛好会が選ぶベストシリーズ20


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2009.04.22

「恋する新選組」第1巻 女の武士道の行く先は?

 赤子の頃に多摩の宮川家に拾われた少女・空は、天然理心流の近藤家に養子に入り、勇と名を変えた兄を追って、江戸に出る。試衛館に転がり込んだ空は、沖田総司をはじめ、道場に集う居候たちとたちまち仲良くなるが、幕末のうねりは、彼女や試衛館の仲間たちを巻き込もうとしていた。

 先月創刊された角川つばさ文庫の第二弾にラインナップされている本作は、近藤勇の架空(だよね?)の妹を主人公とした、新選組異聞。
 作者は、長編時代ファンタジー「忍剣花百姫伝」の越水利江子先生だけあって、大いに期待していたところです。

 さて、一見、本作は極めてオーソドックスな新選組ものという印象があります。
 豪快で器の大きな近藤、クールな美男子の土方、凛々しい好青年の沖田、美形だが豪放無頼の原田、インテリで冷静な山南(ちなみに山南を「さんなん」と読ませているのが、作者の拘りが感じられて興味深いところ)、豪傑肌の永倉、天然気味の美青年の藤堂…
 いずれも、我々が新選組――というより試衛館メンバー――に抱くイメージに基本的に沿ったキャラクター造形となっています。

 また、本作の最大の特徴である、主人公は女の子という設定も、男性集団に女の子が紛れ込むというシチュエーション自体は、さして珍しいものではない――新選組ものでも皆無ではない――かと思います。

 …が、そんないささか意地悪な見方をしてもなお、本作は十分以上に楽しいのです。
 定番の新選組描写には、それだけこちらの期待を裏切らない安心感と楽しさ(よぉ、やっとるなあ! と言いたくなるような…)が満ちていますし、しかもそれを女の子の目線から描くことによるちょっとしたひねりの入り方もまた心地が良いもの。
 簡潔ながら実に当を得たキャラクター描写となっているのは、これは作者の愛情ゆえ、という印象もあります。
(その一方で沖田を、単純な美青年ではなく、顔立ちは普通ながら所作や心の有り様が爽やかな好青年として描いているのに感心いたしました)

 尖った部分はないものの、王道を行く内容となっているのは、もしかすると本書で初めて新選組に触れるかもしれない読者層を考えれば、当を得たものと思えるのです。


 そしてまた、大人の視点から見ると、空が行くべき道として「女の武士道」という概念が提示されているのが目を引きます。
 試衛館組をはじめとする男性キャラクターたちの掲げる武士像・世相に対する主義主張が、単純かつ直情的――これは作品として単純化しているというよりは、当時の現実の一側面だと感じます――なのに比して、おそらくは空の見る幕末は、彼らの目に映るものとは別のものであるはず。そしてそれは彼女のこれからの生き方にも、大きな影響を与えることでしょう。

 それがこの第一巻で登場した「女の武士道」とイコールの概念であるかはわかりませんが、しかしこちらの展開にも、これから注目していきたいところです。


「恋する新選組」第1巻(越水利江子 角川つばさ文庫) Amazon
恋する新選組(1) (角川つばさ文庫)

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2009.04.21

「戦国BASARA」(アニメ版)第3話まで 正攻法で面白い?

 順当といえば順当、意外といえば意外と評すべきでしょうか。この四月から、カプコンのTVゲーム「戦国BASARA」がアニメ化されました。一応元ゲームのファンとして、本作をはじめとする「歴史(っぽい)もの」が作り出している一種の歴史ブームに興味を持つ者として、そして何よりもバカ映像愛好家としてチェックせざるを得ないと、この週末に三話まとめてチェックいたしました。

 一口に言えば、「スーパー戦国武将大戦」である本作、アニメ版になってもその辺りは相変わらずで、第一話からして、信玄と謙信の川中島決戦に乱入しようとする伊達政宗を阻む真田幸村、第二話では桶狭間に政宗と幸村が今川義元を追い詰めたところに、信長・光秀・蘭丸らが現れるという展開で、もう良識ある歴史ファンは眉を顰めること必至の内容。
 とはいえ「スーパー戦国武将大戦」なんですから、この辺りは本来は交わることのない原作(史実)をこんな風にクロスオーバーさせてきたか、と面白がるのが正しいのだと思います。

 しかし個人的に第一話で不満だったのは、当初の期待に比べてあまりに映像が真っ当過ぎた点であります。
 政宗の馬にチョッパーみたいなハンドルとマフラーが付いてるとか、OPの足軽ムーヴとか面白い点はいくつか合ったのですが、人が空飛ぶ程度じゃ今更満足できず、やっぱり巨大化・目からビームや、いきなり最終回(それは別の番組)は当然だろJK…という印象でしたが、そんなトチ狂った視聴者をちょっと感心させてくれたのは第二話。

 政宗vs幸村の激突以降の、暴走寸前なほどテンションの高い作画のパワーに加え、それと並行して描かれる信玄vs北条氏政&風魔小太郎のバトルシーケンスがかなり良い感じに描かれていて、誠に失礼ながら、ケレンではなく正攻法で面白がらされるとは、と大いに見方を変えた次第。

 さらに第三話では、(一応)主役三本柱の一人だったのになかなか登場しなくてハラハラしていた前田慶次が登場。他の武将とは一風異なる行動原理で天下のために動く姿がマトモに慶次らしくて格好良く、それに絡めて政宗の復活劇(政宗が信長の威圧感に恐怖を感じている一方で、幸村がなーんも悩んでいないのが実にらしくてよろしい)が描かれ、さらに良い具合に盛り上がってきた印象があります。

 まあ、あれだけ面白い原作(史実)のいいとこ取りをしているのだから、これくらい盛り上がって当然、という見方もあるかもしれませんが、しかしやはりキャラクターやストーリーのデフォルメの仕方は、これはスタッフのセンスというものだと思いますし、そして大袈裟に言えば、これも一つの歴史解釈・受容の表れと言えるのではないかしら…(これはまたいずれ、稿を改めて書くこともあるかもしれませんが)と思うのです。

 今は、元ゲームファンとしては、置鮎声のゴリランガーZと、個人的に一番気に入っている松永ダンディー(早く操作可能キャラにしようよ…)がいつ登場するかを楽しみにしている次第。…登場するよね?


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2009.04.20

「水滸伝」 第02回「蒼州の熱風」

 滄州の牢城に流刑となった林中は、ある日、牢役人の魯達と意気投合する。だが、魯達は高利貸しを殴り殺してお尋ね者になり、史進に匿われるが、史進も密告でお尋ね者になる。一方、林中の元には高求の暗殺者が現れる。ついに怒りを爆発させた林中はこれを切り捨て、脱走する。

 だいぶ間が空いてしまいましたが、NTV版「水滸伝」の感想であります。第二話は、林中(林冲)の受難が中心ですが、原典を巧みにアレンジすることで、その他のエピソードをうまく取り込んでいるのが目を引きます。

 前回ラストで流刑となった林中がまず出会うのは、九紋竜史進。
 史進を演じるのはあおい輝彦。これがまたギラギラした中に爽やかさのある存在感で、まさに史進のイメージにぴったりのビジュアルで感心です。
(ちなみにここで朱武も登場するのですが、朱武というよりビジュアル的には陳達なのはご愛敬)

 もう一人新たに登場したのは、花和尚魯智深。こちらは原典とは違い、牢役人という設定で、林冲と知り合うくだりもだいぶ異なりますが、豪快さと人の良さは相変わらずといったところ。
 こちらを演じるのは長門勇。「三匹の侍」でもお馴染みのあのムク犬めいた愛嬌と迫力のある容貌は、なるほどこれはこれで魯智深しているかも…

 さて、原典での登場順、エピソードの展開順は、史進→魯智深→林冲となっており、特に史進と林冲が出会うのはだいぶ先のこととなります。しかしこのドラマでは、登場順と人物配置をいくつか変えることにより、林冲の物語と、史進そして魯智深の物語を同時並行的に描いているのが面白いところ。
 銘銘伝的構成であった原作と異なり、このドラマ版では林冲が主人公であるゆえの違いですが、それが違和感なく描かれているのには、ちょっと感心しました。

