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2009.11.30

「奪われた「三種の神器」 皇位継承の中世史」 神器争奪に見る日本の姿

 三種の神器といえば、神代より永遠不滅に存在するアイテムという印象がありますが、実は失われたり奪われたり、様々な目にあっているというのは、意外に知られていないことかもしれません。
 本書はそんな三種の神器争奪を通して、日本の中世史を描くという、ユニークかつ意欲的な内容の一冊です。

 本書で対象としている時代≒日本の中世は、平安時代末期、源平合戦の時代から、室町後期、応仁の乱の少し前までの辺り。
 壇ノ浦での宝剣喪失から、南北朝時代の皇統の混乱、そして嘉吉の乱・禁闕の変・長禄の変といった室町時代のテロ・動乱の数々まで、三種の神器という存在を軸に、中世の政治史、さらに言えば天皇の在り方が描かれています。

 三種の神器、すなわち八咫鏡・天叢雲剣・八尺瓊曲玉といえば、皇位の証として神代から伝わってきた宝物。
 その存在は、常に時の帝と共にあるもの――と当然考えてしまいますが、しかし、必ずしもそうではなく、時に失われ、時に奪われたということは、案外知られていないようです。

 三つ揃って皇位の証となるべき宝の一つが失われ、あるいは奪われた時、帝の地位はどうなるのか? そしてそもそも何故そのような事態が発生したのか?
 本書では、当時の記録の積み重ねにより、そんな刺激的な問いかけに、一つ一つ答えていきます。

 その中に浮かび上がるのは、ある意味帝以上に(と言っては物議を醸すかもしれませんが、ここは南北朝を念頭に置いていると思っていただきたい)不変に思われた三種の神器が、存外簡単に失われ、そしてその性格を変えていく様と、そのような変容をさせるに至った中世の混沌ぶり。

 中世の混沌ぶりについては、これまで様々な書物・小説で目にしてきましたが、本書で三種の神器を足かがりにして眺めてみれば、今更ながらにその凄まじさに驚かされます。
 そして同時に、その混沌に振り回されながらも、やがて適応し、前向きに利用すらしてみせようとする人間のしたたかさというものにも――
(初めのうちは三種の神器なしに帝を立てるため必死に過去の前例を探していたものが、やがて「帝のおわす所が三種の神器があるところ」「天下に三種の神器が存在していればそれでOK」となっていくのは、これはある意味もの凄いコメディではありますまいか)


 その混沌さゆえに、格別歴史に興味を持つ方以外からは敬遠されているやに思われる日本の中世史ですが、本書のような角度から眺めてみれば、また違った魅力が見えてくるでしょう。
 そしてその視点をさらに遠くに向けてみれば、実に刺激的な我が国の姿も見えてくるはず――そんなことを考えさせられた次第です。

「奪われた「三種の神器」 皇位継承の中世史」(渡邊大門 講談社現代新書) Amazon
奪われた「三種の神器」―皇位継承の中世史 (講談社現代新書)

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2009.11.29

「変身忍者嵐」 第21話「恐怖怪談! 吸血鬼! ドラキュラ日本上陸!!」

 江戸で相次ぐ奇怪な殺人。それは魔神斎が招いた悪魔道人配下のドラキュラの仕業だった。タツマキは夜の町で助けた娘を伊賀屋敷に保護するが、そこにドラキュラが出現、悪鬼に変じた娘と共に襲いかかる。謎の男・月の輪の助けで窮地を脱した嵐だが、カスミが毒牙にかけられてしまった。偶然ツムジが発見したドラキュラの本拠に乗り込んだ嵐は、月の輪の助言によりドラキュラを十字打ちで倒すのだった。

 さあ、今回からはガラッと雰囲気が変わっての西洋妖怪編。
 魔神斎が新たなる戦力として招いたのは、飛騨の山奥霧ヶ峰に忽然と現れた大魔神像を本拠とする悪魔道人(センス溢れるネーミングに、いかにも悪い西洋魔術師然としたビジュアルが素晴らしい)が引き連れてきたのは、伝説の西洋妖怪たち!
 …というわけで、変身忍者vs西洋妖怪という夢のカードが繰り広げられることになるわけです。これを伝奇と言わずして何を伝奇というのか!

 しかしその一番手がドラキュラという飛ばしっぷりが、またらしいというか何というか…まあ、ドラキュラは15世紀の人間なので、江戸時代に登場しても考証的には間違っていない(?)のですが。

 そんないきなり勝手の違う相手に戸惑う嵐を助けるのは、謎の男・月の輪。
 まだ全く謎の存在ですが、彼にドラキュラは十字に弱いと的確なアドバイス受けた嵐は、長短二刀を十字に組み合わせるという超定番パターンでドラキュラをひるませ、辛くも緒戦を飾るのでした。

 …さて、戸惑うと言えば、今回からいきなり衣装が時代劇風になったハヤテたち。いままでの原色ビニール地っぽい衣装から一変、普通の忍者調の装束になったのは、時代劇的には喜ばしいのですが、本当にいきなりだったので面喰らいました。
 しかも嵐の変身シーンまでオミットされ、いきなり高笑いしながら出現するのにもまたびっくり。

 何はともあれ、これまでに比べれば一気に時代劇っぽくなったわけですが、それと西洋妖怪という無茶っぷりのミスマッチが、またなんとも楽しいのです。

 もっとも、今回は吸血鬼との戦いということでナイトシーンがほとんどだったのですが、これがまた本当に見辛かったのだけは勘弁して欲しかった。
 ただでさえカメラワークがナニな作品なんですから…


 さて、次回の敵はミイラ男。今回はドラキュラと戦う嵐を後ろから羽交い締めにするという顔見せ的登場でしたが、さて本格的活躍はいかに。
 顔見せといえば、他にもゴルゴン、スフィンクス、フランケン、狼男も登場するのですが、着ぐるみ製作が間に合わなかったのか絵で登場…とほほ。


今回の西洋妖怪
ドラキュラ
 夜の江戸で次々と人を襲う吸血鬼。襲われた人間も吸血鬼となり、犠牲者を増やしていく。日光と十字架を苦手とする。
 普段はマントをまとった金髪の男の姿で現れ、眼光による目くらましや瞬間移動、催眠霧などの能力を持ち、吸血蝙蝠を操る。その本性は蝙蝠男であり、その姿の際は口から炎を吐く。
 瞬間移動で嵐を苦しめたが、月の輪の助言で二刀を十字に組み合わせた嵐の十字打ちに敗れる。


「変身忍者嵐」第2巻(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
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2009.11.28

「裏宗家四代目服部半蔵花録」第5巻 忍者アクションと青春ドラマと

 江戸に密かに生きる忍びたちと、彼らを襲う謎の敵との対決を描いてきた「裏宗家服部半蔵花録」も、早いものでもう五巻目。この巻では、隅田川の川開きの花火を舞台に、謎の敵の次なる仕掛けに、お花や十兵衛が挑むこととなります。

 江戸に猛威を振るった忍狩りも姿を消し、ひとまずの平穏を取り戻した江戸。お花と慎吾が、花火に出かけることを楽しみにしている中、十兵衛の方は、お忍びで花火に出かけるという家光の警護に付く羽目に。

 しかし花火が最高潮となったその時、家光の船を襲う謎の忍びの一団。柳生一門と忍びたちの乱戦の中、文字通り飛び火した花火は江戸の町を襲い――騒動の背後に父の仇の存在を感じ取ったお花の決断は――!?

 というわけで、これまで同様、この巻でも、派手な忍者アクションと、お花・慎吾・十兵衛の三人の若者の青春ドラマ的関係が絡み合いつつ描かれていくことになります。

 とりあえずは休戦状態のお花=四代目服部半蔵花録と十兵衛、謎の忍び――その中には実はお花も含まれてるのですが――と戦うために十兵衛に弟子入りした慎吾。
 さらにお花は慎吾が、慎吾と十兵衛はお花が…と、なかなかにややこしい人間関係となっているのですが、それを基本コミカルに、しかし時にハッとするほどシリアスに描くという、本作ならではの味は、この巻でも健在であります。

 殊に面白いのは、相変わらず不思議な存在感を放つ十兵衛のキャラクターであります。
 基本的には飄々としながらも、時に恐るべき技の冴えを見せる…というのは、従来の柳生十兵衛像とあまり変わらないようにも見えますが、しかし本作の十兵衛は、色々な意味でかなり若いのがユニークなところ。

 本気なのかわざとなのか、どこか抜けた部分を隠そうともせず、そしてお花に想いを寄せながらも、それを冗談めいた形でしか示せない――それでいて刀を持てばバカ強い――そんなちょっと不安定な十兵衛像が、また良いのです。

 ちなみにこの巻では、その十兵衛よりさらに若い宗冬が登場。これがまた実にほほえましいブラコンぶりで…

 と、なんだか柳生話ばかりになってしまいましたが、この巻のラストでお花が強いられた選択、そしてその結果は、お花が戦う理由の、一つの回答とも言えるものであり、ヒーローとしての服部半蔵花録の第一歩として、重要なものでしょう。

 もちろん、彼女の、そして十兵衛や慎吾の歩む先は遠く険しいもの。まだまだ着地点の見えぬ物語ですが、しかしそれだけにこの先が実に楽しみなのです。

「裏宗家四代目服部半蔵花録」第5巻(かねた丸 講談社DXKC) Amazon
裏宗家四代目服部半蔵花録 5 (KCデラックス)


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2009.11.27

「とんち探偵・一休さん 謎解き道中」 史実とのリンクに不満が…

 「金閣寺に密室」でデビュー(?)したとんち探偵一休さんが帰ってきました。前作でも活躍した茜、そして新右衛門さんと旅立った一休が、旅先で次々と出くわす事件に挑む連作短編集です。

 前作で見事足利義満の死の謎を暴いた後、茜の生き別れの両親を捜すため、新右衛門と共に旅に出た一休。
 難波・大和・伊勢・終わり・駿河・伊豆・相模そして武蔵…両親と思われる男女の跡を追う中、各地で三人が出くわした八つの事件の謎を、一休が解き明かすというのが本書のスタイルであります。

 前作でも密室トリックに挑んだ一休ですが、本書では密室トリックの他、人間のすり替わり、建物の消失、被害者捜し等々、本書で取り上げられる八つの事件(正確にはラストを除く七つの事件)も、いずれもミステリの見本市的なバラエティに富んだもの。
 さらにそこに毎回毎回、事件捜査の前に吹っ掛けられる何台を、一休がとんちで解決する場面があるのもユニークです。

 個人的に印象に残ったのは、一夜にして現れ、鬼の棲み家として恐れられていた黒い家が、再び一夜にして消失した謎を解き明かす第四話「尾張・鬼の棲み家」。豪快なトリックではありますが、何故家が現れ、そして消えなければならなかったか、という点の理屈付けが楽しいのです。


 さて、このようにミステリとして見た場合なかなか楽しめる本書なのですが、個人的には大きな不満があります――それは歴史、史実とのリンクがかなり乏しいこと。

 前作は、足利義満の密室での死という衝撃的な事件の謎解き…すなわちミステリであると同時に、その中で、義満を取り巻く人と社会の状況を浮かび上がらせるという時代ものとしての側面を合わせ持つことが、大きな特長としてありました。
 つまり前作はミステリ+時代ものであったのですが、しかし、本作はその時代ものの要素が、一話を除いて背景事情としてしか機能していない――一休が主人公であることを除けば、別に室町を舞台とする必然性がないのです。

 その一話であるラストのエピソードは、物語の締めくくりであるだけに、なるほど! と感心させられるような時代ものとしての仕掛けが施されており、その点は大いに評価できるのですが、その仕掛けも、正直なところかなり唐突な印象があるのが残念なところです。

 一定のルール・パターンを設定した短編連作に、あまり大仕掛けなものを求めるのは酷かもしれませんが、しかし、前作が見事だっただけに、その点が何とも残念に感じられた次第です。

