「怪異いかさま博覧亭」第4巻 陰と表裏一体の温かさ
私にとって新刊が出るのをまだかまだかと待ちこがれるシリーズはいくつもありますが、その中でも一、二を争うほど楽しみにしている「怪異いかさま博覧亭」の第四巻が、ようやくと言うべきかついにと言うべきか、発売となりました。
両国の見世物小屋を舞台に、妖怪馬鹿に変人たち、妖怪に付喪神に幽霊に…と、おかしな面子が集まって大騒ぎを繰り広げる本作。
その最大の武器であるテンポの良いギャグは当然として、不意打ち的にグッとくる人情話あり、キャッチーな(?)萌えあり…と、今回も内容盛りだくさんでお得感溢れる一冊ですが、しかし、決して勢いのみの漫画ではなく、時として人の心や舞台となる時代・社会の陰の部分を描くことにより、物語に深みを与えている点も見逃せません。
例えば、榊たちと共に育ちながらも、妖怪であるがゆえに一人だけ少年のまま年を取らない柏。例えば、白髪ゆえに周囲の好奇の目に晒され、そして博覧亭の少女たちが自分の髪に無頓着なことに心を痛める榊――
本書に収められたエピソードの中に、フッと顔を出すこれらの陰の存在に触れて、我々読者は、一見脳天気に、賑やかに日々を暮らす登場人物たちにも、それぞれに背負うものがあると――つまりは、彼らも一個の人間であると、今更ながらに気付かされます。
もちろん、これはお話の中では一種のスパイス。彼らがそんな陰に押しつぶされるわけもなく、最後はきちんと微笑ましくも楽しいオチが用意されているのですが…
(ちなみに上に挙げた二つのエピソードで、共通して救いとなるのが、登場した当初は一番不幸だったキャラクターというのがまた、グッとくるところであります)
相変わらずのギャグセンスの良さ、江戸文化のうんちくの面白さ等々、本作の魅力は様々にありますが、それらを全て飲み込んだ上で、居心地の良い世界観・読後感を与えているのは、この陰と表裏一体となった温かさにあると、今更ながらに気付かされました。
そしてまた、アウトローも妖怪も、幽霊も付喪神も、みんな受け容れ護る一種のアジールとして、両国の見世物小屋を舞台として設定した――この舞台の持つ機能についても、蛇娘のエピソードで触れられていますが――作者のセンスにも感心します。
このアジールがいつまでもそこに在り続けるよう…心から願っているところです。
なお、江戸時代における髪型の問題(髪型が社会的身分を――時として差別の対象を――示すものとして機能していたということ)は、時代漫画ではしばしば無視される要素。
私もしばしば前向きに無視しているためあまり偉そうなことは言えませんが、しかしうまく使えば実に面白い題材になるものだけに、上記の髪型のエピソードを読んだ時には思わずニンマリしてしまった次第です。
…しかし、一番可愛らしいのが主人公の子供時代というのはどういうことなの。
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