 さて、その主人公たる林冲は、原典以上に義の人、というイメージ。あくまでも法に従い、決して逆らうことなく――懐に金があるのに、賄賂を使おうとしないというのが、またらしい――静かに刑に服すという心の掟を自らに課し、静かに耐える姿が印象的です。
 それが、高求の奸計により妻が汚されたと知らされた瞬間、その掟を破って怒りを爆発させるラストの展開には、悲しいカタルシスがありました。
 ついに高求の暗殺者を斬り、牢を破った林冲がどこに行くのか…それはまた次回。


 ちなみに今回、史進・魯智深・朱武に扈三娘を加えた四人のやりとりが、実に「水滸伝」してていいのです。
 天下国家を論ずるのもいいけど、やっぱり「水滸伝」はこういう江湖の豪傑たちが好き勝手に暴れる話でなくっちゃ。


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水滸伝 DVD-BOX


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2009.04.19

「緋衣」 霧の中に潜むもの

 師に依頼され、仏画を携えての旅路の途中、兵庫山中で道に迷った一休と同行者たち。その彼らに襲いかかったのは、血を吸う奇怪な霧の妖たちだった。何とか囲みを破り、山中の一軒家に逃れた一休たちを待っていたものは…

 吸血鬼テーマの異形コレクション「伯爵の血族 紅ノ章」に収録された、お馴染み朝松健の室町伝奇は、これまたお馴染み一休宗純が奇怪な吸血鬼と対決する「緋衣」。毎回変化球の多い異形コレクションにしては比較的ストレートな題材ですが、今回も朝松先生は投じられた題材をジャストミートして、味わい深い作品世界を作り上げています。

 本作で一休の前に現れるのは、吸血鬼、すなわち血を吸う妖であっても、一ひねり加えられた奇怪な存在。溜息のような吐息とともに現れ、犠牲者を取り込んでは体中のあらゆる穴から血を啜る、霧の吸血鬼であります。

 かの伯爵に代表される西洋の吸血鬼の能力の中に、霧に変じるものがあるのはよく知られた通りですが、本作に登場するのは、血を吸う霧そのもの。
 正直なところ、短編ということもあってか、本作は比較的ストレートな展開ではあるのですが、しかしこの独自の吸血鬼像が何ともユニークかつ恐ろしく――特にその存在を示すのに、霧という視覚的なものだけでなく、「溜息」という聴覚を刺激する要素を設定しているのが何とも不気味な効果を挙げています――あの室町のゴーストハンター・一休ですら逃げるしか打つ手がない怪物の恐ろしさが、臨場感をもって迫るのです。

 さて、追い詰められた一休が、一転反撃に転じる様も、これもかなりストレートなものであって、朝松作品にはむしろ珍しさすら感じさせられるのですが、しかしそれが凡手に見えないのが作者一流の技。
 一休流の吸血鬼退治・悪霊祓いの様は、不思議なリズム感と、美しさすら感じさせられる荘厳さに貫かれており――ここで「溜息」が全く逆の意味をもって浮かび上がってくるのがまたうまい――結末で示される妖たちの正体と、彼らが何故血を吸うのかという絵解きの面白さと相まって、読後、何とも満ち足りた気分にさせてくれます。


 闇に潜むものの恐ろしさと哀しさ、そしてそれを力強く照らし出す一休の心身の輝き――朝松一休の魅力の一端は本作においても健在であります。


「緋衣」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 伯爵の血族 紅ノ章」所収) Amazon
伯爵の血族 紅ノ章 異形コレクション 37

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2009.04.18

「終焉の太刀 織江緋之介見参」 そして新たなる一歩を

 幾度となく自分の前に立ち塞がる緋之介に業を煮やした阿部豊後守は、将軍家綱の日光参詣の道中を狙う暗殺者たちと、緋之介を噛み合わせようと図る。しかし死兵と化した暗殺者たちは、豊後守の思惑を超えて家綱に肉薄する。一方吉原では、徳川頼宣が西田屋に対しある選択を迫っていた…

 実に七巻に及んだ織江緋之介シリーズも、この巻でラスト。「終焉の太刀」にふさわしく、緋之介の最後の死闘が展開されますが、この巻自体が、巨大なエピローグともいうべき内容となっています。

 阿部豊後守の陰謀で、父ともども日光参詣の家綱の警護を命じられた緋之介。変事があれば将軍の盾となるべき身、そして万が一将軍にかすり傷でもつけば、切腹などでは追いつかない役目に追い込まれた緋之介の前に立ち塞がるのは、己の命を初めから捨てた恐るべき死兵たちであります。
 人間として当然持つ生存本能を捨て、ただ目的遂行のためだけに動く死兵たちには、これまで幾多の死線を潜り抜けた緋之介も大苦戦(何だか急に弱くなった気がしないでもありませんが…)、両者の戦いは将軍の供回りをも巻き込んで、決闘というよりもむしろ戦闘と言うべきスケールで展開され、質量ともに最終巻に相応しい内容となっています。

 しかし、ここで壮絶な争闘と平行して描かれるのは、戦闘者としての力を失った当代の侍の姿であります。
 太平の世に慣れ、ただ己の地位を保つことにのみ汲々とする侍たちの姿と対比して、緋之介の活躍が強調されているのはもちろんですが、しかし同時にそれはこれから緋之介が歩み入っていく世界の在り方の提示の意味も含むのでしょう。
 侍の堕落は、単に個々人の心の有り様ではなく、むしろ社会の構造的な問題であることが作中からは痛いほど伝わってきますが、さてその構造に緋之介はどのように対峙していくのか――それはこの物語の描くところではありませんが、大いに気になるところではあります。

 さて、緋之介が歩み入っていく世界があれば、同時に彼が捨て去る世界もあります。それはもちろん、第一作以来、シリーズの中心として描かれてきた吉原の地。
 この吉原にも、シリーズ最終巻にして大きな転機が訪れます。

 前作でも印象的なキャラクターとして描かれた徳川頼宣が明かす吉原のとてつもない秘密――これはもう上田伝奇の真骨頂とでも言うべき凄まじいもの。
 ××が××と×××の子という設定は、決して珍しいわけではありませんが、×××がかつて××だったとは、これは紛れもなく空前絶後のアイディアであり、ここに来てとんでもない爆弾を投げ込んできたものだ…とただ感嘆。
 しかもそれに止まらず、ここで生まれた頼宣と吉原の結びつきが、やがて××を生み出すことが暗示されるに至っては、ただもう唖然呆然とするほかありません。

 だがしかし、こうした秘密を巡って今後も暗闘の舞台となるであろう吉原において、緋之介の居場所は既にありません。好むと好まざるとにかかわらず、既に向かうべき新しい世界がある以上、彼は吉原に背を向け、新しい一歩を踏み出さねばならないのです。
 本作のラストに描かれるのは、まさにその決別の姿。主人公のラストの科白は、彼の立場の変転を心憎いまでに鮮やかに描き出し、強く印象に残りました。


 剣豪ものとして、伝奇ものとして鮮烈なデビューを果たした本シリーズ。正直なところ、第一作があまりに印象的であったがゆえに、シリーズとしての方向性が固まるまでに、いささか時間がかかったような印象もありますが、しかしこの最終巻を読めば、本作の本質が、一人の青年が長く過酷なモラトリアムを潜り抜けて、社会へ新たなる一歩を踏み出すまでを描く成長譚であると明確に理解できます。

 剣豪もの、伝奇ものとしての魅力は言うまでもなく、そうした日常を離れた極限の世界において初めて明確になる人間の姿を描き出したものとして、本シリーズは紛れもなく作者の代表作と呼ぶべきものでしょう。


「終焉の太刀 織江緋之介見参」(上田秀人 徳間文庫) Amazon
終焉の太刀―織江緋之介見参 (徳間文庫)


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2009.04.17

「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第2巻 与六という爆弾!?

