「新選組刃義抄 アサギ」第1巻 手堅い中に輝きは既に
最近は戦国ものに押され気味ではありますが、それでも根強い人気のある幕末もの。その中でも人気があるのはやはり新選組…というところでしょうか、ここに新しい新選組ものの作品が登場しました。「新選組!」の時代考証を担当した山村竜也氏が原作を、漫画版「天保異聞妖奇士」「モノノ怪」の蜷川ヤエコ氏が作画を担当した「新選組刃義抄 アサギ」です。
(ちなみに山村氏は「天保異聞妖奇士」の時代考証でもあるのですが…)
沖田総司を主人公にした本作は、試衛館の面々が、浪士組に加わって京に出ながらも、清河八郎と袂を分かった直後からスタートします。
関東からやって来た無名の浪人ものたちだった連中が、幕末の京にその名を轟かす存在に登り詰めていくという、いわば新選組の青春時代から語り起こされるわけで、その意味では本作は新選組ものの定番、なかなか手堅い作品という印象があります。
ちょっと面白いのは、会津候を頼ろうとするも、全く相手にされなかった試衛館組が勝手に陰ながら候の護衛役を務め、その最中で田中新兵衛と岡田以蔵の二大人斬りと対決することとなるという展開。
もちろん、佐幕方と勤王方の剣士の代表格だけあって、新選組と彼らが対決するという趣向も、決して珍しいものではありません。しかしながら本作では、岡田以蔵を、ある意味沖田総司のネガとして描こうとしていると感じられる点が、なかなか面白いのです。
幼い頃に両親と死別し、寄る辺を失った総司にとって、剣は己の居場所を勝ち取るための力であり、試衛館そして新選組こそが彼の居る場所であり、己の命を賭けるべき存在――そんな、「思想なき剣」を振るうという点においては、まさに以蔵も総司と等しい存在であり、これからの物語は、この二人の対比が大きな原動力になるのではないかと予感させられます。
いや、総司に対比される存在が本作にはもう一人――それは、総司の親友であり、試衛館の盟友である藤堂平助です。総司とは年も近く、また純粋な武士の生まれという共通点を持つ平助は、しかしそれだからこそ、心中深くにおいては総司と自分の間の超えられない壁を痛感し、悩むというキャラクターとして描かれます。
この総司と平助の関係もまた、本作の原動力になっていくのではないでしょうか。
このように、手堅い中にキャラクター配置の妙を感じさせる本作ですが、それをしっかりと受け止め、ビジュアライズして見せる蜷川ヤエコ氏の筆は今回も絶好調。
元々画力には定評のある方ですが、本作においても、我々の抱く新選組や幕末の有名人たちのイメージをきっちりとビジュアライズした上で、自分のキャラクターとして動かしている印象があります。
(それにしても驚かされるのは、「天保異聞妖奇士」「モノノ怪」と本作、いずれも全く異なる画風でありながら、一定以上のクオリティを常に維持している点であります。いやこれは大変なことではありますまいか)
物語的にはまだまだ序章といったところで、これからいよいよ、本作ならではの魅力というものが表れるものかと思いますが、しかし、その輝きは既に現時点から感じられます。
このまま作中の新選組同様、作品自体が上へ上へ登っていくことを願う次第です。
…しかし帯の「総司、平助、そして仲間たち、会いたかったぜ!」という山本耕史の言葉は、近年稀に見る殺し文句ではありますまいか。
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