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2009.05.07

「無縁塚 浪人左門あやかし指南」 怪異というベール

 かつて一家が皆殺しされ、その後も不審な人死や幽霊の目撃が相次ぐ屋敷で、再び幽霊が目撃された。普段であれば真っ先に乗り出すはずの左門も、あの屋敷は本物だと言葉を濁すばかり。屋敷に泊まり込んだ兄弟子が姿を消し、それを探して怪談嫌いの甚十郎も屋敷に赴くのだが…

 怪談と酒に目がない凄腕の浪人・平松左門と、無類の臆病者の青年剣士・苅谷甚十郎を主人公とする怪談ミステリ「浪人左門あやかし指南」のシリーズ第三弾は、陰惨な過去を持つ幽霊屋敷を舞台とした作品。ノベルスで刊行された前二作と異なり、ソフトカバーの単行本としての刊行ですが、その面白さは相変わらず…いや前作以上です。

 仲間たちが巻き込まれた怪事件を、怪談話を糸口に左門が解き明かすのが本シリーズの基本スタイル。
 怪談話の背後に隠された真実を暴き出し、それを元に酒手をせしめる左門にとって、怪談は飯…いや酒の種、面白そうな怪談があれば頼まれずとも首を突っ込む(そしてその話をして甚十郎を怖がらせる)左門ですが、しかし、それが本作の舞台となる屋敷については、「あれは本物」と近づこうとしないのが否応なしに興味をそそります。

 果たして屋敷に出没する幽霊は本物の幽霊なのか、そして過去に起きた陰惨な殺人事件の真実は、姿を消した盗賊団の行方は…と、幾重にも事態が錯綜する中、左門の友人で甚十郎の先輩であるシリーズキャラクター・鉄之助が屋敷で姿を消し、そして甚十郎まで――と、謎めいたムードで物語が進む中、重い腰を上げた左門の快刀乱麻を断つが如し推理が痛快であります。

 前作「百物語」については、以前このブログで書きましたとおり、構成や展開に若干難ありという印象もあったのですが、しかし本作では語られる怪談と事件の関わりもぐっとスマートに整理され、事件の真相に向けて物語が一直線にぐいぐいと進んでいくところに好感が持てます。

 また、これまでの作品では、事件をリードしていく存在として、虚実の情報性を合わせ持つ怪談が描かれてきたところですが、本作ではそれに加え、真実を怪異のベールで包み隠す怪談の性質が描かれ、それが左門の行動の理由ともなっているところに、感心させられました。
(もっともそのために、前二作を評する時にもしばしば引き合いに出された「巷説百物語」に、これまで以上に近い印象を受けないでもないのですが…)

 とまれかくまれ、怪談ファン、時代ミステリファンにとっては、第三弾も期待通りの快作でなにより。個人的にはやはりノベルスの方が似合うシリーズだとは思いますが、この先、どのようなスタイルで発表されようとも追いかけていきたいシリーズです。


「無縁塚 浪人左門あやかし指南」(輪渡颯介 講談社) Amazon
無縁塚 浪人左門あやかし指南


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