「軒猿」第2巻 痛みの先にあるものは
長尾景虎配下の忍び衆・軒猿に加わった少年・旭の成長譚「軒猿」の第二巻です。
実際の戦場を経験したとはいえ、まだまだ軒猿としては未熟な旭が、この巻では、平時での忍びの戦いに巻き込まれることとなります。
この巻で旭が経験することとなるのは、数々の痛み。それも、体の痛みのみならず、心の痛み…いやそれどころか己の痛みだけでなく、他人の痛みをも、旭は目の当たりにし、向き合うことを強いられます。
己の持って生まれた能力ゆえに虐待され、孤独に生きてきた旭。そんな彼にとって軒猿は、生まれて初めての仲間ということになります。
しかし仲間が出来たということは、助け合う相手が出来ただけでなく、互いに対して責任を背負うということ。この巻の冒頭のエピソードは、その重みというものを、否応なしに旭に――そして読者に対しても――叩き込んできます。
さらにこの巻のメインとなるエピソードで描かれるのは、忍びの平時の戦い――防諜戦。
城下に潜入した武田の忍びの正体を暴き、討つことを命じられた旭は、相手もまた自分と同じ立場の人間である、という厳然にしてやりきれぬ事実に直面することになるのです。
自分のため、主のため、仲間のため、任務を達成するために、相手を殺す。それは、一種日常とかけ離れた空間である戦場であればさほど悩まずできることかもしれません。
しかし、日常生活の裏側で、しかも相手の人となりを多少なりとも知った上で、なお相手を殺すことはできるのか…
あるいは、軒猿の一人・崇緑がそうであるように、己の心を閉ざしてしまえば楽になれるのかもしれませんが、しかし旭が選んだのは、その重みを、痛みを正面から受け止めて、なお前に向かって歩いていこうという道。
それは偽善かもしれませんが、しかし一種の希望として、その先を信じてみたいという気持ちを我々に持たせてくれます。
単なる忍者バトルではなく、忍びの世界のよりシビアな部分を掘り起こし、その中で人間というものを浮き彫りにしてみせる――正直なところ、本作はこれまでこちらが考えていた以上に、深い作品になっていくのかもしれません。
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