「八百万」 駆け出し神様の捕物帖
神田の町角の稲荷社の神様として、お供の夏葉・秋色・お咲と共にやってきた春門は、人間の姿で町に顔を出して早々、商家の次男坊殺し騒動に巻き込まれてしまう。なりゆきから首を突っ込んだ春門は、事件の真相を探り始めるが…
webコミック「FlexComix フレア」に隔月連載中の本作「八百万」。「しゃばけ」の畠中恵先生が、以前「ミステリーズ!」誌に二篇発表した未単行本化作品を漫画化したものです。
スタイル的には時代推理ものではありますが、やはり畠中作品だけあって、主人公とその周辺は常人ではなく、主人公の豊川春門は新米のお稲荷様(豊川、ですものね)、お供の三人は遣わしめのお狐さんというのが最大の特徴。
しかも春門は新米だけあって人間界のしきたりになれておらず、神様としての自覚もいまいち。そのたびに夏葉の鉄拳制裁を食らうのですが、いずれにせよ、ちょっと抜けた主人公としっかり者のお供、というスタイルはある意味パターンですが、しかしやはりうまい組み合わせと感じます。
さて、事件の方は、さほど複雑な内容ではないのですが、証言者が現れるたびに二転三転する状況の中で、次々と人の心の中の黒々とした部分が露わになっていくというのは、なかなか巧みな構成。
ユーモラスなムードの一方で、人の世の苦い部分もきっちりと描かれているのは、やはり畠中作品と感じます。
しかし、本作ならではの味が出ているのは、事件の最後の証言者の、その悪意が露呈した後の、春門の言葉でしょう。
ある意味反則ではありますが、彼ならではの、彼にしか言えない言葉は、強く印象に残ります。
さて、最初の事件で春門がみたものは、人間の弱さ、醜さでありました。駆け出しの神様である彼にとって、それは楽しからざる人間との出会いだったわけですが、その印象がこれから変わっていくのか…
現在展開中の第二の事件では、人間に恋して出奔した保食神(ちなみに作中でこれに思い切り「ほしょくしん」とルビを振っているのはいかがなものか…)を探すこととなった春門。
この事件の中で、春門の人間観が変わることになるのか、ちょっと気になるところではあります。
「八百万」(みもり&畠中恵 「FlexComix フレア」掲載)
| 固定リンク
コメント