「とんち探偵・一休さん 謎解き道中」(鯨統一郎 祥伝社文庫) Amazon
謎解き道中―とんち探偵・一休さん (祥伝社文庫)


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2009.11.26

「戦国妖狐」第3巻 現実の痛みを踏み越えて

 戦国時代をさすらう妖狐と仙道の姿を描く「戦国妖狐」の第三巻であります。 前の巻から本格化した僧兵団・断怪衆との死闘はいよいよ激化、四獣将との戦いの果ての、ある悲劇が描かれることになります。

 霊力改造人間を作りだし、退魔を行う断怪衆に喧嘩を売った人間嫌いの仙道・迅火と、妖孤のたま。彼らと行動を共にすることとなった自称武芸者の真介、そして霊力改造人間の少女・灼岩…
 灼岩の中に存在する闇・火岩の故郷を目指す四人の旅の前に次々と現れるのは、断怪衆最強の四獣将が烈深と道錬。旅の仲間たちとの触れ合い、そして四獣将との戦いの中で、頑なだった迅火の心にも変化が生じていくのですが――

 と書けば、いかにもなバトルものにも見えますが(事実、クライマックスの迅火vs四獣将・道錬との壮絶な打撃戦など、バトルものとして見てもなかなか面白いのですが)、しかし本作もやはり水上漫画。
 キャッチーで(時として痛くも見える)ファンタジー入った設定の中で、不意に訪れる現実の痛みを描くのに光るものを持つ作者の技は、本作でも健在であります。

 未読の方のために深くは触れませんが、本書の後半に収録されたエピソードで描かれる別れと出会いは、まさかここでこのような展開になるとは…と、胸を突かれること間違いなし。
 「ようこそ世界へ」の台詞は、ちょっとズル過ぎるくらい決まった感がありますが、それ以上に、あの迅火が熱い涙を流す様に、心を揺さぶられます。

 正直なところ、まだまだ作者が戦国という「現実」を扱いかねている感は強く、その点は残念ではあるのですが、現実の中で痛みを知った迅火が、真介たちがこの先どのような旅路を歩むのか、これは間違いなく、見逃せないところであります。

「戦国妖狐」第3巻(水上悟志 マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon
戦国妖狐(3) (BLADE COMICS)


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2009.11.25

「水滸伝」 第23回「策略に散る歌姫の恋」

 徽宗皇帝が李師太夫に溺れ、政治を蔑ろにしているという噂を探りに向かった史進と魯達。太夫の客となって接近した二人は、真に帝のことを想うのであれば別れて欲しいと彼女を説得する。一方、高求は強引に太夫を宮中に入れようと企み、板挟みになった太夫は帝の眼前で自ら命を絶つ。帝の声懸かりで捕らわれるのは免れたが、高求配下の敬天柱と試合することになった二人。魯達は死闘の果てに敬天柱を破るが、二人が梁山泊の人間と知った兵が襲いかかる。二人は駆けつけた林中とともに兵を蹴散らし、人質として捕らわれていた盧俊義の娘・鳳仙と共に都を脱出するのだった。

 いよいよ残すところわずか四回となった「水滸伝」。今回は、登場するゲストキャラクターは、若き徽宗皇帝とその恋人・李師太夫。
 ここでいう李師太夫とは、原典の李師師のことですが、原典では、梁山泊が彼女を介して帝に接近し、招安を受けるという件を巧みに換骨奪胎。高求の権力の前に無力感を感じる皇帝と、身分違いの恋と知りつつも彼を支えようとする李師の悲恋、そして梁山泊の面々の赤心を描くエピソードとしてアレンジしています。

 原典ではこの李師太夫に近づくのは燕青でしたが、本作では史進と魯達がその役目。二人とも曽家戦には顔を出さなかったなあ…というのはさておき、物語冒頭から登場していた二人がここで活躍してくれるのは嬉しいところ(ちなみにこの二人の脳天気なコンビぶりが本当に楽しいのです。いいなあ、バカで格好良い男たち)。
 なるほど、こういう色男役は史進にピッタリだわい…と思っていたら、むしろ李師太夫に積極的に語りかけるのは魯達というのも面白い展開です。

 しかし可哀想なのは李師太夫。ただでさえ身分違いの恋のところに、高求は自分を利用してさらに帝を骨抜きにしようと企み、魯達と史進からは、帝のことを想うのであれば帝と別れてくれと迫られ――ついに自らの命を絶ってしまうのは、これはある意味定番展開ながら個人的にはあまり好きではないのですあ、「これで私もあなた方の同志…」と魯達たちに語りかける言葉が泣けるのです。

 と、そこから物語は急展開、魯達と史進は、高求配下の敬天柱(やたらイイ体をしつつも台詞の少ないキャラだと思ったら演じているのは遠藤光男でした)との御前試合に挑むことに。
 敬天柱は原典の泰山相撲で燕青に敗れたケイ天柱任原のことだと思いますが(ヘラルド映画の「水滸伝」で燕青とラストバトルを演じたあのキャラ)、ここでこのエピソードを持ってくるとは…

 結局、魯達相手に(こういう時ちゃっかりしている史進)なかなか良い勝負を演じたものの、敬天柱は力余った魯達にぬっ殺され、まぬけにもその時になってようやく二人が梁山泊の人間であることに気付いた高求は大あわて。駆けつけた林中とともに高求の配下をさんざん打ち破って、史進と魯達は都を後にするのでした…


 と、もう一人のゲストキャラを忘れていました。それはミス水滸伝(というのがあったのですね)演じる美少女・鳳仙。彼女の父は北京大名府の大富豪・盧俊義であります。
 天下を動かすほどの財を持ちながら義侠を好み、ことごとく官憲に逆らう盧俊義に対する人質とするため、帝の后候補として招かれた彼女ですが、史進との絡みはあったものの、演技力のアレさもあり、李師太夫のドラマの前に割りを食った感もあります。

 今回は名前のみの登場だった盧俊義ともども、本格的な出番は次回というところでしょう。


 ちなみに今回、徽宗皇帝を演じたのは何と若き日の水谷豊。これがちょっと唖然とするくらいの若さで、いやはや驚きました。
 一方、逆の意味で驚いたのは、鳳仙のお付きのばあや役の菅井きん。これがまた全然変わってなくて…

 あと、鳳仙たちをつけ狙う無駄にキャラの立った暴漢、どう見ても…と思ったらやっぱり阿藤海でした。

「水滸伝」DVD-BOX(VAP DVDソフト) Amazon
水滸伝 DVD-BOX


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2009.11.24

「不義士の宴 浪花の江戸っ子与力事件帳」 二つの謎に挑め!

 大坂西町奉行所与力・伊吹伝四郎は、盗賊・霧の十兵衛一味捕縛の特命を受ける。しかしその矢先、かつて赤穂浪士を援助した大野屋に一味が押し入り、手代が殺されてしまう。一方、伝四郎の友人で元赤穂藩士の工藤京太郎は、ふとした縁から、浪士討ち入りの裏の事情を知ることになるが…

 最近、文庫書き下ろし時代小説で躍進を続けている早見俊先生の「浪花の江戸っ子与力事件帳」第一弾、「不義士の宴」が光文社文庫から刊行されました。
 故あって大坂町奉行所で与力として働く江戸っ子侍を主人公にした奉行所ものであります。

 …と、私がこのブログで取り上げるのですから、ただの文庫書き下ろし時代小説、ただの奉行所ものであるわけがありません。

 凶賊に挑む主人公・伝四郎と仲間たちの探索の中で浮かび上がるもの――それは、あの松の廊下の刃傷沙汰の真の原因。
 なぜ浅野内匠頭は吉良上野介に斬りつけたのか、なぜ吉良上野介は江戸で討たれなくてはならなかったのか…
 その伝奇的謎が、思わぬ形で伝四郎の追う事件に絡み、そしてそれが伝四郎を苦しめることになるという、この辺りの展開が、実に面白いのです。

 実のところ、現在では伝奇ものとは赤の他人のような顔をしている奉行所もの(捕物帖)ですが――例えば角田喜久雄の水木半九郎シリーズのように――歴史の謎と、事件の謎、追うものは違えど、共に「謎」を相手にする同士、実は親和性はかなり高いのです。

 実のところ本作の伝奇的部分は、一種スパイス的な使われ方であって、それほど踏み込んでは描かれないのですが、それでもこの二つの「謎」を相手にする伝四郎の活躍を、十分楽しむことができました。


 さてこのシリーズ、冒頭で第一弾と述べましたが、実は他社から「びーどろの宴」というタイトルで、本当の第一弾が刊行されているとのこと。
 こちらもかなり伝奇要素が強い作品らしく――見逃していた自分のうかつさを今更ながら恥ずかしく思いますが――早く読まなければ! と思うとともに、これからのシリーズ展開もまた、大いに気になるのです。


「不義士の宴 浪花の江戸っ子与力事件帳」(早見俊 光文社文庫) Amazon
不義士の宴―浪花の江戸っ子与力事件帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

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2009.11.23

「夕ばえ作戦」第2巻 原作精神健在なり

 名作ジュヴナイル「夕ばえ作戦」の漫画版第二巻が発売されました。原作に多くのアレンジを加えた漫画版ですが、いよいよ物語が盛り上がってきたこの巻を見ると、原作の精神は健在のように感じられます。

 突然慶長八年にタイムスリップしてしまった高校生・茂と明夫。風魔忍者が幕府の代官所を襲撃するのに巻き込まれた二人は、成り行きから幕府側の忍者の味方をすることになったものの、同じくタイムスリップしてしまった担任の高尾先生が風魔に捕らわれて…というところまでが第一巻。
 続く本書では、前半で高尾先生奪還作戦が、後半では、思わぬ展開から現代に戻ってきた茂と風魔の少女忍者・風祭陽子の姿が描かれれます。

 原作の魅力は読者と変わらぬ現代の学生が、未来(現代)のテクノロジーと知恵と勇気で、戦国時代の忍者と渡り合うところにまずあるかと思いますが、第一巻でもいくらか描かれたその要素は、この巻でよりはっきりと描かれます。
 数の上では絶対的に勝る相手に茂たちが挑む際に助けになるのが、我々の身近にある、しかし慶長年間にあっては脅威のテクノロジーであろうアイテムの数々。
 携帯電話のライトを合図の狼煙代わりに、防犯ブザーを音爆弾(?)代わりに、風魔忍者たちを攪乱して突入する茂たちの姿は、そのアイテムの存在が我々には当たり前であればあるほど、実に痛快です。

 もちろん、小手先のアイテムに頼るだけでなく、力と力のぶつかり合いでも、現代っ子は負けていません。茂が習い覚えた古武道の棒術で、風魔でも腕利きであろう風祭陽子と互角に渡り合うアクションシーンの迫力は、この巻のクライマックスの一つでしょう。
 原作で個人的に最高の説得力を持っていた、「戦国時代より栄養のあるものを食っている分、現代っ子の方が忍者より身体能力が高い」ロジックが(まだ)登場しないのは残念ですが…
(ちなみに明夫の方は、ミリオタ(戦術マニア)として設定されているのが、面白くもバランスが取れていてなかなかよろしい)


 …と、真面目に(?)書いてきて何ですが、本書の最大の魅力、原作ファンであれば必ず読むべきであるのは、後半の展開であります。
 激しく争う中、偶然、タイムスリップ・スポットに飛び込んでしまった茂と陽子。二人が飛び出した先は――現代の横田基地! というのには原案者の影を感じて爆笑しましたが、それはさておき、思わぬ成り行きから陽子を自分の家に連れて行った茂は、妹と共に彼女の世話をすることになるのですが――ここから先はある意味陽子無双。
・風呂上がりに妹の洋服来て頬を赤らめる陽子
・中辛カレーを必死に頬張る陽子
・寝惚けてクマさんのぬいぐるみを抱っこしてる陽子
・街で飛行船を見上げて目をキラキラさせる陽子
 何という俺得!(と、原作ファンは皆思っているのではあるまいか)。