 直江兼続を主人公とした大河ドラマ「天地人」の放送も快調、パチンコの方でも(こちらの方面には暗いのですが)「花の慶次」が人気のようですが、その双方を継ぐ(?)「義風堂々!! 直江兼続」の第二巻が発売されました。

 主人公は、十六歳の樋口与六(後の兼続)。信長見物のために安土を訪れた与六が、安土城建設の場で信長その人と対面して…というところで第一巻は幕となりましたが、第二巻の前半では、与六が信長と交誼を結ぶ様と、槍持ちであり旧友である男の仇討ちのため、二対百の「いくさ」に臨む姿が描かれます。

 第一巻同様、この辺りはいかにも隆慶先生…というよりも「花の慶次」的で、いささかの既視感が伴うものではありますが、しかし知恵と度胸で自分たちの五十倍の相手を叩きのめす与六の姿はなかなか爽快であります。
 また、民の解放を目的とした絶対王権樹立を目指すという信長像も、ちょっと格好良すぎる感はありますが、これはこれで爽やかで実に面白いと思います。

 が、爽やかだけではやっていけないのが戦国武将。本書の後半で描かれるのは、その信長が越後に向けて「爆弾」を放たんとする様が描かれます。
 一撃で越後の結束を破壊しかねないその「爆弾」とは、与六自身の出生。何と与六の実の父とはあの――

 と、ここに来て一気に豪快な伝奇的展開。なるほど、これはあの慶次もひた隠しにしようとするはずだわい…と感心すると同時に、なるほどこれは与六が主人公でなければ描けない展開であります。
 第一巻の感想で、与六が主人公として慶次と差別化されていないと書きましたが、こういう方面から来たか! と驚かされました。

 おそらくは、かぶき者・樋口与六が義の人・直江兼続となっていく様が、この大秘事に絡めて描かれていくのでしょう。一気に今後の展開が楽しみになってきました。


「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次月語り」第2巻(武村勇治&原哲夫&堀江信彦 新潮社バンチコミックス) Amazon
義風堂々!!直江兼続前田慶次月語り 2 (2) (BUNCH COMICS)


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2009.04.16

「決定版 忍者・忍術・忍器大全」 大人のための忍者百科

 これまでも触れたことがありますが、最近書店やコンビニで目につくのが、500円前後で発売されている概説本・ワンテーマ本の類。毎月、驚くほどの点数が発売されているこうした本の中には、時代もの絡みのものも少なくないのですが、今回取り上げる「【決定版】忍者・忍術・忍器大全」は、その中でも実にユニークかつ内容充実の一冊です。

 本書の内容は、タイトルに明確に示されていますが、著名な忍者列伝に変装術や火遁の術などの忍術解説、手裏剣や忍者刀などの忍器の図解。
 こうしてみると、これまで数多くの類書が刊行されている中(というか、実は本書自体が以前に発売された「図説 忍者と忍術」の廉価版なのですが…)、さほど新味はないように思われますが、しかし、ここの記事の充実度が素晴らしいのです。

 まず巻頭から掲載されているのは、忍者屋敷の見取り図や忍者装束の詳解(頭巾の巻き方や草鞋の履き方)といった図解記事。その後に続く本文も、図版や写真を豊富に使って実にわかりやすく、そして楽しく描かれています。
 個人的に驚いたのは、忍者食について、材料や分量を掲載して作り方と完成写真を掲載していたことで――この味わい、何かに似ていると考えてみましたが、要するに子供時代に親しんだ忍者百科のノリなのです。

 今でもそういう本があるかはわかりませんが、もうじき四十郎の筆者の子供時代には、○○大百科やら○○のひみつなどで、忍者ものの本が色々とあったと記憶しています。
 本書はその味わいをそのまま、対象年齢を引き上げたもののように感じられます。

 忍術解説など所々首を傾げたくなる部分もありますし、忍者列伝もさほど目新しいものでもありませんが、その辺りはご愛敬。何よりも、525円という値段で、200ページ近い内容の八割がオールカラーというのは、かなりお得感があります。
 大人のための忍者百科として、洒落のわかる同好の士にオススメです。


「決定版 忍者・忍術・忍器大全」(歴史群像編集部編 学研) Amazon
決定版 忍者・忍術・忍器大全

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2009.04.15

「城盗り藤吉郎」 いい人藤吉郎、奔走す

 美濃を次なる標的に定めた織田信長は、調略工作を開始する。足軽組頭・木下藤吉郎は卑賤の身から身を起こすため、率先して危険な任務に挑むが、彼を疎んじる者が、美濃に、そして織田家の中にもいた。綱渡りの果てに、ついに決戦の場に向かった藤吉郎を、そしてねねを待つ運命は…

 岡田秀文先生による太閤記異聞とも言うべき一作。豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃、信長の美濃攻略を背景に、何とか立身してみせようという藤吉郎の苦闘の日々が描かれます。

 岡田先生の作品に登場する秀吉と言えば、「本能寺六夜物語」や「太閤暗殺」のように、怪物とすら言える強烈に黒いパーソナリティーの持ち主という印象がありますが、本作における藤吉郎は、実に「いい人」。
 辛酸を舐め尽くした過去を背負って前向きに生きる、努力と辛抱と善意の人として描かれており、最近では他の作者の作品においても悪役として描かれることの多い秀吉にしては珍しい(?)扱いです。

 その点からすると、いい人が一生懸命頑張って成功するという、あまりに真っ当すぎる――特に岡田先生にしては――作品ではあるのですが、しかしそれでもサスペンスフルな展開で読者の気を逸らさないのは、さすがと言うべきでしょうか。

 ことに印象的なのは、本作において敵役として立ち塞がる美濃方の馬廻衆・長井忠左衛門の強烈なキャラクターでしょう。
 血と暴力、下克上と破倫…戦国時代の負の部分が凝ったかのような忠左衛門は、比較的おとなしめの作風の本作においては、暴風のような存在。
 美濃国内で調略に当たる藤吉郎を密殺するという任務を受けながらも、藤吉郎の妻・ねねが、かつて自分が愛した――そして無惨に殺害した――女性と瓜二つと知るや、己の任務を忘れて一方的に執着する…

 とにかく気持ち悪いキャラクターですが、その存在が、藤吉郎サイドとねねサイド、本作の二重のクライマックスを盛り上げていることは間違いありません。

 正直なところ、上で述べたように、作者の名前から期待する内容にとは少々隔たりのある作品ではあるのですが、しかし読んでいる間は決して退屈しない、良くできた作品であります。


「城盗り藤吉郎」(岡田秀文 ハルキ文庫) Amazon
城盗り藤吉郎 (時代小説文庫)


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2009.04.14

「桃山ビート・トライブ」 うますぎるのが玉に瑕?

 芸能の中心地・五條河原に集った四人の若者――破天荒な三味線弾き・藤次郎、出雲のお国一座の笛役者・小平太、元黒人奴隷の太鼓叩き・弥介、天然で天性の踊り手・ちほ。既成の音楽に飽き足らない四人は、型破りな舞台で大評判となるが、武士による芸人たちへの弾圧が強まり…

 桃山時代末期の京を舞台に、自由な音楽を求めて突っ走る若者たちの姿を描いた時代エンターテイメントである本作、20回小説すばる新人賞受賞もむべなるかな、の快作です。

 内容的に見れば、ものの見事にバンドものの定番ストーリーをそのまま時代劇にしたような本作。
 既成の音楽に飽き足らない若者たちが集まり、訳ありのプロデューサーと出会ってデビュー、軌道に乗ったところで音楽性の違いから亀裂が生じ、引き抜きが…等々、読み進めている最中に、ある種のデジャヴを感じたのは正直なところです。

 しかしながら――おそらくは意図的に――バンドものとしての枠組みを残しつつも、それをこの桃山時代末期にピッタリと当てはめてみせたのは、紛れもなく本作ならではのオリジナリティと言うべきもの。
 本来的に反体制的な存在であるパンクロックを描くに、身分が(それまでとは異なる形で)固定化され、芸能者が抑圧され始めた時代に舞台を求めるという、作者の着眼点の良さが光ります。
 そして、その想いが爆発するバックグラウンドとして、豊臣秀次の物語を持ってくるのも――物語の目線の高さが急に上がってしまったところに食い合わせの悪さを感じないでもありませんが――巧みなところです。


 しかしながら――これはあくまでも個人的な印象かも知れませんが、そうしたうまさが逆に働いてしまった感が、強くあります。

 良く出来過ぎているとでも言いましょうか…物語を構成する要素の配置の巧みさ、隙のなさが、逆に作り物めいたものを感じてしまうのです。
 こういう引用の仕方は意地が悪すぎるかもしれませんが、作中の「明らかに計算し尽くされている」「客の嗜好を緻密に分析し、それに見合ったものを提供している。乗りやすく、わかりやすい」という表現が、ぴたりと当てはまるように思えてなりません。


