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2009.08.30

「月光値千両 妻は、くノ一」 急展開、まさに大血戦

 正体が割れ、潜入していた平戸藩邸から飛び出した織江は、これを期に母・雅江とともに御庭番を抜けることを決意。逃走の最大の障害である御庭番頭領・川村真一郎に挑戦状を叩きつける。その川村と組んだ鳥居耀蔵は、古屋敷をお化け屋敷に改造して静山に買わせ、罠にかけようと企んでいたが…

 静かなようでいて、着実に物語を展開してきた「妻は、くノ一」シリーズ。
 平戸藩に潜入してきたくノ一・織江を心から愛し、彼女を追い求める彦馬が、その傍ら出会った市井の怪事件を「甲子夜話」に絡め、事件の――時には同時に「甲子夜話」の裏の事情を解き明かしていくという短編連作スタイル(しかしこの物語展開、地味なようで実によくできております)は、この巻でも変わらないのですが、しかし織江サイドの物語が、この第五巻まで来て急展開します。

 前の巻で思わぬところから(本当に思わぬところから!)正体が割れ、最愛の夫・彦馬とはすれ違いとなってしまった織江が、母とともについに己を縛る鎖である御庭番から抜けることを決意。いわゆる「抜け忍」になった母娘は、しかし、逆に御庭番頭領・川村を挑発して討ち取ろうという起死回生の手に出ます。

 かくて始まる、天才くノ一と謳われた二人と川村率いる御庭番衆との戦いは、ここしばらくの風野作品では非常に珍しいとも言える、まさに大血戦というに相応しい死闘に継ぐ死闘の連続で、大いに驚き、かつ楽しませていただきました。
 さらになりゆきからある人物が二人の助っ人となったことから(ちなみに本書のタイトル「月光値千両」は、クライマックスでのこの人物の言葉。これがまた実に格好良いところで飛び出すのです)、思いもよらぬ大秘密がラストでは明らかになり、物語はいよいよもって複雑怪奇な様相を呈し始めたところで幕、という構成が、全く心憎いばかりです。

 こんな展開を見せられたら、読者としては、早く続きを! と声を大にして叫ぶほかないでしょう。


 ちなみに、そんな物語の中で、思わぬ存在感を発揮しているのが、若き日の鳥居耀蔵。
 静山を陥れようと執拗につけ狙う耀蔵は、古屋敷をお化け屋敷に改造して静山に買わせ、彼を陥れようと企むのですが…この、頭が良いようでいて実に悪い彼の行動力が、実に楽しいのです。

 しかもこの作戦が失敗に終わった後、屋敷を自分の趣味であるあぶな絵、いや「エロ絵」(これだとあまり恥ずかしくない 鳥居耀蔵 談)コレクションで飾って悦にいったり、それが終盤で意外な形で織江たちの運命に繋がったりと、本作では彦馬・織江・静山に継ぐ主役級のキャラとして育ってきた感があります。

 そんな彼もラストでは悲しい経験をすることになるのですが…さてそれがどう影響するか。そちらも気になるところであります。

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