「御隠居忍法 恨み半蔵」 御隠居、伊賀の亡霊に挑む
鹿間狸斎のかつての上司・梶村左太夫が「恨み半蔵が出た」という言葉を残してこの世を去った。その報を携えた家士が狸斎の隠居所にたどり着いて以来、奇怪な事件が彼の周りで頻発し、狸斎は窮地に立たされる。左太夫が遺した「伊賀同心由来記」に記された謎文字の秘密とは…
久々登場の「御隠居忍法」シリーズ、第五弾の「恨み半蔵」は、伊賀者に伝わる秘事を巡る暗闘に巻き込まれた、御隠居・鹿間狸斎の苦闘記であります。
羽州笹野領は五合桝村に隠居する元御庭番の狸斎が、自分の元に持ち込まれた事件に巻き込まれ、心身共に危険に晒されながらも何とか解決していくのが、本シリーズの基本スタイルですが、それは本作でも同じ。
これまでも何度かシリーズに顔を出してきたかつての上司が突然命を落とし、いまわの際に遺したという「恨み半蔵」の影が狸斎に迫ることになります。
ここで言う「恨み半蔵」とは、伊賀者の間に語り継がれるという幽霊めいた存在。その正体は、不始末をしでかして服部家を没落させた二代目半蔵正就とのことですが、さて遙か以前に亡くなった半蔵正就が、何故、狸斎に祟ることになるのか…それが本作全体を貫く謎として、大いに興味をそそられます。
しかし、狸斎には元御庭番としての人並み外れた体技や知識はあれど、今の身分はしがない隠居。いやそれどころか、元御庭番という経歴は、狸斎が隠居所を構える小藩の人間にとっては刺激的すぎるもの。
これまでのシリーズでも何度かありましたが、本作においても狸斎は藩の人間からは危険視され、敵の罠も相まって思わぬ窮地に陥ることになります。
しかし、そんな中でも狸斎の力となるのは、これまでも狸斎を支えてきた仲間・隣人たち。
歴史的事件にまつわる亡霊が引き起こした事件に立ち向かうのが、ミクロな、しかし暖かい人々のつながりというのも、なかなか気持ちの良いことではありませんか。
「御隠居忍法 恨み半蔵」(高橋義夫 中央公論新社) Amazon
関連記事
御隠居忍法
御隠居忍法 不老術
堅調な短編集 「御隠居忍法 鬼切丸」
御隠居二人の北紀行 「御隠居忍法 唐船番」
| 固定リンク
コメント