 などと思わず取り乱してしまいましたが、真面目な話、この辺りは、原作でも大きな意味を持っていたエピソード。生まれた時から使命の中に身を置き、戦いしか知らなかった少女が、自分の全く知らない平和な、自由な世界に触れた時何を感じ、どのように変化していくか…
 現代人が過去に行って活躍する姿を描くだけでなく、過去の人間が現代に来て、良き方向に変わっていく姿を描くというのは(現代がそんなに良い時代か、という問いかけはさておき)原作の魅力の一つであり、工夫であったと感じますが、その点は、この漫画版でも全く変わらず、いや魅力的な画が付いた分、より印象的になっているのではないでしょうか。

 そして、陽子が現代にやって来たことは、原作にはなかったまた別の意味を持つであろうことが、ラストに描かれるのですが…さらに、つかの間の現代で装備を整えた茂が、現代のグッズで大反撃に移るのかな、という楽しみもあり、連載当初に感じた不安はどこへやら、第三巻の発売が今から楽しみで仕方ないのです。

「夕ばえ作戦」第2巻(大野ツトム&光瀬龍&押井守 徳間書店リュウコミックス) Amazon
夕ばえ作戦 2 (リュウコミックス)


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2009.11.22

12月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 今年も「そんな奴ァいねえ!!」単行本の発売で一年の終わりを感じる時期がやってきました(やな風物詩だな…)。
 振り返ってみれば今年もあっという間でしたが、終わりよければすべてよし。12月の時代伝奇アイテムの発売スケジュールです。

 文庫小説では、今年一年も大活躍だった風野真知雄の「妻は、くノ一」と、今年一年で一気にブレイクした感のある上田秀人の「奥右筆秘帳」、それぞれの最新刊が真っ先に気になるところ。
 その他新作では、「異形コレクション」最新刊にお馴染み朝松健の室町伝奇が、何とコメディ調で登場とのことで楽しみです。

 既刊の文庫化では、夢枕獏の「陰陽師 夜光杯ノ巻」、海道龍一郎の「悪忍」、加野厚志の「幕末暗殺剣 龍馬と総司」、中路啓太の「火ノ児の剣」、京極夏彦の「前巷説百物語」が要チェック。
 特に「幕末暗殺剣 龍馬と総司」(「探偵 沖田総司」改題)は、実は廣済堂で出ていた沖田総司シリーズの最終巻ですが、沖田総司の最期を描いてグッとくる作品です。


 漫画の方は、シリーズものの最新刊がほとんど。お久しぶりの「九十九眠るしずめ 明治十七年編」を皮切りに、「風が如く」、「軒猿」、「ICHI」、「大帝の剣」、「AZUMI」といったところが楽しみなところです。
 また、継続刊行中の秋田書店の新装版白土三平選集、12月は「ワタリ」の登場。今更言うまでない忍者漫画の名作ですので、未読の方はぜひ。

 新登場は、最近第三作目が発売された和田竜原作の「忍びの国」と、最近何げに時代漫画が増えているコミックバンチ連載の「伊達の鬼 軍師片倉小十郎」があります。

 そしても一つ、やっぱりアレになってしまったけれども水滸伝マニアとしては最後まで読みたい「AKABOSHI 異聞水滸伝」の第2巻もよろしければ。


 さて、さすがにホリデーシーズンだけに大作・話題作が多数発売されるゲームですが、やはり時代もの的に一番の注目は「戦国無双3」でしょう。
 …マリオの発売日とぶつかってますが。(オプーナの悲劇ふたたび)

 また、個人的にはシリーズ最新作の「サムライスピリッツ閃」がやはり気になります。いよいよXbox360を買うか…


 映像の方では、韓流時代劇「必殺! 最強チル」がついにソフト化されるのがうれしいところ。
 妙なタイトルですが、実は本作、正式に権利を取って作成された「必殺」もの。ごく一部のマニアの間で知られていた作品が、ようやく簡単に見られるようになったのはめでたいことです。


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2009.11.21

「変身忍者嵐」 第20話「みな殺し! 忍者大決戦」

 伊賀忍者たちに挑戦状を叩きつけた化身忍者・顔盗みのカワウソ。カワウソを追うタツマキは、同僚の小猿の裏切りに遭って捕らわれ、カワウソはタツマキに化ける。誘い出したハヤテを崖下に突き落とし、伊賀忍者たちに毒を飲ますカワウソ。用済みと小猿を斬り捨てたカワウソの刃がタツマキに迫った時、ハヤテが登場、タツマキを救い出す。毒に苦しみながらも伊賀忍者たちが必死に戦う決戦場の死霧ヶ原に駆けつけた嵐たちは、カワウソら血車党を粉砕。伊賀忍者全滅作戦をすんでの所で防ぐのだった。

 実は今回で化身忍者編(便宜上そう呼びます)はラストの「変身忍者嵐」。といってもラストらしい展開は別にないのですが、物語展開は、これまでのパターンとは大きく異なる内容となっています。

 今回描かれるのは、江戸を舞台とした伊賀忍者(公儀隠密)と血車党の暗闘。四谷の伊賀屋敷に集った伊賀忍者たちが、江戸に潜む血車党員を洗い出そうとすれば(役人の手を借りて、血車党員の疑いのある商人の旅籠に踏み込むシーンはなかなからしくてよろしい)、血車党側は伊賀忍者絶滅作戦を展開。
 変装(変身)能力を持つ忍者が、相手側の陣営に潜入して…というのは忍者ものの美しい伝統ですが、今回の化身忍者カワウソは「顔盗み」の異名を持つだけあって、ハヤテでも気付かないような変装で――もっともハヤテは基本的に注意力不足くさいですが――タツマキに化け、出陣前の水盃に毒を混ぜて伊賀忍者団をほとんど壊滅状態に追い込むという活躍を見せてくれました。

 さらに伊賀忍者側にも血車党に寝返っていた人物がいたりするのも面白い。ハヤテが、嵐が派手に化身忍者と戦っている背後で、こうした忍者たちの戦い、ドラマも繰り広げられているのだなと思うと、作品世界の広がりというものが感じられて実に良いのです。
(まあ、第20話になってようやく忍者ものらしくなるというのも何ですが…)

 さて、今回大活躍したカワウソは、ベルトを付け忘れたショッカー怪人のような外見にも似合わず(?)、変装以外でも大活躍。
 その秘技・無刀取りは、ハヤテの刀を素手で奪い取り、へし折ってしまうという荒技(しかし嵐に変身した途端、刀が復活しているのもすごい)。嵐の旋風斬りにも、手槍を振り回す逆旋風で対抗と、最後の化身忍者らしい隠れた強豪でありました。
 逆旋風が何で対抗策になるのかはよくわかりませんが、そもそも旋風斬り自体が効果がよくわからないからなあ…

 そして再び無刀取りで嵐の刀を受け止めるカワウソ。武器を封じ、勝ち誇るカワウソに対して嵐は――空いた左手で「指目つぶし」! チョキにした指で目を攻撃するという、ヒーローにあるまじき裏技であります。
 この目つぶしがよほど効いたのか、カワウソはもがき苦しんで捨て台詞を残した後、「俺の最期を見ろ!」と叫んで大爆発。いやはや、本当にすごいものを見てしまった。

 …というか、ここにきていきなりヒーローものの常道を外してきたところに愕然といたしました。いやー目つぶし一発で死ぬ怪人も本当に珍しい。


 と、真面目な角度からも不真面目な角度からもかなり楽しめた今回。内田一作監督の、遠距離からカメラを動かさないカメラワーク(?)がいつも以上に見にくかったのを除けば、なかなか楽しませていただきました。
 それにしても伊賀忍者団、今回大打撃を受けてしまいましたが…今後も彼らの受難は続くのでありました。頑張れ伊賀忍者!


今回の化身忍者
カワウソ(顔盗みのカワウソ)
 顔型を取った相手に化ける忍法「顔盗み」を使う化身忍者。その他、一瞬で辺りを火の海にする忍法「油火炎」、相手の刀を素手で受け止める「無刀取り」を使う。
 伊賀忍者絶滅作戦のためタツマキに化け、伊賀忍者たちに毒を盛った上で死霧ヶ原に誘い出し、壊滅的な打撃を与えた。嵐との対決では、武器の手槍を回転させる逆旋風で嵐旋風斬りに対抗、無刀取りで刀を押さえたが、嵐の指目つぶしをくらい、苦しみもがいた挙げ句爆死した。


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2009.11.20

「平安ぱいれーつ 宮城訪問」 いい意味で裏切ってくれる伝奇コメディ

 小頭四天王が嘆く中、元服した山吹丸。しかしその翌日、彼の主・藤原純友がが原因不明の昏睡状態となってしまう。その原因に心当たりがあるらしい四天王の一人・青鷺の故郷に向かうことになった山吹丸たちだが、なんとその故郷は海の底だった!?

 藤原純友に仕える男童・山吹丸を主人公に、純友や彼を取り巻く海賊四天王が繰り広げる大騒動を描く「平安ぱいれーつ」の第二巻が刊行されました。

 言うまでもなく純友は、伊予掾でありながら海賊の首領となり、東国の平将門と並んで世を騒がしたという人物。
 「平安ぱいれーつ」のタイトルも、それに由来するものですが、しかしそのタイトルや史実から予想される内容をいい意味で裏切ってくれる伝奇コメディ(?)となっているのが本作の楽しいところです。

 本書には中編二編とおまけ短編一編が収録されていますが、一つ目の中編が本書の表題作「宮城訪問」。
 宮城(きゅうじょう)といえば帝がおわす場所ですが、本作に登場するのは帝は帝でも海の王の城。竜の宮城であります。
 突然人事不省に陥った純友を救うため、宮城に向かった山吹丸一行。なんと四天王の一人・青鷺はこの宮城の出身、それどころか両親は日本人なら誰でも知ってる超有名人で…と、意表をついたアイディアと、宮城の人々(?)のキャラクターが楽しい一編です。

 また、もう一編の「帰京騒動」は、突然純友が伊予掾を免ぜられた理由を探りに、山吹丸が京に向かうエピソード。
 父を甦らせ、将門を調伏したという高僧・浄蔵や、あの晴明が登場したり、四天王の一人・白露の正体が判明したりと、こちらも盛りだくさんの内容であります。

 さて、本作最大の特徴は、山吹丸が四天王をはじめとする面々に、過剰に好かれまくること。
 実は山吹丸は、半妖に異常に好かれてしまうという特異体質で、それゆえに四天王をはじめとする半妖の方々にモテモテなのですが、登場する半妖が全て男性というのが…

 この辺り、あざといというかうまいというか、煩悩のままに書きつつも、色々な意味で一線を越えない――そしてもちろん、本筋の部分は誰が読んでも面白く、しっかり描いている辺り、実に作者らしいと思います。


 さて、ついに伊予掾を免ぜられ、専業海賊(?)となってしまった純友。いよいよ史実通りの展開となってきましたが、もちろんタダで済むとは思えません。 おそらくは次の巻では、将門の乱が絡んでくるのでしょうが…山吹丸がまた好かれることは断言できます。


 ちなみに「宮城訪問」の冒頭で、山吹丸は元服して一つ上の男になるのですが、ラストである事情から子供に戻った上に成長はストップしてしまうことに。なんという合法ショタ…

「平安ぱいれーつ 宮城訪問」(如月天音 新書館ウィングス文庫) Amazon
平安ぱいれーつ?宮城訪問?  (新書館ウィングス文庫 145)


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2009.11.19

「怪異いかさま博覧亭」第4巻 陰と表裏一体の温かさ

 私にとって新刊が出るのをまだかまだかと待ちこがれるシリーズはいくつもありますが、その中でも一、二を争うほど楽しみにしている「怪異いかさま博覧亭」の第四巻が、ようやくと言うべきかついにと言うべきか、発売となりました。

