「戦国戦術戦記LOBOS」第5巻 そして彼が掴んだもの
ついに、というべきか早くもというべきか――「戦国戦術戦記LOBOS」の最終巻、第五巻が発売されました。眼帯をした表紙の市蔵の姿にドキッとしつつも、結末を少しでも早く知りたい思いからページを繰りましたが、まずは収まるべき所に収まったというべき結末にホッといたしました。
伊賀日隠衆壊滅のため、「狼」を抜けて市蔵が向かったのは、何と織田信長の下。そして、伊賀攻めに加わることを望む市蔵に対して、信長が出した条件とは――雑賀孫市の暗殺!
雑賀孫市といえば戦国一の鉄砲名人と名高い人物ですが、市蔵もまた、言うまでもなく長銃の遣い手。かくて、銃vs銃のドリームマッチが展開されることになります。
大きな犠牲を払いながらも最初の死闘を制し、伊賀攻めに加わることとなった市蔵。
怨敵である日隠衆七人を一人、また一人と討ち果たしていく市蔵ですが、しかしその前に現れたのは、「狼」の面々――
あくまでも「狼」は金で雇われる傭兵団、戦場でどちらにつくかは依頼次第ではありますが、しかし、かつての仲間たちが伊賀側に雇われたことにより、市蔵は更なる苦闘を強いられることとなります。
果たして市蔵と「狼」の対決の行方は、そして市蔵の復讐行の結末は…いやはや、最後の最後まで、ハラハラさせられっぱなしでありました。
もっとも、正直なことを言えば、この終盤の展開――更に言ってしまえば最終巻の展開――は、ちょっと駆け足気味。日隠衆との対決もあっさりめでしたし、何よりも特に市蔵と「狼」の件など、もう少し引っ張って描いても良かったようにも思います。
そうした惜しい部分はあるのですが、しかしそれが些細なことに思えるほどの中身の濃さであったことは紛れもない事実です。
漫画としてのアクション、キャラクター描写の巧みさもさることながら、見逃せないのは、本作の時代ものとしての側面。
戦国における伊賀の役割を、忍びの産出地としてのほかに、もう一つ提示してみせた上に、それを伊賀の乱に「狼」が参戦する――更に言えば市蔵との対決の行方に作用させてみせる――辺りのうまさに舌を巻きました。
(もう一つ言えば、天正伊賀の乱を扱った作品は数多くある中に、主人公が信長側…というより伊賀を滅ぼさんとする側に立つ作品はなかなか珍しいように思います。)
しかし、何よりもやられた! と唸らされたのは、市蔵と日隠衆の頭領との間に繰り広げられる最後の死闘の「決着」でしょう。
己の復讐のために、全てを捨て、非情に徹した市蔵が、死闘の最中で掴んだもの…それはある意味意外であり、拍子抜けとすら感じられるかもしれません。
しかしこれこそが、日隠衆の市蔵と「狼」の市蔵を――すなわち非情の道具と有情の人間を隔てるものであり、市蔵がこれまでくぐり抜けてきた戦いの結末に相応しいものであったと、心より思います。
五巻ではまだまだ食い足りない、もっともっと戦国プロフェッショナルたちの活躍を見たかった、という思いはあるものの、しかし市蔵の物語としてはこれ以上ない大団円、見事な結末であったといえるでしょう。
作者の次回作が今から楽しみです。
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