 完成度が高くて文句を言われるのも理不尽ですが、こういう作品もあるのだなと、妙に感心してしまった次第です。


「桃山ビート・トライブ」(天野純希 集英社) Amazon
桃山ビート・トライブ

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2009.04.13

「〈隻眼流廻国綺談〉石の城」 剣豪vs吸血鬼

 隠棲した剣豪を訪ねて山城国の山村を訪れた隻眼の剣士。しかし彼を待ち受けていたのは、死に絶えたかのような村の惨状だった。百年前に退治されたはずの異国の怪人が復活したと聞かされた剣士は、山中に築かれた石の城に向かうが。

 ホラーファンにとっては言うまでもなく、伝奇時代ファンにとっても見逃すことのできない異形コレクションのうち、吸血鬼テーマの「伯爵の血族 紅ノ章」に収録された菊地秀行先生の短編であります。
 日本のエンターテイメント界における吸血鬼の地位向上(?)に多大な貢献をしてきた菊地先生が、時代もので吸血鬼を描く。それもタイトルに暗示されている、あの剣豪を主人公に――

 百年前に異国から本朝を訪れ、山中に異形の石の城を築いた怪人。怪人のくちづけにより、血を啜る悪鬼と化した人々。引き抜かれたかのように全ての樹木が失われた山。霧の中から襲いかかる巨大な蝙蝠…
 一読、好き者であれば思わず顔がほころぶような題材を詰め込んだ――しかもラストにはスペシャルゲスト(?)まで――黄金カードであります。


 が…ページが少なすぎたかな、というのが正直な印象。主人公の一人称で物語が進むためということもあるのかもしれませんが――剛胆な主人公というのも良かれ悪しかれであります――物語が淡々と進み、何よりも異国の怪魔への恐怖が伝わってこないのが惜しい。
 ラストの展開に繋がる、ある人物の心理状態などは、いかにも菊地剣豪小説的でニヤリとさせられるのですが、吸血鬼と剣豪という組合せの魅力を、十全に引き出していたとは言い難いのが残念でなりません。


 しかし、これだけ何のため出てきたかわからない親父殿も珍しい…


「〈隻眼流廻国綺談〉石の城」(菊地秀行 光文社文庫「異形コレクション 伯爵の血族 紅ノ章」所収) Amazon
伯爵の血族 紅ノ章 異形コレクション 37

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2009.04.12

「必殺仕事人2009」 第11話「仕事人、死す!!」

 中二週置いての「必殺仕事人2009」のサブタイトルは「仕事人、死す!!」。そのタイトルに偽りなく、命を落とすことになったのは…

 今回退場となったのは、大方の予想通りからくり屋の源太。
 数日前に日刊スポーツ紙上で記事になったり、放送時間が15分ほど延長になったりと、かなりの力の入れようで、最後の花道を飾ることとなったのですが――しかし、個人的には期待が大きすぎたせいか、どうも今一つ盛り上がれなかった、というのが正直な印象です。

 前回のラスト、殺しの直後を大河原同心に目撃されながらも、主水や涼次の機転のおかげで――というより大河原の抜けっぷりのおかげで…大丈夫かオトコマエ!――何とか切り抜けた源太。
 そんな彼の前に現れたのは、生き別れの母を名乗るお富。油問屋の大津屋が源太の実の父と語るお富は、彼を大津屋の跡取りにしようとするのですが…
 実はお富は札付きの詐欺師。源太の母というのも偽りで、彼を利用して大津屋を乗っ取ろうとしていて――ということで、源太はお富に仕掛けることになります。

 生き別れの肉親(今回は偽物でしたが)が極悪人となっていて、仕事の標的に…というのは、これは実にドラマチックであり、何よりもかの梅庵さんも経験している趣向。
 人間臭い甘さがキャラの特徴だった源太の最後のエピソードとしては、悪くないストーリーだと思いますが…しかし、どうにも盛り上がらなかったというのが事実。

 何よりもお富をはじめとする悪党連中の行動があまりに杜撰。源太を利用しての詐欺はともかく、それが失敗したら真っ正面から店に入り込んでの火付け強盗って…お前ら、鬼平の悪人たちに謝れ。

 そして、自分自身の手でお富と決着を付ける道を選んだ源太が、結局殺せず、その甘さから致命傷を受ける、というのは良いのだけれど、それが、わざとらしく足を痛めたお富をわざわざ背負ってやった末に…という展開にはただ口をアングリ。
 これは甘いというより、単なるバ○では…と、いささか下品な感想すら浮かんでしまいました。

 重箱の隅を突っつくような言い方かもしれません。
 しかし、仕事人の死という、ある意味物語中最大のイベントがあるからこそ、つまらない部分でドラマへの没入を阻害することは勘弁して欲しかった…とつくづく思います。
 大倉忠義さん自体の演技は良かっただけになおさら…

 良かったといえば、主水さんの「人は鬼になれるが、鬼は人になれない」という言葉、如月に金のためなら殺し以外何でもやると言われて複雑な表情を見せる涼次、何だかんだ言いつつも彼女なりに小五郎の心情を理解しているふくなど、うまいと感じさせられる描写も少なくなかっただけに、なおさら残念なところです。

 さて、しかし何を言っても、もう源太は戻ってきません。放送は延長となりましたが、メンバーは一人欠けてしまった仕事人の明日や如何。


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2009.04.11

「朧村正」 ファーストインプレッション

 2年前の発表以来、発売を楽しみに待ち続けていたWii用ソフト「朧村正」がようやく発売されました。
 元禄時代を舞台に、抜け忍の鬼助と、さる大名の姫君・百姫の二人の主人公が妖刀を手に斬り抜ける2DアクションRPGである本作、早速手に入れてプレイしましたが、ただでさえ高かった期待をさらに上回る出来映えに、ただ感心している次第です。

 今回、鬼助・百姫の両方を使って、それぞれ序盤をプレイしてみましたが、まず何と言ってもゲームとしてよく出来ている。
 基本的には敵をばさばさ斬り倒しながらゴールに向かって進むという内容ですが、操作系が今日日のゲームとしては実にシンプルで――つまりは感覚的に操作してもかなり思い通りにキャラクターを動かすことができます(これ、当たり前のように見えるのですが、存外出来ていない作品も多いわけで…)

 基本はレバー一本にボタン2,3個で、特に難易度的にはノーマルである「無双」モードでは、いわゆるレバガチャしているだけでも主人公が縦横無尽に画面を駆けめぐり、地上空中で華麗にコンボを決めまくるのは、快感の一言であります。
 特に、刀を振ることが攻撃と同時に防御にもなる(例えれば一部格ゲーの「相殺」に近い…のかなあ)というシステムは、これは結構コロンブスの卵的な感覚で、ゲームのスピード感を殺さずに、良い具合にチャンバラらしさを出していると感じます。
 しかし、あまり無駄に刀を振っていても刀の耐久力が落ちるため時には刀を取り替えることも必要で、その頃合いを見計らうのも、また魅力の一つと思います(ボス戦で適当に戦っていて、手持ちの刀が全部赤鰯状態になって慌てたりね…)

 ちなみに、Wiiのリモコン&ヌンチャクと、ゲームキューブのコントローラーをそれぞれ使ってプレイしてみたのですが、意外にも(?)より快適にプレイできたのは前者。おそらくは前者を基本に(基本コントローラーなのですから当たり前と言えば当たり前ですが)チューンしているのだと思いますが、特にレバガチャする際などに手にしっくりくるのです。
 リモコンとヌンチャクが、3Dアクションと親和性が高いのはよく知っていましたが、2Dでも十分いけるのは嬉しい発見です。


 さて、ゲームとしてはこれくらいにして、このサイト的に注目すべきは、時代劇としての本作の出来なのですが、これがまた想像以上に好感触であります。

 妖しさと艶やかさを感じさせる背景に、適度にデフォルメされた忍者や侍、そして日本古来の妖怪変化たちという、視覚的な側面の魅力は、これは事前のニュースや公式サイトなどである程度は知っていましたが、意外に(と言っては失礼ですが)良くできているのが、アクションの合間に挿入される会話シーン。
 鬼助や百姫が、敵キャラやら水先案内の伏見狐たちやらと会話するその内容、科白回しが、なかなかに「時代劇」していてイイのです。