 両国の見世物小屋を舞台に、妖怪馬鹿に変人たち、妖怪に付喪神に幽霊に…と、おかしな面子が集まって大騒ぎを繰り広げる本作。
 その最大の武器であるテンポの良いギャグは当然として、不意打ち的にグッとくる人情話あり、キャッチーな(?)萌えあり…と、今回も内容盛りだくさんでお得感溢れる一冊ですが、しかし、決して勢いのみの漫画ではなく、時として人の心や舞台となる時代・社会の陰の部分を描くことにより、物語に深みを与えている点も見逃せません。

 例えば、榊たちと共に育ちながらも、妖怪であるがゆえに一人だけ少年のまま年を取らない柏。例えば、白髪ゆえに周囲の好奇の目に晒され、そして博覧亭の少女たちが自分の髪に無頓着なことに心を痛める榊――
 本書に収められたエピソードの中に、フッと顔を出すこれらの陰の存在に触れて、我々読者は、一見脳天気に、賑やかに日々を暮らす登場人物たちにも、それぞれに背負うものがあると――つまりは、彼らも一個の人間であると、今更ながらに気付かされます。

 もちろん、これはお話の中では一種のスパイス。彼らがそんな陰に押しつぶされるわけもなく、最後はきちんと微笑ましくも楽しいオチが用意されているのですが…
(ちなみに上に挙げた二つのエピソードで、共通して救いとなるのが、登場した当初は一番不幸だったキャラクターというのがまた、グッとくるところであります)

 相変わらずのギャグセンスの良さ、江戸文化のうんちくの面白さ等々、本作の魅力は様々にありますが、それらを全て飲み込んだ上で、居心地の良い世界観・読後感を与えているのは、この陰と表裏一体となった温かさにあると、今更ながらに気付かされました。

 そしてまた、アウトローも妖怪も、幽霊も付喪神も、みんな受け容れ護る一種のアジールとして、両国の見世物小屋を舞台として設定した――この舞台の持つ機能についても、蛇娘のエピソードで触れられていますが――作者のセンスにも感心します。

 このアジールがいつまでもそこに在り続けるよう…心から願っているところです。


 なお、江戸時代における髪型の問題(髪型が社会的身分を――時として差別の対象を――示すものとして機能していたということ)は、時代漫画ではしばしば無視される要素。
 私もしばしば前向きに無視しているためあまり偉そうなことは言えませんが、しかしうまく使えば実に面白い題材になるものだけに、上記の髪型のエピソードを読んだ時には思わずニンマリしてしまった次第です。


 …しかし、一番可愛らしいのが主人公の子供時代というのはどういうことなの。

「怪異いかさま博覧亭」第4巻(小竹田貴弘 一迅社REXコミックス) Amazon
怪異いかさま博覧亭 4巻 (IDコミックス REXコミックス)


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2009.11.18

「月の蛇 水滸伝異聞」第1巻 挑む相手は百八の星

 梁山泊の豪傑たちを悪役としたことでファンを驚かせた異色の水滸伝「月の蛇」の単行本第一巻が発売されました。
 謎の黒い蛇矛を持つ男・趙飛虎が、百八人の豪傑に戦いを挑むアクション漫画であります。

 「水滸伝」が、時の権力に抗し、水のほとり梁山泊に立て籠もった百八人の豪傑の物語であることはよく知られていますが、彼らの大半は、元は山賊・やくざといったならずもの。
 果たしてそんな彼らに忠義大義を語ることができるのか…というのはこれは誰でも考えることではありますが、そこを真っ正面から取り上げ、彼らを強大な悪の集団として描いたのが本作であります。

 実は、すぐ上で述べたように梁山泊を悪役とする発想は非常に珍しいというわけではなく、本場中国では、反・水滸伝小説も色々とあるのですが、しかし日本で、しかも漫画でそれをやったのは、やはりコロンブスの卵的着眼点の良さと言うべきでしょう。

 さて、この第一巻で飛虎と対決するのは、周通と李忠、薛永に穆弘という面々。
 プロローグ的位置づけの第一話でいかにもな悪党ぶりを発揮して倒される周通と李忠、穆弘の露払い的に登場して地味に強かった薛永、本作最初の強敵として「遮る者無し」ぶりを見せつける穆弘(そして兄の陰に隠れて結局戦わない穆春)。
 …その出番を簡単に挙げればこんな感じですが、そのいずれも、ファンなら「ああ、なるほど!」と頷けるものばかりなのが何とも心憎いのです。

 水滸伝ファン的には、あの豪傑たちが悪役…というのは、さすがに複雑なものがあります。
 しかし、そのアレンジぶりが、原典の描写を作者なりに咀嚼した上で一歩踏み出して見せた、「わかっている」ものだけに、これはこれで…と、ちょっと、いやかなり楽しくなってしまったのは事実です。
(裏で糸を引いているらしい呉先生が腹黒なのは、ファン的にはむしろ常識なので意外性はないといえばないですが)

 特に、原典では大物のはずなのに今一つキャラクター的に恵まれていなかった穆弘をあそこまで格好良く描いてみせるとは、作者はかなりの水滸伝ファンなのでは、と感じた次第。


 さて、思わず敵方のことばかり書いてしまいましたが、これだけの相手を向こうに回すと、主人公たる飛虎は――実力ではなく魅力において――まだまだ分が悪い。
 果たして飛虎が彼らに負けない魅力的な豪傑となれるか…その意味でも、百八の星に挑む彼のこれからが楽しみです。

「月の蛇 水滸伝異聞」第1巻(中道裕大 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon
月の蛇 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)


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2009.11.17

「やわら侍・竜巻誠十郎 秋疾風の悲槍」 コロンブスの卵はあったけれども

 不景気のあおりで武士・町人ともに不満が高まる江戸。そんな中、当代一の蒔絵師と、悪名高い検校がそれぞれ殺害される。目安箱改め方として事件の探索に当たる竜巻誠十郎は、事件の背後に、謎の武士たちの不穏な動きを察知する。二つの殺人事件と武士たちの動きの繋がりは果たして。

 一度は却下された目安箱への訴えの真偽を探る影の役「目安箱改め方」として活躍する主人公の活躍を描く「やわら侍・竜巻誠十郎」シリーズの第三弾は「秋疾風の悲愴」。
 「五月雨」「夏至闇」ときて、秋風吹く江戸を舞台に誠十郎が挑むのは、不景気に苦しむ江戸で起こった二つの殺人事件であります。

 まず一つ、目安箱改め方として依頼されたのは、高利貸しで周囲から恨みを買っていた検校とその用心棒が、夜道で姿なき相手に殺害された事件。そしてもう一つ、彼が奇妙な因縁から巻き込まれたのは、高名な蒔絵師が殺され、その犯人として浪人の妻が捕らえられた事件。

 一見全く関係ないように見えた二つの事件は、しかし思わぬところで結びつき、しかもそれは、誠十郎自身の運命にも関わっていくことに…というのが今回の趣向です。

 ミステリ作家としての側面が強い作者だけに、事件のトリック崩しが魅力の本シリーズですが、今回はその辺りはちょっと弱め。
 検校殺しのトリックは、ある意味描写の勝利ともいえる内容ながら、「言われてみればそうか!」という一種のコロンブスの卵で楽しめましたが――そしてそれがラストの対決に繋がっていくのがうまい――蒔絵師殺しの方はちょっと残念な内容でした。

 しかしそれ以上に残念だったのは、前作で強く印象に残った、やむにやまれず犯罪に手を染めた人に対する誠十郎の鮮やかな裁きが、今回は見られなかったことで――もちろん、これは今回はそういう趣向だったと言えばそれまでですが、他の作品と一線を画し得る部分だけに、個人的には残念です。
(さらに言えば、時事ネタの色彩が強すぎるのも個人的には感情移入できませんでした)


 何だかネガティブな感想ばかりになってしまい恐縮ですが、それも本シリーズに対する期待の現れとして、ご寛恕を乞う次第。

「やわら侍・竜巻誠十郎 秋疾風の悲槍」(翔田寛 小学館文庫) Amazon
やわら侍・竜巻誠十郎 秋疾風の悲愴 (小学館文庫)


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2009.11.16

「水滸伝」 第22回「壮絶! 救出大作戦」

 晁蓋が倒れ林中が囚われたと知り、東渓村に向かう高求。梁山泊勢は変装して東渓村に潜入、占い師に化けた公孫勝を信じた曽狼の言により高求軍は進路を変え、梁山泊軍の待ち伏せで大打撃を受ける。さらに歌い女に化けた扈三娘の色香に迷った曽魁と曽密が争う隙に、宋江たちが林中を救い出す。怒りに燃えて敵の本拠に乗り込んだ林中らは、曽狼と息子たちと対決、大乱戦の果てにこれを全滅させる。曽家倒した梁山泊軍を前にに、遅れて到着した高求は軍を引くのだった。

 さて、曽家との対決編も後編。ひたすら追い詰められ、被害を出す一方でフラストレーションが溜まった前回ですが、今回は一転、梁山泊側の大反撃です。

 しかし東渓村は占領され、そして何よりも林中は敵に捕らわれたまま。真っ正面から戦うわけにはいかない梁山泊の打った手は、それぞれが変装して東渓村に潜入しての攪乱作戦であります。
 原典でも、城市攻めの際などに、豪傑たちが変装して内部に潜入し、様々な攪乱を行った上で外の軍勢と呼応し、敵を殲滅するというパターンがしばしば見られましたが、今回はまさにそれ。ある意味一番梁山泊らしいパターンでの大逆転劇は実に愉しく、前回の溜飲も下がりました。

 さて、その潜入作戦ですが、それぞれの扮装と役割は以下の通り。
・宋江…人夫となって林中の牢作りに加わる(本作の宋江、えらくがっちりして見えるのでこういう役ピッタリ)
・公孫勝&阮小七…占い師とお供に扮して(この辺り、原典で盧俊義を仲間入りさせる時の呉学人を想起)曽狼に接近、高求軍の進路を変えさせるとともに、林中の牢を屋敷内から外に出させる
・扈三娘&阮小五…歌い女とお共に扮して曽魁・曽密に接近、色仕掛けで二人の間を裂き、林中の見張りを手薄にさせる
 さらに阮小二は宋江に扮して(ってヒゲ付けただけ!)、鉄牛とともに別働隊として山道に罠を仕掛け、高求軍を撃退するという役割(この時、鉄牛が「ヒゲつけたからっていいかっこするな」とか「俺がやりたいのはこういう戦いじゃねえ」と始終ブツクサ言って、阮小二と喧嘩ばかりしている辺りがまた最高)。

 そんな中でも今回のMVPは、曽魁と曽密(扈三娘の前では口調が紳士になるのが愉快)を見事手玉に取った扈三娘でしょう。謎の中国人チックにしゃべりまくる阮小五の名アシストもあり、林中救出の隙を作った上に、曽狼らが籠もった庄屋屋敷の門を開放するなど、硬軟両方の大活躍でした。

 そしてラストの庄屋屋敷を舞台にしての大乱戦では、それぞれ林中vs曽索、宋江vs曽狼、公孫勝・鉄牛vs曽魁、扈三娘vs曽密、阮三兄弟vs曽塗という総力戦。
 曽家に家族の絆――まあ、あんまりなかったような気もしますが――あれば、梁山泊には義の下に集った仲間たちの絆がある! というわけで、全員で掴んだ大勝利、実に気分の良い結末でした。


 しかし前回、林中・鉄牛とともに東渓村攻めに参加していた花英は今回何故か登場せず…どこ行った?

「水滸伝」DVD-BOX(VAP DVDソフト) Amazon
水滸伝 DVD-BOX


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2009.11.15

「若さま同心徳川竜之助 弥勒の手」 若さま、最大の窮地!?

