「射雕英雄伝EAGLET」第1巻 もう一つの…
「射雕英雄伝」の漫画版は、李志清の全19巻の大作が現在刊行中ですが、日本オリジナルの漫画版「射雕英雄伝」が、現在「月刊シリウス」誌上で連載中です。そのもう一つの漫画版、「射雕英雄伝EAGLET」の第一巻が発売されました。
原作については、これまでもこのブログでも取り上げてきましたが、武侠小説界の巨人・金庸先生の代表作の一つ。
大宋国が金に敗れて南遷し、さらにモンゴルが虎視眈々と中原を狙う時代背景を舞台として、数奇な運命に結ばれた二人の少年を中心に展開する大河伝奇であります。
その漫画化である本作は、実は真面目な金庸ファンからは評判が悪いと聞いていたため、ひねくれた金庸ファンとしてはどの程度のものかとワクワクハラハラしていましたが、なるほどそういうことか、という印象。
確かにキャラ設定の大胆なアレンジには違和感はありますし(黄蓉が何故か関西弁のロリっ娘なのはどうでもいいとして、丘処機の狂人度が欠けているのは大問題。オヤジ・ジジイ萌え的には)、何よりも武侠ものの匂いが意図的に消されている――武侠もの独自の概念・用語がほとんど登場しないのはその表れでしょう――辺り、違和感は拭えません。
しかしそうした表面的な部分より気にかかるのは、原作の設定の根幹を成す、当時の中国の特異な時代背景がうまく描かれているとは言い難い点でしょう。
非常に厳しいことを言ってしまえば、本作はどこか架空のファンタジー世界を舞台とした物語としても成立するように思えてしまいますし、その場合に私が本作を手に取ったかといえば…
と、結局真面目なファンみたいなことを書いてしまいましたが、郭靖に(物語上の比重として)遠く及ばない印象のあった完顔康が、ほとんど対等の比重をもって描かれているというアレンジは悪くありません。
特に第一巻の冒頭と末尾に、郭靖と完顔康それぞれの「生まれる前の記憶」(=両親を襲った悲劇)を描く構成は、なかなかうまいアレンジだと思います。
漫画的にも、例えば郭靖が洪七公の入れられていた独房の床に残された運足の跡から降龍十八掌を会得する件など――特に運足の跡を発見するシーンは画的にも印象的――定番ながらやはり盛り上がりますし、そこから郭靖と完顔康の初対決に繋がっていく展開も悪くありません。
(と、こうして書いてみるとやっぱり原作とはまるで違う作品ですね)
原作の基本設定と登場人物を用いて、少年漫画として再構築すれば、なるほどこういう形になるか、と感じる本作。
厳しいことも書きましたが、もう一つの「射雕英雄伝」として、私は見守っていきたいと思います。
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