「平安ぱいれーつ 因果関係」 如月平安伝奇健在なり
主の藤原純友に従って伊予国へ来た男童・山吹丸。地元の漁師たちに慕われ平和に暮らす純友と山吹丸だが、その漁師たちの裏の顔は海賊だった。しかも彼らの頼みで純友は大頭に就任。山吹丸はいずれも不思議な術を操る小頭四天王に可愛がられながらも、次々と騒動に巻き込まれる。
ユニークな平安伝奇を発表してきた如月天音先生久々の新作は、あの藤原純友を題材にした作品です。
純友といえば、海賊の首領として瀬戸内海を騒がせ、平安時代の叛乱者として平将門と並び称される有名人。
しかし、脇役としての登場は多くとも、物語の中心人物として描かれることは少なかったこの純友に目を付けてみせたのは、作者の工夫というものでしょう。
しかし本作の純友は、史実から受ける恐ろしげなイメージは欠片もなく、典雅ですらある穏やかな人物。
都での出世争いに身も細るような思いをした末に、伊予での田舎暮らしを楽しんでいた純友が、思わぬ事から海賊稼業に引っ張り込まれてしまうのですから愉快です。
その海賊の張本となるのが、ビジュアル・能力いずれも個性的な四人の小頭――ワイルドな灰色の髪の異人(実は…)の黒金、遠くいんぐらんどからやって来たうぃざーどの真朱、舌先三寸で人はおろか海の生き物たちまで操る青鷺、人並み外れた美形にして仏の力でいかなる傷も治す白露。
一人一人が物語の主人公を張れそうな連中が四人集まるのですから、これは穏やかに済むわけがありません。
そして、そんな面々を前に悪戦苦闘するのが、本作の主人公・山吹丸少年。
生真面目なのだけが取り柄で、容姿も十人並み、それでも主を想う気持ちだけは誰にも負けない山吹丸は、実に健気で応援したくなるのですが…しかしややこしいのは、この山吹丸が、小頭四天王、いやその他ある共通点を持つ連中に、モテモテなことであります。
実にこの山吹丸争奪戦に、あの安倍晴明(如月作品お馴染みの、どんぐり眼のKY晴明)まで加わってしまうのですから…
この辺り実に如月先生だなあ…と感心しますが、しかしこれが単に女性読者サービスに終わらず、なるほど、と思ってしまうようなロジカルな(?)理由付けがあるあたり、これまた如月先生だなあと感じます。
最初に述べたように純友を物語の中心に据えたことといい、また平安という時代を地方からの視点で描いてみせたことといい…如月平安伝奇健在なり、と嬉しくなってしまいました。
しかし史実に従えばあと四年――長いような短いような時間を、いかに山吹丸たちは過ごすのか…やはり気になるところです。
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