 前の巻からわずか二ヶ月で、「若さま同心徳川竜之助」シリーズの最新巻「弥勒の手」が刊行されました。
 今回も全四話構成のミステリタッチの短編連作に加え、ラストで強敵との対決があるという構成ですが、ラストには、今後のシリーズの行方を左右しかねない衝撃的な展開が待ち受けています。

 上記の通り、構成的にはこれまで通りの本書、ちょっと意地悪い言い方をすれば、やはり前の巻から間がなかったためか、ミステリ的にみれば掘り下げは今ひとつ…という印象。
 不可解な出来事の背後に隠れた犯罪を、竜之助が暴き出すというスタイル自体は全く変わらないのですが、事件のトリックがちょっと大仕掛けで強引な印象が、個人的にはあります。

 しかしそれで面白くないかと言えば全くそんなことはないのが今の風野作品の恐ろしいところで、「普通」から半歩踏み出したようなユニークな登場人物たちを、これまたユニークでどこか含蓄のある文章で描き出してみせる風野節の巧みさで、最後まで一気に読むことができました。

 特に本書のタイトルエピソードである「弥勒の手」に登場する仏師――人の手から出るオーラめいたものを見ることができる男――の生き様と「正体」を描いた件の味わいには、思わず感心させられた次第です。


 さて、本書のいわば剣豪ものパートには、初の実在剣豪としてあの中村“人斬り”半次郎が登場。幕府の威信を体現する葵新陰流を打ち破るため、竜之助を狙って江戸に現れます(ちなみに半次郎のキャラクター描写も、また独特の味わいがあって面白い)。

 が――本書のラストで竜之助と対決するのは、半次郎ではなくもう一人の強敵。シリーズを通しての宿敵と言うべきあの男との再度の対決を、竜之助は強いられるのですが…

 その対決の果てに訪れた結末は、予定調和的なこちらの予想を打ち砕くような、あまりに衝撃的なもの。シリーズ通して最大の窮地に陥ったともいえる竜之助は、この先迎えるであろう人斬り半次郎との対決にいかに臨むのか。そして、この巻でおぼろげながらに見えてきた真の敵とは…

 二桁の大台を目前にして、いよいよシリーズもクライマックスに突入したというところで、やはりなんだかんだ言っても目の離せないシリーズであることに間違いはないのです。

「若さま同心徳川竜之助 弥勒の手」(風野真知雄 双葉文庫) Amazon
弥勒の手ー若さま同心 徳川竜之助(9) (双葉文庫)


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2009.11.14

「吉原花時雨」 ありんす国に少女は生きる

 吉原に売られ、花魁東雲の禿となった吉弥。しかし年季明けを目前にしていた東雲は、所帯を持つはずの恋人と足抜けして捕らわれ、責め殺されてしまう。東雲の死に納得できない吉弥は、新しい姐女郎の客である若旦那・清太郎とともに、その真相を探ろうとするのだが。

 先日紹介した「浮世奇絵草紙」の水野武流の第二作が、本作「吉原花時雨」であります。
 「浮世奇絵草紙」が面白かったので、早速手に取ったのですが、意外にも(?)、伝奇要素はほとんど全くない、純粋な時代サスペンスと言うべき内容であり、少々驚きつつも興味深く読みました。

 物語的には、主人公・吉弥が不可解な死を遂げた花魁の最後の言葉である「飛鳥山の猫を頼む」の謎を追ううちに、花魁の死と江戸を騒がす盗賊との意外な関わりを知るというもの。
 孤立無援のヒロインが、唯一の味方であるちょっといい男(もちろんそのうち良い雰囲気に)と共に事件の謎を追ううち、今度は自分が狙われて…というのは、女性向けミステリの定番中の定番パターンではありますが、しかし、本作は舞台が吉原の中、そしてヒロインは花魁付きの禿という点で、類作と大きく異なる味わいを出すことに成功しています。

 妓楼の禿は、非常に大雑把に言えば、先輩遊女について身の回りの世話をする遊女見習い。言うまでもなく、その身の上は遊女同様の籠の鳥状態です。
 その禿である吉弥が、いかにして事件の謎を追い、そして自分の身に迫る危険を避けるのか…体を動かせる範囲が狭い分、物語の緊迫感もまた、増すというわけです。

 しかしもちろんそれは、舞台となる吉原の制度というものがきちんと描かれてこそ。その点で本作は、このレーベルの作品としては――というのは大変失礼な表現であることを承知の上で書きますが――驚くほどきちんと、「ありんす国」吉原のことを描いているのに感心させられます。
(吉弥が惹かれる清太郎が、彼女が付く姐女郎の客という、惹かれてはならない立場にあるというのも、うまい設定であります)

 もちろん、想定読者層であるティーンズの少女にとっては、吉原の遊女たちというのは、あまりに縁遠い存在であるはず。その意味では、どれほど描写をきちんとしようと、本作は共感を得られにくい主人公設定・舞台設定なのかもしれません。
 しかし、本作では吉弥を、他の女郎たちを、単なる吉原という制度の被害者として描くのではなく、自分の置かれた境遇の不自由さ、不幸さははっきりと認識しつつ、それでも自分の力の及ぶ範囲で、現実を切り開いて生きていこうとする意志の持ち主として描くことにより、読者の共感を呼ぶキャラクターとして描けていると感じるのです。
(この辺り、一歩間違えると吉原を自由の世界といたずらに賛美する気持ち悪いことになりかねないのですが、本作がそのようなことになっていないのは言うまでもありません)

 吉原という(少女小説としては)特異な舞台を有効に使った佳品として、感心させられた次第です。


 …表紙イラストは気にしない方向で。

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吉原花時雨 (講談社X文庫―ホワイトハート)


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2009.11.13

「幻想綺帖」第2巻 最良の描き手による玉藻と藻

 烏帽子折りの少年・千代松の幼なじみ・藻は、ある晩を境に人が変わったようになり、玉藻の前の名で関白忠通に仕えるようになる。やがて彼女の周囲で起こる数々の怪事。陰陽博士・安倍泰親の弟子となり、千代太郎と名を変えた千代松は、彼女が白面金毛九尾の狐に魅入られたことを知るのだが…

 幻想小説・怪奇小説の名品を波津彬子先生が漫画化する「幻想綺帖」、第一巻は短編集でしたが、この第二巻は、岡本綺堂先生の名作「玉藻の前」の漫画化です。

 インド・中国の王朝を騒がせ、我が国でも玉藻の前の名で宮中に入り込んだ末に、安倍泰成と死闘を繰り広げた金毛九尾の狐の伝説を基に、独自の解釈による伝奇絵巻として再構築したのが、綺堂の「玉藻の前」。
 関白・藤原忠通と、その弟・頼長が争った保元の乱の前史的性格を持つ原作は、しかしそれ以上に、妖しくも哀しい恋愛物語として、強く印象に残ります。

 妖孤に魂を奪われ、玉藻の前となる少女・藻と、その幼なじみであり、後に安倍泰親の弟子・千代太郎となる千枝松…幼い恋心を通わせながらも、奇怪な運命に引き裂かれて敵味方と別れる二人を描くことにより、単なる妖怪譚に留まらぬ味わいを生み出した原作を――第一巻に収められた諸作がそうであったように――本来のイメージを全く違和感なくビジュアライズした上で、原作の模写に留まらず、波津作品の独自性をもって成立させているところに、本作の価値があります。

 その独自性を生み出しているのは、原作の悲恋ものとしての要素を、ほんのわずかながら、しかし実に効果的に強めて描き出している点によるのでしょう。
 数々の男を手玉に取り、さらに日の本の政まで狂わせようとした希代の妖女・玉藻の前。彼女が千代太郎の前で見せた顔は、はたして玉藻としてのそれであったか、藻としてのものだったか――玉藻の前の中で、藻の魂は失われてしまったのか、千代太郎への想いを抱いていたのは玉藻なのか藻なのか…

 この、妖女の持つ複雑なパーソナリティーについては原作ではさほど掘り下げられていなかった印象がありますが、本作の結末では、それに、原作の味わいを崩さぬほどさりげなく、しかしはっきりと答えを出していると感じるのです。
(原作がゴーティエの吸血鬼小説「クラリモンド」の影響を受けていることは有名ですが、その「クラリモンド」にない要素をクローズアップすることにより、この漫画版は「クラリモンド」の影を払拭したとすら感じるのです)


 波津作品では、これまでも幾度となく、喩えでなしに住む世界を異にする男女の姿が描かれてきました。
 決してあからさまでなく抑制の利いた筆で、しかしそれだからこそ情熱的な想いを感じさせる描写によるその男女の姿は、本作でもはっきりと見て取ることができます。

 「玉藻の前」は、ここに最良の描き手を得たと感じた次第です。

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幻想綺帖 二 玉藻の前 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)


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2009.11.12

「変身忍者嵐」 第16話「ロボット! 飛行ダコ! 大作戦」

 火薬とからくり細工の名人・作兵衛に火薬の製法を聞くため秩父にやってきたハヤテ一行。折しも化身忍者ノミドクロが村を襲撃、作兵衛は発明品の人造人間・鉄人大王を出撃させる。ハヤテ一行も血車党撃退を助けるが、血車党は鉄人大王の威力に目を付けて作兵衛を誘拐。さらに村人を脅して鉄人大王を差し出させる血車党だが、それはタツマキとツムジが化けた張りぼてだった。ハヤテも空から大凧で駆けつけてノミドクロを嵐旋風斬りで倒し、作兵衛を救うのだった。

 血車党編もいよいよ終盤(ですが特にそんな印象はない)に入った「変身忍者嵐」第16話は、非常にユニークなゲスト(キャラ)が登場する娯楽編。
 そのゲストキャラとは、発明家の作兵衛。往々にして時代劇の発明家はプレシャス扱いされそうなオーバーテクノロジーの持ち主だったりしますが、この作兵衛が発明したのは、何と人造人間だというのだから恐ろしい。
 その人造人間・鉄人大王は、血車党の下人どころか、化身忍者ノミドクロまでいいパンチで吹っ飛ばす腕力に加えて、指先からはロケット砲という恐るべき戦闘能力の持ち主。潜望鏡から地上を窺っていた作兵衛の命令に従い、鉄人大王が出撃した場面は、何の番組を見ているのかわからなくなりました。

 一体作兵衛は何を考えてこんな剣呑な奴を作ったのか、大いに気になりますが、とにかくこの作兵衛の存在感が異常で、ノミドクロの特撮史上屈指の情けないネーミングの技「カイカイ攻め」のインパクトも霞むほどであります。。
 この作兵衛、何か特に面白い言動を見せるわけでもないのですが、そのニタニタ笑いは見ていて何だか不安になってくるほどの印象度(救出された後に、鉄人大王の張りぼての頭部を自分の頭の上に載っけてニタニタする表情などちょっとマズすぎる)。
 血車党に捕らえられても、牢の中から吸うと炎が出るキセルを下忍に勧めて驚かせたりと、全く懲りない爺さんぶりに、こちらの目は釘付けです。

 さて、作兵衛がそれだけ存在感があるのもある意味当然、演じているのは柳家金語楼、戦前から落語界・喜劇界の大スターだった人物なのですから――
 しかも面白いのは、金語楼師匠が実生活でも発明家だったということで、あの小学校の体育の時間の赤白帽を発明したのは師匠だというのですから驚きです。本作への出演も、同じく発明家だった折田至監督との縁だったとか…

 そんな師匠に対し、作中で息子から「き○がいじみた物造り」と言わせちゃうのも何というか――と思ったら、作兵衛の息子を演じているのは本当に師匠の息子の山下敬二郎なのですから、いやはや、何ともすごいお話であります。
(放映のほぼ三ヶ月後に亡くなっていることを考えるとちょっと粛然とした気持ちになるのですが…)


 と、金語楼師匠の話で終わりそうですが、今回は単純にアクションヒーロー物としても、十分以上に楽しい展開。とにかく数分おきに状況が変化して、次々とガジェットが飛び出してくるのが、単純に面白いのです。

