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2009.09.11

「室町少年草子 獅子と暗躍の皇子」 少年たちは時代を切り開く

 南北朝の動乱静まらぬ頃、能楽師・観阿弥の子・鬼夜叉は、若き足利義満の御前での舞台を成功させ、賛辞を得る。が、その後町に出かけた鬼夜叉は、館を抜け出してきた義満と出会い、彼が刺客に狙われていることを知る。刺客の一味に囚われた鬼夜叉は、その中に意外な人物を見る…

 知ってみれば面白いのに、江戸時代に比べればなかなか興味を持たれにくい室町時代。そんなわけで時代エンターテイメント、それもティーンズ向けの作品で室町時代が扱われることは非常に珍しいのですが、それだけにそうした作品には普通のもの以上に気合いが入っていると感じます。

 本作もそんな作品一つ。少年時代の足利義満と鬼夜叉(世阿弥)の二人を出会いを幕開けに、南北朝の動乱収まらぬ室町初期の人間群像を描きあげた佳品です。

 本作のタイトルは「室町少年草子」ですが、まさにその通り、物語の中心となるのは、室町に生きる少年たち。
 生まれながらの将軍として国を背負うこととなった義満。幼いながら芸の神に愛された天才・鬼夜叉。さらに、南朝方に親を殺され、佐々木道誉に育てられた義満の影武者・柊。そしてもう一人…

 彼らはいずれも、室町初期、南北朝という時代に生まれ、その時代の枠の中で生きる者たち。
 そんな、自分が生まれる前からの因縁に縛られ、苦しめられながらも、しかし自分の力で何とかそれを切り開いていこうとする――その試みは、時として自分自身を苦しめはするのですが、しかし、それでも彼らの意志は、何とも言えぬ美しいものとして、感じられるのです。

 しかし、その意志を持つのは、少年たちのみではありません。
 彼らの父の世代の人々もまた――自分たちの代で争いを終えることができなかった、という悔恨の念を背負いながら、自分たちに続く者たちへ新たな世を残すために、己の力を尽くすのです。
(ちなみに、その中に楠木正儀が含まれているのが何とも「わかっている」印象)

 本作は、そんな時代を切り開こうとする人々の悲しみと喜び、絶望と希望を瑞々しく描き出した作品。
 ライトノベルの文法を借りて描きつつも、その時代でなければ描けない――それでいて現代にも通じる――人々の想いを描き出した本作は、まさに時代小説と呼んで良いと思います。
(主人公たちの喋りがあまりにも現代っ子なのは、ライトノベル語と言うべきものでしょう)

 この国が栄えるために生を受けた義満と、民の救いのために生まれた鬼夜叉と――二人を中心とした人々の物語を、これからも読んでみたいと、心から思います。

「室町少年草子 獅子と暗躍の皇子」(阿部暁子 集英社コバルト文庫) Amazon
室町少年草子―獅子と暗躍の皇子 (コバルト文庫)

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