 この会話シーンのエロキューションは、かなりのところ歌舞伎のテイストを取り入れていると思うのですが、それがきちんと選ばれた言葉使いと相まって、単に現代人が過去の人間の姿をしているような類ではなく、その時代に――その時代を舞台とした物語に――相応しいものとして、雰囲気を盛り上げつつ、ゲームの一部として成立してていると感じます。
 そしてそれが、ポンポンと伝法に不敵な言葉をまくし立てる鬼助、可憐な外見に似合わぬ傲岸な言葉使いの百姫など、特異な登場人物たちのキャラクターを、より印象的なものとしていると言えるでしょう。

 ストーリーの方も、記憶喪失ながら、剣を振るうことに突き動かされるように忍びを抜けた鬼助、怪剣士・飯綱陣九郎の術により、体は姫君ながら魂は陣九郎となってしまった百姫と、それぞれのノーフューチャーな人物設定が、村正という呪われた妖刀(かの千子村正も、刀に対する妄執が凝った存在として登場!)と絡み合って、一筋縄ではいかない味わいとなっていて、ゲームを先に進めるのが楽しみになります。


 全く個人的には、これまで2D伝奇時代劇アクションゲーム(って狭い、狭すぎるジャンルだよ!)の最高峰はセガサターンの「心霊呪殺師太郎丸」なのですが、それに勝るとも劣らない作品なのでは――という好印象であります。
 少々褒めすぎかもしれませんが、伝奇時代劇アジテーターがこれを褒めずに何を褒める! ということで。


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2009.04.10

「銀のかんざし 定町廻り同心・榊荘次郎」 全ての謎を愛する人に

 「神の血脈」「兵庫と伊織の捕物帖」と、伝奇色の強いユニークな時代小説を発表してきた伊藤致雄先生の新作「銀のかんざし」は、北町奉行所の定町廻り同心を主人公とした連作短編集。伝奇色はほとんどないのですが、これがなかなか面白い作品なのです。

 本書に収録されているのは、「弟弟子」「転落」「強奪」「贈物」「一念の笛」と題された五つの物語。エピローグ(そしてプロローグ?)的な最後の作品を除き、いずれの物語においても、本書の題名となっている「銀のかんざし」にまつわる謎が描かれます。

 銀のかんざしが絡むことは共通しても、それぞれの内容はいずれもバラエティに富んだこれらの事件に挑むのは、表向き北町同心・榊荘次郎なのですが――ここで本書の趣向の一つ。腕利きの荘次郎でも頭を抱える本書の難事件の謎を実際に解くのは、荘次郎の手習いの師匠・網田方舟なのであります。
 この方舟先生、日常生活に支障が出るほどの不器用でそそっかしい人物ながら、しかし頭脳の働きにおいては天才的な冴えを見せるユニークなキャラクターで、荘次郎が集めてきた事件のあらましを聞いて、自分の家に居ながらにして謎を解いてしまう、一種の安楽椅子探偵なのです。

 さらにシリーズのレギュラーとして、方舟の一人娘の多恵に、荘次郎とは手習いの同窓である長七が登場。荘次郎は多恵にぞっこんながら、生来の奥手ゆえになかなか打ち明けられず、そこに現れた男ぶりのよい長七の存在にやきもき…という、キャラクタードラマも本書の魅力でしょう。


 さて、本書の中で最も印象的だったのは、四番目に収録された「贈物」であります。本作は推理ものでありながら、殺人も盗みも、いや犯罪というものが発生しない異色作。同じくレギュラーキャラである商家の隠居がまだ若い頃に見物した、千里眼の男のトリックを、方舟や荘次郎たちが解いていくという趣向の物語なのです。

 捕物帖とくれば、当然何らかの犯罪(と思われる事件)を扱うもの…というこちらの思いこみを鮮やかに覆しつつ、それでいて見事に「推理」ものとして成立させてくる、物語の趣向にまず感心させられるのですが、しかし何よりも本書を味わい深く、感動的なものにしているのは、作中で描かれるご隠居の想いであります。

 若い頃に見物した千里眼の謎を、ことある毎に思い出し、吟味してきたご隠居。彼にとってはその謎を解くことが――いや謎について考える、頭を働かせること自体が喜びであり、それはタイトル通り、「贈物」ですらあったのです。
 もちろんそれは、ご隠居自身の事情に依る特殊なケースではありますが、しかし、何かについて考えを巡らせる、頭を絞るということの楽しさ――当然、それが自分の生活に直接関係してくるようなものではない必要はありますが――ついては、これは多くの人間に共通すること。
 少なくとも、本書のような推理ものを愛する方にとっては、大いにうなづける話でしょう。

 つまり、この「贈物」という作品は、推理ものとしてユニークな内容であると同時に、推理ものを、いや自分の頭を働かせることへの愛情が込められた賛歌とでも言うべき作品。
 そしてそれは、この短編集に対する、作者の想い、意気込みの表れとして感じられるのです。

 伝奇色がないのは個人的には残念ではありますが、しかしここに表れた作者の心意気には心より敬意を表しますし、またその作者が描くであろう続編に、大いに期待しているところです。


「銀のかんざし 定町廻り同心・榊荘次郎」(伊藤致雄 ハルキ文庫) Amazon
銀のかんざし―定町廻り同心・榊荘次郎 (時代小説文庫)


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2009.04.09

「火星年代記」 翻案を超えた伝奇ホラー

 時は幕末、怪人モゲータに魅入られた親友を救い出すため、モゲータ一味の潜む支那寺に潜入した月之助と蘭学者・菊池洋斎。そこで目撃したものが神代の奇書・火星年代記の内容と一致することを知った洋斎は、モゲータが日本の先住民・火星民族と確信する。襲いかかるモゲータの霊力に挑む月之助たちの運命は…

 このところ、巨匠の絶版作品群が次々と復刊されて、誠に喜ばしいのですが、その中に、水木しげる先生の貸本漫画時代の作品が含まれているのが目を引きます。

 このたび復刊された「火星年代記」もその一つ。タイトルだけ見れば、(SFの知識がある方であれば)まず九分九厘、レイ・ブラッドベリのあの名作の漫画化と思ってしまうところですが、さにあらず。本作は、幕末の江戸を舞台に展開する、紛うことなき伝奇ホラー活劇であります。

 恥ずかしながら、私も今回の復刊まで、本作の存在と内容をつゆ知らず、書店で何の気なしに手にとってひっくり返りそうになったのですが、内容の方はさらに凄い。
 奇怪な妖術を操る怪人に挑む碩学…というのは、古今東西のホラーにままあるシチュエーションではありますが、本作ではその怪人の正体というのがもの凄い。

 墓場の死体を再生して己の配下とするなど、奇怪な霊力を操る怪人モゲータの正体は、何と縄文時代以前の日本の先住民・火星民族。そして、超文明を誇りながら、何故か歴史から姿を消した火星民族の存在に触れた唯一の書物――それが、瀬戸で発見された日本最古の古書「火星年代記」なのであります。

 本作は、そんな怪奇・伝奇風味濃厚な物語が、水木先生一流の超現実的とも言うべき美術センスで展開されていきます。
 設定だけ見ればあまりに飛んだ内容ながら――何せ、主人公・月之助からして、師である洋斎から火星年代記の内容を聞かされて「作者が何かカン違いしているのではないかと思う位だ」などメタな感想を漏らすほどですから――物語の舞台となる数々の廃墟・遺跡の、凄涼とも言うべき描画を目の当たりにすれば、それが突き抜けた現実感を持って迫ってくるのは、これは水木作品ならではの味わいでしょう。

 もっとも、そんな中に、火星民族の霊力に対する防御手段というふれこみで、登場人物たちが頭にしめ縄を巻いて榊を差して出てくる辺りのすっとぼけた味わいも、いかにも水木先生なのですが…


 さて、本作を読んでいる最中、私の頭の中には「どこかで読んだことのあるような…」という思いがつきまとっておりました。かのラヴクラフトの「ダニッチの怪」を、「地底の足音」として翻案したこともある水木先生のこと、失礼ながら本作にも何らかの原典があるのでは…と考えていて、気付きました。

 怪人の主宰する秘密教団に狙われた友人、怪人に操られる死美人との悲恋、結界を挟んでの怪人の魔力との対決、そしてモゲータという名前――ホラーファンの方であれば思い至ることでしょう、デニス・ホイートリーの名作「黒魔団」であります。