 もっとも、クライマックスで、作兵衛発明の飛行タコ(という名のハングライダー)で空から駆けつけたハヤテが、あっさり下に飛び降りてしまったのはちょっと興ざめですが…(隠密行動のつもりだったのかもしれないですが、この飛行タコ、何故か飛行中にモーター音をさせているんですなあ)
 それでも、久々難しいこと抜きで楽しめる回でありました。


 一つ残念だったのは、冒頭に出てきた龍勢花火が物語に絡まなかったことですが…これはネコマンダラの回の飛竜星とネタかぶりになりそうだからかな。


今回の化身忍者
ノミドクロ
 蚤の能力を持つ化身忍者。ギザギザの穂が付いた槍を得物にし、口から吹き出す粉を浴びた者をかゆさでもだえ苦しませる「カイカイ攻め」を操る。常にピョンピョンジャンプして移動し、大ジャンプ時の高さは空を行く飛行タコに匹敵する。
 秩父の村人をカイカイ攻めの実験台にしていたところを作兵衛の鉄人大王に撃退されるが、その威力に目を付け、鉄人大王を血車党の戦力にしようと作兵衛を狙ったが、ツムジの大きな団扇にカイカイ攻めを跳ね返された隙に嵐旋風斬りをくらい、崖から落ちて爆発した。


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変身忍者 嵐 VOL.2 [DVD]


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2009.11.11

「浮世奇絵草紙」 虚実乱れる二つの世界に

 江戸の町で、嫁入り前の娘が次々と奇怪な死を遂げ、鬼のしわざとの噂が流れる。描いた絵が実体化する力を持つ売り出し中の浮世絵師・渓流斉英河は、一連の事件に、かつて自分の許嫁を殺したのと同じ存在を感じ取る。英河は、鬼を調伏せんとする法力僧・貴浄とともに、事件の謎を追う。

 これまでなぜこの作者のこの作品を読んでいなかったのだろう、と臍を噛むことが、恥ずかしながら私にはしばしばあります。第九回ホワイトハート大賞受賞作品である本作もそんな作品の一つです。

 本作の主人公となるのは、実在の絵師・渓斎英泉である青年絵師・渓流斉英河。生まれつき、描いた絵が実体化する――ただし、あくまでもベースは墨で紙に描いたものであり、火に触れれば燃え、水に落ちれば溶けるというルールがあるのですが――という不思議な力を持ち、あたかも絵の神に愛されたような青年であります。
 この青年が、法力はあるがちょっと頼りない青年僧を相棒に、かつて自分の最愛の人を殺し、今また幸せを目前とした女性の命を無惨に奪っていく鬼に挑む、というのが本作の趣向です。

 本作の舞台となるのは、浮世絵師の世界と吉原の花魁の世界という、二つの世界。この両者は、どちらも時代小説ではお馴染みの世界ではありますが、少女小説である本作の想定読者層には縁遠いと思われる世界であります。
 それを、その読者層とほぼ同年代のキャラクターの等身大の視線を通じて描くことにより、単なる知識や考証の羅列でない血の通ったものとして描くとともに、そこの住人が、現代と地続きの――決して同一ではないものの――メンタリティを持って生きていることを示すことに、本作は成功していると、私は感じますし、そこに魅力を感じます。


 もっとも、この、地に足の着いた部分が丁寧に描かれている一方で、(特に終盤の)伝奇アクション的部分にいささか粗を感じないでもないのも事実。

 実を虚に、あるいは虚を実にする浮世絵と、無数の虚の中に、ごくわずかの実が生まれる吉原。そんな虚実入り乱れる二つの世界のいわば落とし子とも言える存在に、虚を実に変える力を持つ主人公が立ち向かうというのは、よくできた構図と感じるだけに、勿体ない、という印象はあります。
(このように考えると、もう一人の主人公であるはずの貴浄の立ち位置がかなりぼやけていることにも今更ながらに気付きますが…)


 もちろん、それが本作にとって致命的な瑕疵というわけでは、もちろんありません。これが作者の商業デビュー作であることを考えれば、相当の完成度であることは間違いありませんし、ティーンズ向けの枠を守りながら、きちんと読める時代ものを成立させていることが、何よりも嬉しいのです。

 作者の水野武流氏は、本作の他、もう一作のみを発表しているのみですが、その後は片岡麻紗子の名前で、吉原を舞台とした時代小説等で活躍されているというのも、なるほど、と納得できるところです。

「浮世奇絵草紙」(水野武流 講談社X文庫ホワイトハート) Amazon
浮世奇絵草紙 (講談社X文庫―ホワイトハート)

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2009.11.10

「新作水滸伝 宋江と梁山泊の英傑たち 水滸之誓」 水滸伝、故郷に帰る

 現在日本各地で公演を行っている、中国国家京劇院の「新作水滸伝 宋江と梁山泊の英傑たち」を観てきました。
 京劇と水滸伝は決して珍しい取り合わせではありませんが、日本では観る機会が非常に少ないもの。しかも「新作」とある通り、新たに製作された演目とのことで、これは観ないわけにはいくまい、と出かけた次第です。

 今回の演目のベースとなっているのは、原典の第61回から第67回にかけての、北京大名府を舞台とした件。
 番頭の裏切りで謀反の濡れ衣を着せられて捕らえられた大名府の豪商・廬俊義。主人の危難を救うため、廬俊義の使用人・燕青は梁山泊を頼るのですが、大名府ではかの名将関羽の子孫・関勝が出陣してきて…
 と、百八人集結直前のエピソードを描いたこの舞台ですが、上に挙げた通り、盧俊義と燕青、関勝の他、宋江・林冲・扈三娘・王英・時遷といった原典でもお馴染みの好漢が登場、実に賑やかな舞台でした。

 それにしても驚かされたのは、京劇と水滸伝のあまりの親和性の高さ。最初は京劇独特の衣装や隈取りに目が行きましたが、話が進むうちに全く違和感はなくなり、大げさに言えば、これまで親しんできた水滸伝のキャラクターたちがそのまま抜け出してきたような感覚で観ることができました。
 特に終盤の立ち回りは、想像以上に激しい動きだったこともあってか、原作の豪傑同士の激突の描写を映像化すればこのようなものではないかと――これはちょっと思い入れ過剰かもしれませんが――感じました。

 しかし考えてみれば、水滸伝の原型の一つは、京劇成立以前から演じられてきた大衆演劇。その意味では舞台というのは水滸伝にとっての故郷でもあるわけで、これは似合っても何も不思議ではありません。
 それに、元々の身分も職業も異なる面々が集まっている梁山泊は、コスチュームやアクションの多様性という観点からしても、実に舞台向けであると今更ながらに感じた次第です。

 もっとも、現代劇の視点で観ると、キャラクター描写が甘い部分があるのは事実。特に梁山泊を毛嫌いしていた関勝や廬俊義が、宋江の言葉一つでコロッと参って仲間入りしてしまうのはさすがにどうかと思うのですが(これら場面の葛藤の演技は実にオーバーで面白いのですが)、これは原作からしてこうだから、まあ良しとするべきでしょう。
 それよりも、今回梁山泊入りするのが、革命勢力とは対極にある大富豪の廬俊義という点に、やはりある種の意図を感じてしまうわけですが…


 閑話休題、マニア視点からのあれこれはさておき、この舞台の何たるかを語るには、私の周囲の観客の様子を記せば足りるでしょう。

 地方の会場であったためか、客層はおそらく京劇も水滸伝も初めてと思われる、年配の方が大部分を占めていたのですが、その方々が終盤では舞台上の一挙手一投足に拍手を送り、カーテンコールでは俳優たちに手を振って歓呼の声を挙げていたのですから――
 舞台という故郷に帰ってきた水滸伝にとって、これは何よりの反応でありますまいか?


 と、あんまり綺麗にまとめるのも何なので、ここで恥ずかしながら白状すれば、実は私は京劇を観るのは今回が初めて。
 せめて、京劇の隈取りの持つ意味――日本の古典芸能で言えば能の面や文楽の頭が持つ、この役柄にはこれ、というもの――だけでも、事前に勉強しておけば、より一層楽しめたのに…と、少々後悔いたしました。
 何しろ、舞台上には多い時で20名ほどの梁山泊の好漢が登場するのですが、役名がわかっているのはそのほんの一部。あとは隈取りと衣装で察するしかないのですから…水滸伝ファンとしてはその辺り、何とも歯がゆかった次第です。


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2009.11.09

「三ツ目の夢二」第1巻 以前と以後、美と醜

 モデルでもあった恋人・彦乃の死から立ち直れず、絵を描けなくなった竹久夢二。心霊写真に没頭するようになった夢二は、浅草の写真館で魂を抜かれた少女と出会う。彼女に導かれた夢二は、夢とも現ともつかぬに彦乃と再会するが、彦乃の真の姿は…

 相変わらず精力的に作品を発表している大塚英志の最新作の題材は、大正ロマンの代表的存在である画家にして詩人、デザイナーの竹久夢二。
 大塚作品では、かつて「北神伝綺」に晩年の夢二が登場しましたが、本作で描かれる夢二は、それよりも十年ほど前の姿で登場します。

 常識人から半歩踏み出したような主人公が、奇怪な人物に誘われて現実と異界の狭間の事件に巻き込まれるというのは、大塚伝奇作品のパターン。
 本作もその範疇に含まれるのですが、主人公が主人公であるためか、その事件が女性にまつわるものというのが面白いところです。

 そしてその内容はと言えば、心霊写真と関東大震災と黄泉戸喫、エクトプラズムとメトロポリスと地底都市と、今回もかなり力業の三題噺。
 しかし、そこにどこかファンタジックで現実離れした味わいが漂うのは、夢二の浮き世離れしたキャラクターによるものと同時に、作画を担当するひらりん氏の絵柄によるところも大でしょう。
 氏の作品は「サイチョコ」しか読んだことはありませんでしたが、このような描き方もできるのか、と少々感心した次第。


 さて、序章とも言うべきこの第一巻の前半のエピソードで、夢二は、美しい外見に隠された醜いものを見る力を持つ第三の目を与えられます。
 大正ロマン華やかなりし時代の陰に隠された醜さ――それは、表の歴史からでは見えぬ、大正という時代の陰を描き出すのではないかと感じます。
 そしてそれは同時に、明治と昭和の間、日本の近代と現代の間にあった大正を通じて、現在の日本のルーツを浮かび上がらせることにもなるのでは…とも。

 関東大震災により、東京は「それ以前」と姿を著しく変えたのは言うまでもないお話ですが、そう考えると本作の物語が、まさにその大震災から始まる――そして作者の言によれば大震災が起きなかった世界を描く――というのは、実に象徴的です。

 以前と以後、美と醜。夢二に、第三の目は、何を見せるのか…さて。

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2009.11.08

「水滸伝」 第21回「巨星、荒野に墜つ」

 北方の豪族・曽狼は、五人の息子「曽家五虎」と共に略奪を繰り返しながら南下していた。彼らが晁蓋の故郷・東渓村を襲ったことを知った林中・花栄・鉄牛は先行して村に潜入し、村人と協力して曽家の軍を撃退する。しかし鉄牛が罠にはまり、女子供を捕らえられたため、林中は引き替えに人質となる。知らせを受けて急行した晁蓋だが、偽りの和議に騙され、曽索の矢に倒れる。梁山泊軍は断腸の思いで、林中を残し、晁蓋の遺骸と共に一旦退却するのだった。

 いよいよ風雲急を告げる「水滸伝」第21回の今回は、原典後半のクライマックス、曽家五虎との戦いの前編。そして、梁山泊を頭領として率いてきた晁蓋の退場編でもあります。

