「ぬばたま一休」 100冊の成果、室町伝奇の精華
作者のライフワークとしてすっかり定着した感のある朝松健先生の室町伝奇もの。「異形コレクション」に掲載された一連の短編のうち、一休宗純を主人公とした「ぬばたま一休」シリーズの最新刊が、そのものずばり「ぬばたま一休」のタイトルで刊行されました。
収録作品は、全部で六編。
若い男を惑わす謎の妖怪「ギ」に挑む「木曾の褥」、一つ目の赤子ばかり生まれる家の謎を解き明かす「ひとつ目さうし」、見えない妖に憑かれた姫君の悲劇「赤い歯型」、霧の中から迫る吸血鬼との対決編「緋衣」、少年時代の一休が迷い込んだ悪夢の迷宮「邪曲回廊」、そして書き下ろしの「一休髑髏」…
これらのうち、「異形コレクション」に発表された五編については、これまでにこのブログで取り上げているのでそちらをご覧いただくとして、こちらでは書き下ろしの「一休髑髏」の感想を。
一休と髑髏といえば、正月早々、杖の先に髑髏をつけて「ご用心、ご用心」と練り歩いた挿話が有名ですが、本作はまさにそれを朝松伝奇流に解釈したユニークな作品です。
新年早々世を騒がす不逞の輩として捕らわれた一休を巡って語られるのは、その奇行を目撃した者や、シリーズでもお馴染みの人物、さらには凶悪な盗賊など、様々な人々による証言。
その証言により物語の欠けていた部分が埋められていき、ようやく登場した一休自身の証言で浮かび上がる真相は、意外な――しかし朝松室町伝奇、いや朝松作品ではお馴染みの世界に繋がるもので、ニヤリとさせられます。
そこから一気呵成に物語世界が収束し、全ては一幕の舞台の上のことであったような、何とも不思議な心持ちにさせられる結末は、集中随一印象に残るものであります。
と、本書に収録されたこれら六編を読むと、そのバラエティに富んだ内容に、改めて驚かされます。
一口に室町と言っても、実際には長きに渡る時間の流れと、様々に入り組んだ政治・社会・文化の要素から成る時代ですが、本書はその複雑な諸相を、一休という個性豊かなキャラクターを水先案内人に描き出したもの。
本書に収録された作品がバラエティに富み、そしてそのいずれもが魅力的なのは、ある意味当然なのかもしれません。
そして最後に大事なことを。
実は本書は、朝松先生の記念すべき100冊目の著作とのこと。
朝松作品世界最大のヒーローである一休宗純を通して描かれる室町伝奇の精華である本書は、その100冊目にまさにふさわしい一冊であると感じます。
本書を読めば、この先101冊目以降も、「ぬばたま一休」、朝松室町伝奇、そしてそれらに留まらない朝松伝奇世界の発展を期待したくなるというものです。
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