 気付いてみれば、なるほど、確かに上に挙げたような「黒魔団」の要素が、本作の中でも確かに目につくのですが、しかし、ロンドンを舞台とした原作を江戸に移し替えたのみならず、奇書を中心にすえた奇怪な超古代史を構築し、さらにまさしく驚天動地の結末を用意した本作は、単なる翻案を完全に超えている、と断言しても間違いではないでしょう。
(そういえば、作中に何度か登場する瀬戸って、原典の「セトの護符」のもじりかしらん。)


 少々高めの価格設定ということもあり、さすがにマニア以外の方に強くお奨めするのもはばかられるところはありますが、しかし、同好の士であれば――特に原典を読まれた方は――一度は読んでみるべき、と言ってしまっても、これは問題ありますまい。
 そしてまた、このような意外な出会いをもたらしてくれるであろう、他の貸本漫画の復刊も、強く期待するところです。


「火星年代記」(水木しげる 小学館クリエイティブ) Amazon
火星年代記

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2009.04.08

「マーベラス・ツインズ 絶代双驕」第1巻 双雄、今度は漫画で見参

 ようやく続編部分がケータイ小説でリリース開始された「マーベラス・ツインズ」ですが、小説版はさておき(おくな)、漫画版の第一巻が発売されました。

 内容的には、原作文庫第一巻をベースとしたものですが、様々な点でアレンジがほどこされた、再編集版とでも言うべき作品となっているのが特徴でしょうか。

 この第一巻で描かれるのは、小魚児が鉄心蘭と出会い、彼女が持つ宝の地図を巡る争いに巻き込まれ、その中で宿敵・花無缺と出会って…というところまで。
 こう書くと、原作第一巻とほぼ同じ内容に見えますが、最も大きく異なるのは、原作ではこの時点ではまだ出番の少なかった、花無缺の存在がかなり大きくクローズアップされていることでしょう。

 この漫画版では、第一話から花無缺が登場し、その後も随所に顔を出すことになるのですが、この辺りは、ダブル主人公を強調するためのアレンジというところでしょう。
 これはネタバレになってしまいますが、地図を巡って怪人・碧蛇神君と対峙した主人公二人が、無意識のうちに気を同調させて、碧蛇神君を圧倒するシーンは、武侠ものの理屈に適いつつ、二人の関係を暗示するという、なかなかうまい展開だと感心いたしました。(というかこの気の同調、小説でもこの先登場しそうな…)

 小説一冊を漫画一冊に収めるためか、ストーリーラインとキャラクターがかなりそぎ落とされており、初見の読者にはちょっと厳しい部分もあるのではないかな…という印象もあるのですが、想像以上に漫画の絵柄と原作のストーリーに違和感がなく――これは小説版の挿絵をベースにしたキャラクターデザインなので当然かもしれませんが――武侠もの初体験の読者にも悪くないアレンジに思えます。
 もっとも、改めて見てみると碧蛇神君のデザインはもの凄いのですが…


 展開・媒体的に、二、三冊で完結しそうな不安感はありますが、それはそれでどのように物語を展開してみせるのか、興味は大いにあります。
 そして何より、この漫画版をきっかけに原作読者も増えてくれれば良いなと、これは楽観的過ぎるかもしれませんが、期待しているところです。


「マーベラス・ツインズ 絶代双驕」第1巻(岩城そよご&古龍 角川書店あすかコミックスDX) Amazon
マーベラス・ツインズ  絶代双驕 第一巻 (あすかコミックスDX)


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 「マーベラス・ツインズ契 1 だましあい」 運命に抗する第一歩
 「マーベラス・ツインズ契 2 めぐり逢い」 絶代英雄、誕生の序曲
 「マーベラス・ツインズ契 3 いつわりの仮面」 まさかの大逆転…
 「マーベラス・ツインズ契 4 貴公子の涙」 男・花無缺、笑いと涙


関連サイト
 公式サイト

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2009.04.07

SMAP、獣兵衛になる!?

 久々に時事ネタ(?)だけで一記事でっちあげますよ。
 レオ様が映画化権持つ作品にSMAP指名――映画化権を持つ作品=川尻義昭監督の「獣兵衛忍風帖」ですが、その主要キャストの候補者として、SMAP5人の名前が挙がっているとのこと。

 てっきりSMAPの誰か一人、ということかと思いましたが、記事を読んだ限りでは5人全員ということで本当に実現したらこれは色々な意味でとんでもないことだと思います。色々な意味で。

 SMAPから誰か一人、ということであれば、これは獣兵衛役を誰かがやればいいわけですが、5人全員出演するとなったら、それぞれにそれなりの役を用意しなければいけません。
 あくまでも原作に忠実な内容と仮定した場合ですが、あのトンガった(色々な意味で)男臭さを持つ川尻ワールド、そしてその中でも主要登場人物の半数以上が変態の「獣兵衛忍風帖」の中から、無理矢理5人選ぶとなったら…(キャラの設定はこちらも参照を)
 牙神獣兵衛…キムタク
 氷室弦馬…稲垣
 百合丸…中居
 現夢十郎…草彅
 
 と、適当に当てはめてみましたが、うむ、無理。香取君が余った。
 かくなる上は、陽炎を男にするか、濁庵を若返らせるか…(いや、前者はダメだろ絶対!)

 ――ちょっと待て、獣兵衛は獣兵衛でも、龍宝玉篇なら人数は足りるのではないか?… それならまあ良し(良くない)。


 と、あくまでも原作に忠実な内容という仮定であり、実際は絶対無理なのでキャスティングで悩んでも仕方ないのですが、万が一SMAP全員(いや一人でも)出演ということになれば、これは日本でもの凄いプッシュされることは間違いないわけで、そうすればつまり「獣兵衛忍風帖」そのもの、さらに川尻監督が一挙にメジャーに!
 そしてその勢いで川尻監督の「獣兵衛忍風帖2」が遂に…

 というのは原作ファン・川尻ファンとしての皮算用(幸せな妄想)ですが、しかしここで冷静に考えれば、2で獣兵衛の声を当てるのは、実写版のキャストという可能性が――ヤダヤダ、山ちゃん(もしくは力也さん)以外のアニメ獣兵衛なんてヤダヤダ!
 さらに妄想すれば、最近の川尻作品の傾向から考えるに、2のライバルキャラの声を当てるのが山ちゃんということにもなりかねず、もう何が何だか…


 と、勝手に盛り上がって勝手に落ち込んでみましたが、まあ、企画中の映画にこういう景気の良い話が出てくるのはある意味風物詩ですから、まるっきりスルーするか、同じアホなら踊らにゃ…という調子で一緒に騒ぐのが礼儀でしょう。

 企画中が一番幸せなことってあるからね…と縁起でもないことを呟いて、SMAPで検索して来た人置いてけぼりの記事おしまい。

…今ごろになって、これ遅れてきたエイプリルフールじゃないかと心配になってきましたよ


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2009.04.06

「雨の日の迷子 鬼ヶ辻にあやかしあり」 手抜きのない恐ろしさ

 大雨が降った晩、鬼が辻で唯一の人間・銀次と妖怪たちは、背中に刀傷を負った少女を見つける。銀次の献身的な看護で一命を取り留めた少女は、しかし過去の記憶を失っていた。少女をおまゆと名付けた銀次は、彼女のことを知る人間を探すが、その前に現れたのは…

 児童文学らしからぬ黒い――しかしどこか魅惑的な内容に驚かされた「鬼ヶ辻にあやかしあり」シリーズの第二弾。「雨の日の迷子」というタイトルだけ見れば何だか可愛らしいイメージですが、もちろんそれだけで終わることもなく…

 今回物語の中心となるのは、鬼が辻の妖怪たちと人間たちの仲立ち役とも言うべき青年・面売りの銀次。
 昔からこの世のものならぬものが見える銀次は、面売りは表の顔、その一方で、鬼が辻の妖怪たちの依頼を受けて、人間界の品物を手に入れてくるのが彼の裏の顔…というのが第一弾で簡単に述べられた彼の設定ですが、今回、記憶喪失の少女を拾ったことで、彼の生活・人となりが掘り下げられて描かれます。

 妖怪と人間の仲立ちというのは、私のような(妖怪)バカからすると、何だかうらやましい限りなのですが、もちろん楽しいことばかりではありません。存外気の良い連中も多いとはいえ、中には剣呑極まりない妖怪もおりますし、何よりも、普通の人間の中で暮らしていくことが、逆に難しくなるのですから…