 原典では自分たちが支配する曽頭市で梁山泊を迎え撃った曽家ですが、本作では本拠を飛び出して南下、こともあろうに晁蓋の故郷である東渓村を占拠して、梁山泊に戦いを挑みます。
(ちなみに原典で戦いのきっかけとなったのは、百八星の一人・金毛犬段景住が、曽頭市に名馬・照夜玉獅子を奪われたのがきっかけですが、本作でもその件は登場。ただし、段景住の役は鉄牛が代わっていましたが…)

 それにしてもこの曽家の主・曽狼と曽家五虎は、これまで本作に登場した中でも屈指の悪役ぶり。
 悪党ながらも独自の思想を持ち、悪の大ボスとしての貫禄十分の曽狼以下、五人の息子たちは陰険・粗暴・好色etc.と、それぞれタイプの異なる悪役揃いであります。

 今回はその悪役連中が大暴れのし放題…なのですが、同じ大暴れでも梁山泊の連中と決定的に異なるのは、その行動がどうにも陰惨であることで、見ているこちらにはフラストレーションがたまるたまる。

 妻が手込めにされ、夫は惨殺されるというようなシチュエーションを二度も見せられた上に(しかも二度目は…)、林中は捕らわれの人々を救うため人質になる始末。
 そして手も足も出ない状態の林中の目の前で晁蓋までもが…

 いや、本当に第一回から通して、今回ほど後味の悪い回はありませんでした。
 せいぜい晁蓋が死ぬくらい…と思っていた私が馬鹿でした。というか今回の晁蓋、「脇役にスポットライトが急に当たると危ない」の原則通りの有様でしたが…

 さて、次回梁山泊はいかにして逆襲に転じるのか、そして今回は共倒れを狙って静観を決め込んだ高求の動きやいかに?
 今回のフラストレーションを吹き飛ばす逆転劇に期待します。


 ちなみに今回のゲストキャラは、東渓村の酒場のおかみとして登場の顧のおばさん(顧大嫂)と、その息子(!)の解珍。
 顧のおばさんの方は、原典と登場場所こそ違え同じく肝っ玉おばさんでしたが、解珍の方は一人っ子になった上にごく普通の青年といった印象でした。

 それはいいのですが、許嫁の美少女・青華が曽索に操を奪われそうになったところに割って入ったところをあっさり惨殺され、青華は後追い自殺。さらに二人の生首を曽家によって晒し者にされるという有様で…スタッフは解珍にひどいことしたよね(´・ω・`)

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2009.11.07

「大江戸ロケット」(漫画版)第3巻 もう一つの大江戸ロケット、ここに完結

 第二巻発売からもだいぶ間が空いたように感じますが、ついにと言うべきかようやくと言うべきか、漫画版の「大江戸ロケット」最終巻である第三巻が発売されました。
 孤立無援の清吉とソラは果たしてロケットを造り月に行くことができるのか、そして江戸に現れた謎の女・ヨミの真意は…

 と、原作舞台及びアニメの展開を敷衍しつつも、本作独自の要素を入れて盛り上がっていった本作ですが、しかし、結論から言ってしまえば本作は中途での打ち切り。そのためもあってか、第三巻の、特に後半に入ってからの展開は、これまでのペースに比べてかなり駆け足という印象があります。
 また、特に幕府回りの動きなども、これまで意味ありげに描かれていた部分がほとんど省かれてしまった感があり――特に水野忠邦の動きが漫画版独自のものであったこともあり――この辺りも実に勿体ない、と言わざるを得ません。

 しかし、それであっても個人的にはあまり違和感や物足りなさを感じないで済んだのは、清吉の成長物語として、本作が一つの答えを提示できているからではないか、と感じます。
 他のメディアの「大江戸ロケット」以上に、孤軍奮闘を強いられた本作の清吉。生まれ故郷からは背を向けられ、江戸の仲間たちは貧苦にあえぎ…と、逆境に立たされた清吉が、そんな中でも、いやそんな中だからこそ清吉が見て、感じたものを糧にロケット造りのために立ち上がる様が、この第三巻でのクライマックスであると言ってよいでしょう(それまで周囲に自分が玉屋であることを隠していたことが、ここで活きる!)。

 さらに、ヨミの狙いとご隠居の正体が結びつけられるという漫画版独自の展開が、清吉の絶望と復活に繋がるという漫画版オリジナルの終盤の展開も、ロケットの開発・打上げに託して描かれてきた清吉の成長を、より鮮明に印象づけてくれます。
 そしてそこからの展開が、ロケットをこう使うか! という実に意外であると同時にどこか納得できる、そしてシチュエーション的に実に盛り上がるものであったこともあり、最後まで面白く読むことができました。


 確かに長編漫画として読んだ場合、色々といびつな部分はあったかもしれませんが(その意味では本作を構成する要素の取捨選択がうまくいっていなかったかな…とは感じます。ロケット開発の科学的・技術的裏付けなど)、それでももう一つの「大江戸ロケット」として、本作は描くべきものは描いていたのではないかと感じる次第です。

「大江戸ロケット」(漫画版)第3巻(浜名海&中島かずきほか 講談社アフタヌーンKC) Amazon
大江戸ロケット 3 (アフタヌーンKC)


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2009.11.06

「ぬばたま一休」 100冊の成果、室町伝奇の精華

 作者のライフワークとしてすっかり定着した感のある朝松健先生の室町伝奇もの。「異形コレクション」に掲載された一連の短編のうち、一休宗純を主人公とした「ぬばたま一休」シリーズの最新刊が、そのものずばり「ぬばたま一休」のタイトルで刊行されました。

 収録作品は、全部で六編。
 若い男を惑わす謎の妖怪「ギ」に挑む「木曾の褥」、一つ目の赤子ばかり生まれる家の謎を解き明かす「ひとつ目さうし」、見えない妖に憑かれた姫君の悲劇「赤い歯型」、霧の中から迫る吸血鬼との対決編「緋衣」、少年時代の一休が迷い込んだ悪夢の迷宮「邪曲回廊」、そして書き下ろしの「一休髑髏」…

 これらのうち、「異形コレクション」に発表された五編については、これまでにこのブログで取り上げているのでそちらをご覧いただくとして、こちらでは書き下ろしの「一休髑髏」の感想を。


 一休と髑髏といえば、正月早々、杖の先に髑髏をつけて「ご用心、ご用心」と練り歩いた挿話が有名ですが、本作はまさにそれを朝松伝奇流に解釈したユニークな作品です。

 新年早々世を騒がす不逞の輩として捕らわれた一休を巡って語られるのは、その奇行を目撃した者や、シリーズでもお馴染みの人物、さらには凶悪な盗賊など、様々な人々による証言。
 その証言により物語の欠けていた部分が埋められていき、ようやく登場した一休自身の証言で浮かび上がる真相は、意外な――しかし朝松室町伝奇、いや朝松作品ではお馴染みの世界に繋がるもので、ニヤリとさせられます。

 そこから一気呵成に物語世界が収束し、全ては一幕の舞台の上のことであったような、何とも不思議な心持ちにさせられる結末は、集中随一印象に残るものであります。


 と、本書に収録されたこれら六編を読むと、そのバラエティに富んだ内容に、改めて驚かされます。
 一口に室町と言っても、実際には長きに渡る時間の流れと、様々に入り組んだ政治・社会・文化の要素から成る時代ですが、本書はその複雑な諸相を、一休という個性豊かなキャラクターを水先案内人に描き出したもの。
 本書に収録された作品がバラエティに富み、そしてそのいずれもが魅力的なのは、ある意味当然なのかもしれません。


 そして最後に大事なことを。
 実は本書は、朝松先生の記念すべき100冊目の著作とのこと。
 朝松作品世界最大のヒーローである一休宗純を通して描かれる室町伝奇の精華である本書は、その100冊目にまさにふさわしい一冊であると感じます。

 本書を読めば、この先101冊目以降も、「ぬばたま一休」、朝松室町伝奇、そしてそれらに留まらない朝松伝奇世界の発展を期待したくなるというものです。

「ぬばたま一休」(朝松健 朝日文庫) Amazon
ぬばたま一休 (朝日文庫 じ 10-1)


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2009.11.05

「狂乱廿四孝」 変わりゆく江戸と歌舞伎の先に

 明治三年、両足を切断した名女形・沢村田之助の復帰舞台「本朝廿四孝」が江戸中を沸かせる中、彼の主治医が惨殺され、さらに尾上菊五郎も何者かに襲撃される。河竹新七の弟子・お峯は、一連の事件の謎を追ううち、河鍋狂斎の幽霊画に込められた、歌舞伎界を揺るがす秘密に近づいていく。

 江戸時代末から明治初期にかけて活躍し、脱疽により次々と四肢を失いつつも舞台に立ち続けた悲劇の名優・三代目沢村田之助のことを初めて知ったのは、山田風太郎の某作品においてでした。
 一本、また一本と足を手を失い、日常生活を送るにも支障が出るであろう状況にあって、それでもなお舞台に立ち続けた田之助の執念とでも言うべき想いの前には粛然とさせられますが、その田之助を中心に据え、見事なミステリにして時代小説として成立させたのが、本作です。

 両足を切断した田之助が「本朝廿四孝」で奇跡の復活を遂げた陰で、猿若町を騒がせる事件の数々。舞台関係者が次々と殺され、三座に火がかけられるという異常事態の背後にあるのは、果たして江戸歌舞伎と上方歌舞伎の抗争か、それとも…
 と、そんな複雑怪奇な事件を彩るのは、数々の実在の演劇人、文化人であります。
 田之助をはじめとして、五代目菊五郎、七代目河原崎権之助(後の九代目団十郎)といった名優のみならず、河竹新七(後の黙阿弥)、さらには仮名垣魯文に河鍋狂斎(後の暁斎)まで――

 特に狂斎は、本人は作中のほとんどの部分で投獄されているものの、彼が菊五郎に与えた奇怪な幽霊画(本書の表紙に使用されている実在の作品)に、一連の事件の真犯人の姿が…? と、物語に大きな位置を占めています。

 そんな中にあって、探偵役を務めるのは、しかし、若干十六歳の少女にして新七の弟子・お峯。
 優れた観察眼と柔軟な発送の持ち主という設定とはいえ、彼女が多士済々の中で事件を解き明かす役を与えられているところに、実は本作の狙いがあると感じます。


 本作で描かれるのは、複雑怪奇な連続殺人事件の謎ばかりではありません。
 その事件を通じ浮かび上がるのは、江戸から明治を経て、新しい時代を迎える江戸の歌舞伎界の姿…いや、それだけでなく、東京と名を変えた江戸そのものの姿であります。

 明治維新、文明開化の名の下に、急激に、望まぬ変化を強いられた江戸。その変化の波は、庶民の娯楽である歌舞伎も無縁ではありません。
 そしてその姿を象徴するのが、病で四肢を失いつつある田之助であることは、作中でも触れられている通りであります。

 しかし、変化の生むものは、ネガティブなものばかりではありません。変わりゆく未来がもたらす希望の象徴――それこそは、江戸時代には考えられなかった女性浄瑠璃作家を目指すお峯であり、そこに彼女が探偵役であるわけ、探偵でなければならないわけがあります。

 ちなみに本書には、本作の原型となった短編「狂斎幽霊画考」が併録されていますが、そちらではお峯は単なる脇役の一人。
 このお峯の役割の変化が、短編から長編になるに当たっての作品の性格の変化――単に過去を舞台としたミステリから、ミステリを通じてその時代を浮き彫りにする時代ものへ――を象徴していると、私は感じるのです。
(そして、短編版が併録されているのはそれを暗示するため…というのは本編にかぶれすぎでしょうか)

 視点が変わりすぎて物語に落ち着かない印象を与えている部分など、若書きの部分は確かにありますが、しかし、そんな部分を考えてもなお、冒頭で見事なミステリにして時代小説と述べた所以であります。

「狂乱廿四孝」(北森鴻 角川文庫) Amazon
狂乱廿四孝 (角川文庫)

