「若さま同心徳川竜之助 弥勒の手」 若さま、最大の窮地!?
前の巻からわずか二ヶ月で、「若さま同心徳川竜之助」シリーズの最新巻「弥勒の手」が刊行されました。
今回も全四話構成のミステリタッチの短編連作に加え、ラストで強敵との対決があるという構成ですが、ラストには、今後のシリーズの行方を左右しかねない衝撃的な展開が待ち受けています。
上記の通り、構成的にはこれまで通りの本書、ちょっと意地悪い言い方をすれば、やはり前の巻から間がなかったためか、ミステリ的にみれば掘り下げは今ひとつ…という印象。
不可解な出来事の背後に隠れた犯罪を、竜之助が暴き出すというスタイル自体は全く変わらないのですが、事件のトリックがちょっと大仕掛けで強引な印象が、個人的にはあります。
しかしそれで面白くないかと言えば全くそんなことはないのが今の風野作品の恐ろしいところで、「普通」から半歩踏み出したようなユニークな登場人物たちを、これまたユニークでどこか含蓄のある文章で描き出してみせる風野節の巧みさで、最後まで一気に読むことができました。
特に本書のタイトルエピソードである「弥勒の手」に登場する仏師――人の手から出るオーラめいたものを見ることができる男――の生き様と「正体」を描いた件の味わいには、思わず感心させられた次第です。
さて、本書のいわば剣豪ものパートには、初の実在剣豪としてあの中村“人斬り”半次郎が登場。幕府の威信を体現する葵新陰流を打ち破るため、竜之助を狙って江戸に現れます(ちなみに半次郎のキャラクター描写も、また独特の味わいがあって面白い)。
が――本書のラストで竜之助と対決するのは、半次郎ではなくもう一人の強敵。シリーズを通しての宿敵と言うべきあの男との再度の対決を、竜之助は強いられるのですが…
その対決の果てに訪れた結末は、予定調和的なこちらの予想を打ち砕くような、あまりに衝撃的なもの。シリーズ通して最大の窮地に陥ったともいえる竜之助は、この先迎えるであろう人斬り半次郎との対決にいかに臨むのか。そして、この巻でおぼろげながらに見えてきた真の敵とは…
二桁の大台を目前にして、いよいよシリーズもクライマックスに突入したというところで、やはりなんだかんだ言っても目の離せないシリーズであることに間違いはないのです。
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