 そんな日常を送っていた銀次にとって、初めて自分のことを怖がらずに受け入れてくれたおまゆは、妹のような大事な存在。その彼女の幸せのため、失われた過去を求めて銀次は東奔西走しますが、さてついに辿り着いた彼女の過去とは――


 と、ここからはやはり重くて黒い展開。おまゆの巻き込まれた事件の犯人たちに、白蜜姫の下した裁きは…いや、真剣にホラーなのですが、これ。
 因果応報などという言葉も生ぬるい、悪人ばらを襲った運命は直截であるがために一層生々しく、幾分オブラートに包んであるとはいえ手抜きのない表現は、大人の自分が読んでも十分怖い(「それから数日」という言葉がこれほど恐ろしいものだとは…)
 いや、書くのであれば、子供向けだからと手を抜かず、ここまできちんと書かないといけません。

 さて、シリーズ第三弾は、損得勘定抜きで白蜜姫が人助けをする、とのことですが、果たしてそれだけで済みますか…次回もおっかない話を期待したいところです。


「雨の日の迷子 鬼ヶ辻にあやかしあり」(廣嶋玲子 ポプラポケット文庫) Amazon
鬼ヶ辻にあやかしあり〈2〉雨の日の迷子 (ポプラポケット文庫)


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2009.04.05

「神君幻法帖」 描写は最高、物語は…

 人智を超えた術法を操り戦場を往来する「幻法者」。その幻法者・魔多羅一族と山王一族に対し、幕府より秘命が下された。神君家康を祀る日光東照宮への神輿を巡り、二つの一族に殺し合いを演じさせようというのだ。かくて始まった七人対七人の死闘の背後に潜む、天海僧正の意図とは…

 雑誌連載当初からその題材、その作者ゆえに大いに気になっていた「神君幻法帖」が単行本化されました。
 一人一芸の超人たちを擁する二つの一族が、幕府の命により、死のトーナメントバトルを行う――しかも、それぞれの長が恋人同士、というのは、これはもう言うまでもなく山田風太郎先生の不朽の名作「甲賀忍法帖」ですが、その設定をほぼ敷衍した上に、ご丁寧に装丁はあの佐伯俊男先生。

 そしてそれを書くのが、同姓の天才・山田正紀であれば、これは否応なしに期待してしかるべきなのですが――しかし、そのあまりの「らしさ」に感じた少々の不安が、本作には当てはまってしまった印象があります。


 本作の最大の特徴は、作中「幻法」と呼ばれる主人公たちの特異な技に対する「科学的」な解釈・解説でしょう。
 元々、山風忍法帖の特徴の一つは、その「忍法」とそれを可能とする忍者の肉体に対する医学的解釈の面白さにあったと言えるでしょう。
 それが本当に説明になっているかは別として、単なる(?)超常的妖術ではなく、一定の理屈と法則に従った技であることが、忍法帖に不思議なリアリズムを与えていたことは間違いありません。

 それが本作においては、その解釈・解説を、最新の科学知識を題材にしつつ、鬼才・山田正紀一流のアイディアで料理しているのが面白いところ。
 本作に登場する幻法の中には、(まず間違いなく意図的に)「甲賀忍法帖」に登場した忍法と重なる内容のものも多いのですが、オリジナルとの解釈の差が、実に楽しいのです。
 山風忍法帖オマージュは、これまで山のように描かれていますが、本作はその解説と描写の面白さにおいて、最良のものと言って良いかと思います。


 が――物語面で見た場合には、(個人的には)不満点が大きいというのが正直なところであります。

 二つの一族が死闘を繰り広げる理由が初めから明らかにされていた「甲賀忍法帖」に対し、本作は二つの一族の戦う真の理由は、物語当初は明らかにされていません。
 いわばその点こそが本作の仕掛けであり、原典との大きな相違点であるはずだったのですが…いざ明かされたその秘密に、意外性と説得力がないのを如何にすべきか。(いや、説得力がなかったのが意外ですが)

 物語の核心をここで明示することはもちろんできませんが、さてこの秘密が、幻法者同士を、いや幕閣までも巻き込んだ死闘を引き起こすに相応しいものであるか、大いに疑問に感じた次第です。

 もちろん、その疑問から生じる虚しさこそが、本作の狙うところであることは理解できるのですが――人々を弊履を棄つるが如く利用し、使い捨てる者たちへの強い怒りは、いかにも山田正紀作品ですが――これまで幾多の作品で、こちらの想像を遙かに上回る物語を見せてくれた山田正紀先生にしては…
(更に言えば、作中のあるカップル成立場面もちょっと…)


 術技に対する描写は最高レベル、しかし物語については、「らしさ」の域を出るものではない――いささか厳しいですが、それが私の偽らざる気持ちであります。


「神君幻法帖」(山田正紀 徳間書店) Amazon
神君幻法帖

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2009.04.04

「カミヨミ」第10巻 新章突入に高まる期待

 明治伝奇ミステリホラーアクション「カミヨミ」も単行本二桁の大台に乗り、第十巻が発売されました。前の巻で衝撃的な急展開を迎えた「女郎蜘蛛」編が完結し、新たなエピソード「将門の首」編に突入、いよいよ物語は佳境に入った感があります。

 東北の隠れ里で人々を支配してきた奇怪な絲神との死闘もほぼ決着に向い、これでこのエピソードも完結…と思ったところに発生した大事件。戦いの中で天馬の体に封印されていた日輪草薙が暴走、それと呼応して絲神の背後にあった真の敵・月輪草薙が、封印の軛を逃れて復活、しかしその姿は――

 「カミヨミ」の最初のエピソードで封印されたもう一本の神剣・月輪草薙のその後については、続く「天狗の神隠し」編で少しだけ触れられましたが、そこでの厭な予感が見事的中し、ここに二つの神剣の、神話めいた地獄絵図が描き出されることになります。

 正直に言って、ここでの月輪の剣の登場はあまりに唐突な印象があり、このまま物語が一気に完結してしまうのでは、とヒヤヒヤしましたが、今回はあくまでも緒戦という扱いで一安心。
 最後の最後に月輪の剣に持っていかれた感のある「女郎蜘蛛」編も、これまでの本作のエピソード同様、一ひねりを加えて実に余韻のある結末を迎え、やはり本作は実によく考えられた作品、という印象を再び受けました。
(よく考えられた、と言えば、月輪の剣に対する帝月の禁断の技の中身というのが、またえぐい上にこのエピソードの内容に即したもので、うならされた次第)

 そして始まるのは、あの平将門公にまつわる物語。天馬が修行のために鞍馬山に籠もり、力を使い果たした帝月が昏睡を続ける中、将門公ゆかりの地で次々と起きる殺人事件の背後に、この世にあってはならない存在の陰を感じ取った零武隊は捜査を開始するのですが…

 実のところこの第十巻のほとんどで、この新エピソードが展開されているのですが、まだまだプロローグ――あるいは「女郎蜘蛛」編を受けてのリスタート――といった印象で、まだまだ全貌が見えないのが正直なところ。
 今までのパターンだと、これはこの人物が怪しいよな…というのはありますが、さてその予想が当たりますかどうか。

 月輪の剣という、全編を貫くであろう強大な敵が現れましたが、しかし将門公はそれにも負けない存在感であるのは間違いのないところ。この先の展開が楽しみ…ってラスト一ページでまたとんでもない話が!?


