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2009.07.22

「若さま同心徳川竜之助 卑怯三刀流」 悲しみの石、しあわせの方角

 相変わらず絶好調の「若さま同心徳川竜之助」シリーズ、その最新巻は「卑怯三刀流」。新必殺技・つばくろ十手を会得した竜之助の前に、その名の通り卑怯三刀流を会得した新たなる強敵が現れるのですが…

 第五巻で柳生新陰流最強の刺客を倒しながらも、剣を振るうことの空しさを悟り、己の葵新陰流風鳴の太刀を封印した竜之助。
 ある意味、それに続く第六巻からは第二部突入という印象ですが、それでも相変わらず竜之助の葵新陰流を狙う剣士は後を絶ちません。

 最初は新陰流だけだったはずの剣士が、他の流派も出てくるのはいかがなものかしら…という気はしないでもないですが、何はともあれまだまだ忙しい竜之助。
 今回の刺客は、北辰一刀流指折りの剣士…ながら、怪我人のふりをする、刀を投げるとセコい手ばかり使うため「卑怯三刀流」と呼ばれている男というのが、何ともこのシリーズらしいユルさで楽しいのです。
(何しろこの男、仲間たちと京都で一旗揚げようと旅立つも、仲間に嫌われて一人途中で取り残されたというのが面白悲しい)

 そんな剣豪もの(?)的展開を縦糸にする一方で、もちろん横糸になるのは十手ものとしての展開。
 今回も四話の短編が収められており、毎度のことながら竜之助は江戸の怪事件・珍事件に挑むことになるのですが、これまた毎度のことながら感心させられるのは、わずか数行、いや時に数文字で、ユーモアやペーソス溢れる内容を表現してしまう作者の技です。

 今回特に感心させられたのは、「どんな事件の陰にも、それさえなかったらという悲しみの石みたいなものがある」という一文です。
 事件の背後に蟠る、その引き金になる事情――それも個人の力ではどうにもならない、理不尽な運命の渦によって生まれたもの。それを「悲しみの石」の一言で示して見せるのは、さすがとしかいいようがありません。

 本書ではそのほか「しあわせの方角」など、ちょっとドキッとさせられる言葉も飛び出してきますが、いずれも作者が人間というものに向ける、観察眼の確かさと暖かさに由来するものなのでしょう。


 …と思っていると、ラストにいずれ出てくると思っていたあの人物が! と、シリーズもののヒキも忘れない本作。
 風野エンターテイメントがなぜ面白いのか、改めて理解できる一冊です。


 ちなみに今回、幾つかちょっと気になる表現があったのですが…考え過ぎかな。


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コメント

以前は広いところが苦手だった・・・。
って、苦手って言葉で済まされないほどだったような
気がしますが・・・。
わざわざ書いているので動くんでしょうねー・・・。

投稿: 福田慎之介 | 2009.09.07 15:40

最新巻にはその辺りの事情もちょっと出てましたね

しかし最新巻はタイトルでちょっとフェイントをかけられました

投稿: 三田主水 | 2009.09.11 00:01

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