「無限の住人」第25巻 裏返しの万次と凛
「無限の住人」第二十五巻目は、あの凶獣・尸良と万次との「死闘」が遂に決着。不死者同士の戦いの決着が、この戦いに翻弄されてきた錬造の心に残したものは…
尸良と錬造によって凛を人質に取られ、追い詰められた万次。尸良を打倒することも凛を救うこともできず、万策尽きたかに見えた万次の元に駆けつけたのは、目黒とたんぽぽのくノ一コンビ――というシーンから始まるこの巻。
ようやく万次のターンになったかと思いきや、尸良には意外な「武器」が…という展開で、肉体的な条件では対等なはずの相手に大苦戦を強いられる万次の逆転の目は!? というわけで、長い長い間大暴れを続けてきた尸良が死に花咲かせるのに相応しい大殺陣に、まずは満足です。
しかし、この巻の真のクライマックスは、尸良が斃されてから始まります。
悪行の報い、というにはあまりに凄惨な――しかし彼にはどこまでも相応しい――尸良の最期を看取ったのは、彼の奴隷として使役されてきた錬造。ようやく尸良から解放された彼のとった行動は、しかし、むしろ尸良を悼むかのようなものでありました。
…一見理不尽ながら、しかし錬造の立場からすれば頷ける言葉で、万次を弾劾する彼の言葉から浮かび上がるのは、尸良と錬造が、実は裏返しの――そうなるかもしれなかった――万次と凛であった、という事実です。
暴力と血の中に身を置き、幾多の命を奪いながら、自らは不死の肉体を手にした万次と尸良。肉親を(自分から見れば)理不尽な理由で殺され、復讐のためにはより強き者に頼るほかなかった凛と錬造。
もちろん、相違点は山ほどあり、尸良が不死者になったのは比較的最近ということもあって――というより、このために尸良が不死者とならなければならなかったのか、と今更気付いた次第――気付きにくい構図でしたが、この二組の姿は、復讐と贖罪を一つのテーマとする本作を体現するような存在であったと今更ながらに気付かされます。
しかし、錬造の、さらには尸良の弾劾の言葉から逆説的に浮かび上がるのは、万次が万次たる、凛が凛たるの所以。
万次が皆に囲まれ、救われることが本当におかしいのか。凛は自分の手を汚せぬ覚悟なき者なのか…その答えは、二人の旅を最初から見守ってきた我々であればよく知っていることですが、それこそが万次と尸良を、凛と錬造を決定的に隔てたものであり――大袈裟に言えば、それは人間が人間として、どうすればギリギリの所に踏みとどまることができるか、ということなのでしょう。
一つの因縁が(ひとまず)解消し、そして主人公二人の主人公たる所以が改めて描かれ…いよいよ最終章も大詰め、という感があります。
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