「カミヨミ」第10巻(柴田亜美 スクウェア・エニックスガンガンファンタジーコミックススーパー) Amazon
カミヨミ 10 (Gファンタジーコミックススーパー)


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2009.04.03

「舫鬼九郎」第1巻 魅力的なるビジュアライズ

 「コミック乱ツインズ」誌で連載中の漫画版「舫鬼九郎」の第一巻の登場です。原作は高橋克彦先生の同名小説、漫画化を担当するのは岡村賢二先生と、ベテラン同士ががっちり組んだ好コミカライズであります。

 吉原近くで発見された若い娘の惨殺死体。首を落とされた上に、背の皮を剥がされたその死体が発見された現場で、死んだはずの大力士・明石志賀之助を目撃した幡随院長兵衛は、事件に大きな裏があると睨みます。
 事件を探り始めた長兵衛の前ですが、その前に現れたのは、短筒を操るカブキ者・天竺徳兵衛、隻眼の剣鬼・柳生十兵衛、そして異装の美剣士・舫九郎と、いずれも一癖も二癖もある面々。九郎の人となりに惚れ込んだ長兵衛は、彼と共に事件の謎に挑むのですが…

 と、伝奇時代劇の王道を行くような痛快極まりない大活劇の本作。原作は十五年以上前に発表された作品で、私もだいぶ以前に読んでいますが、しかし原作既読であっても――もちろん未読であっても――実に楽しい漫画として、成立しています。

 元々原作自体、個性豊かなキャラクターたちが入れ替わり立ち替わり登場する作品であったのですが、それを見事にイメージ通りに、いやそれ以上に魅力的にビジュアライズしてみせたのは、岡村先生一流の筆。

 特に、主役級の登場人物の中で唯一架空の人物である主人公、鬼九郎こと舫九郎は、白面の貴公子を絵に描いたような爽快で――しかしどこか謎めいたキャラクターが、見事に漫画の中に復活していて、感心させられます。
 特に、鬼九郎の最大の特徴の一つである、着流しの下にワイシャツという特徴ある――そして一歩間違えたら悲惨な外見になりかねない――ビジュアルが、ごく自然に、格好良く描かれているのが嬉しいところです。


 物語の方は、この第一巻で大体原作の半分あたりを消化しており、次の巻で原作第一部の漫画化は完了ということになるのだと思いますが、しかし原作はその後もまだまだ続いています。少々気が早いですが、原作第二部、第三部もぜひ岡村先生の手で漫画化していただきたいものです。


「舫鬼九郎」第1巻(岡村賢二&高橋克彦 リイド社SPコミックス) Amazon


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2009.04.02

春の若さま二題

 ちょっと趣向を変えて、先月刊行された「若さま」を冠する作品を新旧二つご紹介しましょう。

 まずは新の方は、風野真知雄先生の「若さま同心徳川竜之助」シリーズの最新刊「飛燕十手」。
 前作「秘剣封印」で、柳生新陰流最強の刺客を破ったものの、自身も心に深い傷を負った竜之助は、次々と敵を呼ぶ己の葵新陰流・風鳴の太刀を封印することを決意します。

 しかし危険と隣り合わせの同心稼業、自分の剣を狙う刺客もまだ現れかねない状況で、戦いの手段を捨てるのも自殺行為。それならば、同心ならではの武器と言えば…ということで、新たなる必殺技を生み出そうとする竜之助の苦闘が、いつもの怪事件・珍事件捜査と並行して描かれることとなります。

 そして誕生した技はタイトルに示される通りですが、何となく堀江卓先生辺りの昔の時代劇漫画的イメージなのはご愛敬。最近の十手ものではちょっと珍しいノリの必殺技で、いかにも本シリーズらしい人を食ったものと思えます。

 ただしこの巻、個々の事件は解決しているものの、展開された伏線が幾つか回収されておらず、思い切り次の巻に引いているのがちょっとすっきりしない印象。それだけ楽しみが続くということではありますが、中継ぎ的印象は否めません。


 さて、一方旧の方はと言えば、もちろん城昌幸先生の「若さま侍捕物手帖」シリーズ。ランダムハウス講談社からの短編集の刊行は順調に進み、第三巻の登場であります。

 今回収録されているのは、「まんじ笠」「恋の闇路」「一文惜しみの百知らず」「威しぶみ」「猫の弁当」「濡れごと幽霊」「ビルゼン昇天」「罪つくり」の全八編。うち、巻頭の「まんじ笠」は中編というべきボリュームの作品です。

 「まんじ笠」では珍しく(まあ中長編では珍しくないのですがそれはさておき)江戸を離れてぶらりと旅に出た若さま、実は大名家の姫が行方知れずとなった事件の探索を依頼されて…という寸法なのですが、行ってみた先で巻き込まれたのは、博徒同士の争いというのがちょっと面白い。

 片一方の博徒は、言葉本来の意味通り二足の草鞋を穿いた親分で、これはまあ定石通り悪玉。もう一方は、悪玉に対するのですから、気っ風の良い善玉で…しかし、そんなステロタイプな舞台でも、若さまが絡んでくるだけでややこしく、そして面白くなるのはいつもの通りであります。
 推理ものとしてはずいぶん大雑把な内容ではありますが、しかしそれでも楽しめてしまうのは、この若さまのキャラクターと、城先生の巧みな文章あってのことでしょう。

 その他の短編も、お話のパターンとしては、推理もののお手本のような作品ばかりなのですが、しかし作品毎にシチュエーション、キャラクターに趣向が凝らされているのが楽しいところ。
 「濡れごと幽霊」の生々しくもおかしな人物関係、「一文惜しみの百知らず」の強烈な父親のキャラクター等々、決して平凡な作品ではありません。


 ちょいと強引ではありますが、まとめて紹介させていただいた新旧二人の「若さま」。この二作以外にも、「若さま」は時代小説界に幾人も存在しますが、昔から、そして今なおこうして「若さま」が描かれているというのは、やはりそれだけ魅力的な存在ということなのでしょう。いつか、「若さま」ものの研究をしてみたら面白いかもしれませんね。


「若さま同心徳川竜之助 飛燕十手」(風野真知雄 双葉文庫) Amazon
飛燕十手―若さま同心徳川竜之助 (双葉文庫)
「若さま侍捕物手帖」第3巻(城昌幸 ランダムハウス講談社文庫) Amazon
若さま侍捕物手帖三 (ランダムハウス講談社時代小説文庫)


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 「若さま同心徳川竜之助 秘剣封印」 バランス感覚の妙味
 「若さま侍捕物手帖」第1巻 まだ触れたことのない若さま
 「若さま侍捕物手帖」第2巻 キャラものとして、推理ものとして

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2009.04.01

「赤鴉 セキア」第3巻 皇帝の魔手、日本に迫る

 混血の隠密集団・赤鴉衆の暗闘を描いた「赤鴉」、この第三巻でまことに残念ながら完結であります。この巻では、前巻から引き続きの「薩摩抜荷編」の完結編と、「皇帝ナポレオン編」全編が収録されています。

 「薩摩抜荷編」の方は、薩摩のブロックを次々と潜り抜けてきた赤鴉衆と御庭番・明楽が、ついに抜け荷の現場に突入。ここまでくるとアクションまたアクションの連続で、ストーリー的にはかなり直球なのですが、これまで出番的に一歩引いていた主人公・紅郎の無茶苦茶な強さと、明楽の馬庭念流vs薩摩示現流の真っ向勝負を見れたのはやはり眼福。本当にかわの先生のアクション描写はうまい、と思います。

 そしてタイトルからしてグッと来る「皇帝ナポレオン編」は、英仏の世界を股にかけた領土争奪戦を背景に、ナポレオンの密命を受けた直属のスピーオン(スパイ)が長崎に現れるというエピソード。
 以前紹介した「日本のナポレオン伝説」にあるように、ナポレオンが日本に――特に幕末の思想に――与えた影響というのは意外に小さくないのですが、あくまでもそれは日本側がナポレオンを認識していたという話。
 ナポレオン側が日本にアプローチしてくるというのは、これはフィクションですが、史実を巧みに敷衍しながら、アクション味たっぷりの時代漫画として成立させているのは、これは本作ならではのアプローチかと思います。
(そんな中、件のスパイが自分のことを闇の革命戦士・灼炎のサガンとか名乗っちゃうのが素敵。)


 しかし、題材的に面白ければ面白いほどここで完結してしまうのがまことに残念ではあります。お話としては一応完結しているとはいえ、日本とナポレオン、ひいては当時の日本とヨーロッパの関係を題材にしたエピソードとしては、まだまだ描けると思えるだけに――そして赤鴉衆結成の本当の目的が果たされていないこともあり――まだまだ続いて欲しかったなあというのが正直な印象ではあります。
(次の連載との兼ね合いなのかな、と思われるフシもあり、ちょっと急な完結なだけに特に)


 時代劇としてはコロンブスの卵的なキャラクター、設定を用いつつ、鎖国期の日本と海外の関わりを伝奇テイスト濃厚に描いてきた本作。決して長い作品ではありませんが、伝奇時代劇ファンには忘れることのできない佳品であったと思います。


「赤鴉 セキア」第3巻(かわのいちろう リイド社SPコミックス) Amazon


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