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2009.11.04

「カミヨミ」第11巻 大逆転のトリックに期待

 最大最悪の敵も出現し、いよいよ佳境の「カミヨミ」第11巻は「将門の首」編の続き。ついに将門公が復活し、事態は風雲急を告げる中、二つの神剣にまつわる過去の悲劇が、いよいよ浮き彫りとなります。

 首塚をはじめとして、平将門公ゆかりの地で次々と起きる殺人事件。首塚で起きた財務官僚の殺害事件は、零武隊の捜査であっさり解決…と思いきや、それで終わらないのが本作であることは、読者の方はよくご存じの通り。
 一つの事件が解決したかに見えた時、その背後に蠢いていた者が姿を現し、ついに将門公(これがまた実に格好良いのです)が復活し、駆けつけた天馬は、あろうことかその刃の前に…

 ここからは一気に急展開、将門公の強大な力の前に、帝都東京は周囲と切り離されて封鎖状態に。しかも、頼みの綱の天馬の体にも恐るべき変化が発生して…とまさに物語始まって以来の危機であります。
 この窮地に零武隊の反撃はあるのか。そして明治大帝が手にした宝の正体とは!? さらに将門公とカミヨミの因縁とは何か、江戸幕府が仕掛けた罠とはなにか。天馬の、帝都の運命は――と、展開のスケールに比例して、物語も大いに盛り上がります。

 そして天馬が見るのは、呪われし二本の神剣を巡る太古の悲劇。本作を貫いてきた神剣にまつわる物語が描かれることで、いよいよ物語は核心に入ったということなのでしょう。


 このように、この巻ではほとんど最初から最後までクライマックス状態で、大仕掛けな伝奇ファンとしては実に嬉しいのですが、しかし、裏を返せば盛り上げに終始して、ちょっと大味になってしまったなあ、という印象はあります。
 また、本作の特長・魅力の一つである、ミステリ的要素が、今回のエピソードでは薄かったのも非常に残念なところです(連続殺人のトリックは、正直前の巻の時点で予想がつくものでした)

 もちろん、物語のスケールが大きくなればなるほど、ミステリ的なトリックを仕掛けるというのは難しくなるのだとは思いますが…いや、思わぬジレンマではあります。

 もちろん、トリックとは何も、物語の一要素として直接的に仕掛けられるものに限りません。事態が進行するにつれ、一つの物語が全く異なる側面を示し、秘められた真実が浮かび上がるという、いわば物語そのものに仕掛けられたトリックもまた、本作の名物と言うべきもの。

 主人公側を一気に地の底に叩き込むような展開が続く中、ここからいかに物語をひっくり返してくれるのか――その大逆転のトリックに期待いたします。

「カミヨミ」第11巻(柴田亜美 スクウェア・エニックスガンガンファンタジーコミックススーパー Amazon
カミヨミ 11 (Gファンタジーコミックススーパー)


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2009.11.03

「変身忍者嵐」 第14話「血ぐるま怪人集団! 総攻撃!!」

 ドクロ館建設の労働力とするため、箱根に偽の関所を作って人々を攫う化身忍者人食いガラス。父を攫われた少女と出会ったハヤテらは、血車党から逃げ出してきた男を道案内に人々を救出に向かうが、行く手に復活した化身忍者十人衆が現れる。男に化けていた人食いガラスと共に襲いかかる化身忍者たちを嵐は一蹴。空に逃れた人食いガラスは、救出された人々によって乗っていた気球を地面に引きずり下ろされ、嵐の旋風斬りの前に倒されるのだった。

 「変身忍者嵐」第14話は、昔の東映特撮ヒーロー番組の一クール終了後の定番、再生怪人軍団登場の巻。新化身忍者・人食いガラスの指揮の下、前回までに登場した十三人の化身忍者のうち、十人が復活して登場します。(カマイタチ、ドクモリバチ、ゲジゲジ魔は何故か欠席。予告では十三人と言っていたような気もしますが)
 死人ふくろうはともかく、毒蛾くノ一は復活しないで欲しかった気もしますが、まあ一種のゾンビで意識はないものと思うことにしましょう。

 このように一挙に十一人もの化身忍者が登場する大サービス篇ですが、相変わらず人手不足の血車党、労働力確保に人さらい→逃げられてハヤテにバレるのコンボを今回も食らうことになります。
 とはいえ、今回の作戦は、箱根に偽の関所を作って人を誘導し、踏み込んだ者を捕まえてしまうという作戦はあまりに豪快でかえって愉快。敵の目をくちばしで突いてくり抜いてしまうという人食いガラスの攻撃も、プリミティブかつストレートでインパクトがあると言えなくもありません。
(…が、一番インパクトがあるのは、くり抜かれた目をはめ込んで元に戻してしまうタツマキですが。さすが牧冬吉、地味にすごい)

 もっとも「再生怪人は弱い」のセオリー通り、化身忍者十人衆の扱いはあまりに哀れであります。
 生前の(?)技を使えた毒うつぼとカマキリガランは本当に恵まれた部類。待ち伏せを見抜かれていきなり斬られたマシラ(あんた不死身だろ…)や得意の水中からの不意打ちも空しく敗れたオバケクラゲはまだマシな方で、よりにもよってツムジに騙された挙げ句、落とし穴に落とされて死亡扱いのオニビマムシとネコマンダラは悲惨の一言です(しかもツムジの焼いてる魚の匂いにフラフラ隠れ場所から出ていきそうになるというネコマンダラはマジダメ忍者)。

 しかしさらに悲惨なのは、いつの間にか殺された挙げ句にハヤテの変わり身に利用されたトゲナマズや、立ったままいつの間にか死んでいた(ほとんどホラー)吸血ムカデ、カマキリガラン、死人ふくろう。そして残る毒うつぼと毒蛾くノ一は、いきなり現れた嵐の
「一人残らず倒した!」
ってセリフで片づけられるという超展開で、ここまでくると逆にちょっと感心してしまいました。

 そして残る人食いガラスとの一対一の決闘では、人食いガラスの「め○らにしてやる!」と危険な台詞をものともせず、何となく新必殺技「嵐旋風斬り」を繰り出して嵐の完全勝利。
 手前に人食いガラスの生首、画面奥で刀を収める嵐…というのは、この番組にしては珍しく良い(ようにも見える)カットでありました。
 その直後、突然人食いガラスの生首に合掌した嵐は、さすがに消耗品同様の化身忍者たちに哀れを催したのか…


 と、今回も好き放題書きましたが、やはりズラッと化身忍者が並ぶシーンは、男の子なら誰でもワクワクするシーン。イベント回としてみれば、十分に楽しい回でありました。

 …にしても、誘い込まれた洞窟の中から外に出た途端、「まぶしい!」とか言ってるハヤテさんは忍者としてどうなんでしょうか。


<今回の化身忍者>
人食いガラス
 鴉の能力を持つ化身忍者。クチバシで相手の目を抉る「忍法にわかめくら」ほか、気球に乗って上空からカラス爆弾を投下する。
 新しいドクロ館建設のための労働力として、箱根に偽の関所を作って人々を攫い、さらにそこから逃れた男に化けて嵐を鴉岳の洞窟に誘い込み、化身忍者十人衆と共に襲いかかった。十人衆をことごとく倒され、自らも嵐の新必殺技「嵐旋風斬り」に首を落とされた。


「変身忍者嵐」第2巻(東映ビデオ DVDソフト) Amazon
変身忍者 嵐 VOL.2 [DVD]


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2009.11.02

「蘆江怪談集」 男女の情念が生む怪談

 「鏡花百物語集」で、大正の怪談会…いや怪談界で大きな存在感を示していたことを知り、気になっていた平山蘆江の怪談集が、このたび復刊――それも文庫本で!――されました。
 早速飛びついて貪るように読了いたしましたが、なるほど、想像以上に豊かな内容で、幻の怪談の数々を堪能させていただきました。

 本書に収録されているのは、蘆江による虚実織り交ぜた怪談小説十二編に、随筆「怪異雑記」。
 昭和初期の初版以来、八十年近く再刊されず、収録作のうち何編かがアンソロジー等で収録された程度で、長らく幻の怪談集となっていたもので、私ももちろんほとんど全て初読の作品でした。

 さて、本書を通読して印象に残ったのは、収録作ほとんど全てに――その形はもちろん様々にせよ――男女の間の情念が深く絡み、それを蘆江が、時にしっとりと、時にスマートに、時にユーモラスに描き出している点であります。

 今の目で見ると怪異の描写にさすがに古めかしさ――というよりシンプルさが感じられる収録作がほとんどではありますが、しかしそれでも「怪談」として見れば実に面白いのは、まさにこの点によるものでしょう。
 たとえば「投げ丁半」という作品――囲い者の女と、その囲い主の親友の男の二人旅という、何とも妖しげな艶っぽさを感じさせるシチュエーションの本作で描かれる怪異そのものは、さほど強烈なものではありません。
 しかしそれが現出するに至るまでの二人の感情の生な、しかしどこか洒脱な動きが絡んだとき、ある種の人間の生の姿を切り取った物語として、本作は成立するのです。

 優れた「怪談」とは単に怪異を描くものにあらず、それを媒介として人間の生の姿を描くもの――そのことを、本書を通じて再確認させていただきました。


 なお、本書に収録された「悪業地蔵」は、新居に越してきた一家が怪異の連続に見回れた果てに、ある地蔵に込められた悪念の存在が暴かれる一編。
 実話ならではの、一見理不尽で意味不明な怪異の裏側に、恐るべき呪いの姿が描かれるという内容は、今日日の怪談ジャンキーが読んでも満足できるものとして、強く印象に残りました。

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2009.11.01

「射雕英雄伝EAGLET」第2巻 見るべきものはアクション描写

 全十九巻の大作である李志清の漫画版「射雕英雄伝」が先日完結したばかりですが、もう一つの漫画版「射雕英雄伝EAGLET」の第二巻が発売されました。

 父の仇を求めて旅する青年・郭靖と、彼の道連れになった少女・黄蓉の二人の冒険行はこの巻でも続き、前半は山中の廃寺に潜む謎の殺人鬼・黒風双殺と二人の対決が、後半では臨安府で開催される武術大会・江南論剣での郭靖と完顔康の対決が描かれます。

 …と、原作読者であればおわかりの通り、今回も、原作とは全く異なるストーリー展開。
 黒風双殺や穆念慈――第一巻のあのキャラがそうだったのか、とちょっと驚きましたが――といった原作のキャラクターを登場させつつも、郭靖や彼女たちが活躍する物語は全く別物であって、原作ファンであればあるほど、違和感は大きいだろうな、と感じます。

 それでは本作が全くつまらないか、と言えばそういうことはなく、特にアクション描写には見るべきものがあるのは事実です。

 例えば郭靖・黄蓉と黒風双殺(ちなみに本作では双殺と言いつつ、妻の梅超風のみが登場。しかも壱原侑子似の美人…なのはこれでこれでよろしい)との戦いでは、郭靖と黄蓉が共に深手を負い、また実力では遙かに及ばないというシチュエーションを設定。
 そこで、黄蓉が練った気を郭靖にそそぎ込み、その力を込めた降龍十八掌を郭靖が放つ! という展開に相成るわけですが、そこに至るまで、文字通り手に手を取った二人が、廃寺の閉鎖空間で強敵を相手に繰り広げる武術アクションの完成度は、これはかなりのものだと感じるのです。

 これで物語の方が、同じくらい盛り上がれば言うことなしなのですが、こちらはまだまだ――と、原作付き作品でこういう感想になってしまうのが何とも残念、というか不思議ではありますが…


 …しかし、武侠ものはまだまだマイナーな世界なのだな、と巻末の解説漫画を見て、いまさらながら感じた次第。

「射雕英雄伝EAGLET」第2巻(白井三二朗&金庸 講談社シリウスKC) Amazon
射ちょう英雄伝EAGLET 2 (シリウスコミックス)


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